[省エネ]追い求めた断熱化の終着点 省エネ住宅が迎える新たな時代

今では住宅の性能を語るうえで「断熱」は欠かせない重要なポイントとなっているが、たかだか40数年前、わが国の住宅は無断熱が当たり前だった。2030年にZEH水準への適合が予定されているが、無断熱からゼロエネレベルが標準になるのに50年かかることになる。「脱炭素」が待ったなしになるなか、いよいよ住宅の断熱化はゴールを迎えることになるのか──。

社会的要請で住宅の省エネが追求

1979年(昭和54年)、わが国で初めてとなる「エネルギーの使用の合理化に関する法律」が制定、翌80年に「住宅に係るエネルギー使用の合理化に関する建築主の判断基準」(省エネ基準)が定められた。背景には73年、78年の2回のオイルショックがあり、「少しの灯油でより暖かな家を」と、「省エネ性」が住宅の性能として初めて大きくクローズアップされたのである。ここで定められた省エネ基準は、現在「昭和55年基準」と呼ばれるものであり、全国を5つの地域性に区分し、それぞれ断熱性や日射遮蔽性などに関する基準を規定した。

住宅金融公庫による割増貸付けの実施、住宅産業界での積極的な取り組みも進んだが、その一方で住宅におけるエネルギー消費は増加傾向が続く。給湯や冷暖房の需要の高まり、つまり日本人の暮らし方が大きくかわるなかで、より多くのエネルギー消費が進んだのである。

さらに、住宅の断熱化が広がったと言っても、まだ黎明期にあり、断熱材の使用が一般化したというだけであり、住宅によって断熱の仕様はバラバラで、断熱材が隙間だらけ、防湿層がないなど杜撰な工事も目立っていた。また、求められる性能も現在からみれば甚だ心もとないものであった。

その後、92年の改正で「新省エネ基準」(平成4年基準)が打ち出され、要求水準が高められる。Ⅳ地域の熱損失係数は旧省エネ基準の5.2から4.2に引き上げられた。

さらに99年の改正で「次世代省エネ基準」(平成11年基準)へと高められた。99年当時、住宅の断熱性能を表すうえで「新省エネ基準」のクリアが一つの目安となっていたが、97年のCOP3(第3回気候変動枠組条約締結国会議)において京都議定書が採択、日本は温室効果ガス削減目標マイナス6%を課せられるなか、住宅分野においてもより一層の省エネ推進が大きな政策課題となっていた。こうしたなかで一段階上をいく省エネ性能へと誘導する目安として「次世代省エネ基準」が策定されたのである。

同基準は、熱損失係数が見直され、Ⅳ地域の熱損失係数は2.7とされた。また、新たに「住宅のエネルギー消費量を示す年間暖冷房負荷の基準」が新設されたことも大きい。高気密・高断熱のみではなく、年間の暖冷房負荷の削減効果も評価されることになり、太陽熱利用など省エネ基準の枠組みのなかで扱うことができるようになった。また、地域区分も見直され、従来の都道府県単位から市町村単位へと改め、区分も6地域と細かく設定した。さらに気密性の向上がシックハウスの一要因との指摘を踏まえ、一時間当たり0.5回以上の換気回数確保も求めた。

省エネ基準の変化(熱損失係数)

断熱性能向上の取り組みが一つの形としてまとまったのが住宅性能表示制度であろう。2000年に住宅の品質確保の促進等に関する法律にともなって導入された「住宅性能表示制度」において、住宅の省エネは「温熱環境に関すること」として位置づけられ、省エネルギー対策等級4等級が示された。性能が一番高い等級4は次世代省エネ基準、等級3が新省エネ基準、等級2が旧省エネ基準に相当し、等級1はその他とされた。

以降、住宅の省エネ性能を示すうえで、この省エネ性能等級が一般的に用いられるようになる。

パリ協定から2050脱炭素へ
大きな岐路を迎えた省エネ化

09年、改正省エネ法が施行となり、新たに「住宅事業建築主の判断基準」が創設されたが、ここで次世代省エネ基準も見直され、施工に関する規定が緩和された。住宅の断熱化を加速させるため、中小事業者でも取り組みやすくすることが狙いであった。例えば、気密に関する条項がなくなり、玄関土間などの断熱化の施工なども省略できるようになった。

また、長期優良住宅、住宅エコポイント、フラット35Sの要件として次世代省エネ基準が位置づけられ、手厚い支援が行われたこともあり、次世代省エネ基準の普及率はそれまでの推計1~2割から翌10年に一挙に広がることになる。

国土交通省、経済産業省、環境省の3省が設置した「低炭素社会に向けた住まいと住まい方推進会議」が2010年に省エネ基準の適合義務化に向けた基本的な考え方、骨子案などを示した。大型建築物から段階的に義務化を行い、最終的に2020年までにすべての新築工事に義務付けるという内容であり、12年には義務化に向けた具体的な工程を発表した。それまで折に触れて指摘、要望されてきた「省エネ基準の義務化」が現実のものとなったのである。


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