過去を反省しての花粉症対策であるべき スギを植えてきたのは「国策」
利用期を迎える国産材を活用して林業の成長産業化に導くにはどのような取り組みが求められているのか。林材ライターの赤堀楠雄氏が地域で芽生える国産材活用の事例をルポする。
本連載40回目の稿で、政府がスギ花粉症対策として、花粉の出るスギを減らすための施策を実行することにした――と紹介した。その内容が明らかになってきている。
大まかに言えば、10年後までに全国のスギ人工林を2割程度減らし、それに伴って増産されるスギ材の利用を確保するために需要を喚起する措置を講じる、というものだ。果たしてその効果はどうか。
スギがだぶつくのが心配になる
現在の木材市況は住宅需要が減少し続けていることを受けて芳しくなく、スギやヒノキの売れ行きは低調だ。価格も値下がり傾向で推移している。北信越のあるスギ製材業者に最近の仕事の状況はどうかと尋ねると、彼は「よくないなあ」とぼやき、「だって家が建たないでしょ」と付け加えた。
国土交通省の発表によると、今年9月の新設住宅着工戸数は68941戸で前年同月比6.8%減、これで4カ月連続の減少となった。このうち持家は1万9527戸で同12.3%減と二ケタの減少となった。しかもこれで22カ月も前年実績を下回り続けている。
先行きの見通しもよくない。少子化や住宅ストックの増加などから、各種調査では新築需要が激減すると予測されており、実際の減少幅がどうなるかは別として、マーケットは間違いなく縮小するだろう。
縮小するマーケットに資材が大量に流れ込めばだぶつくのは必至で、需要喚起の施策が十分な効果を発揮できなければ価格が暴落するのは避けられない。そもそも需要動向を無視してやみくもに生産量を拡大することが得策ではないのは、誰でもわかる経済原理だ。
普通なら需要減には減産で対応しなければならないところに、逆に生産量を増やすというのだから、スギの需要を増やすことに関して政府は重大な責任を負う。
花粉症対策への貢献度を表示?
需要を喚起する策としては、国土交通省が木材に関する利用規制を緩和することにしていて、これは大いにやってもらいたい。
もっとも、以前からこの流れはあったので、政権から花粉症対策を打ち出せと求められたことに対して、すでに予定していた施策を示してお茶を濁した観がなくもないが、まあそれはいい。
このほかの施策としては「国産材を活用した住宅に係る表示制度を構築する」ことと、「住宅生産者の国産材使用状況等を公表する」ことが打ち出されている。いずれも「本年中を目処」とされているので、近く具体的な内容が公表されるだろう。
このうち表示制度については「国産材を活用した住宅のスギ材の活用状況等を分かりやすく表示する」のだそうだが、林業サイドに身を置く立場としては気持ちが穏やかではない。
「伐るのが当然」であるはずがない
連載40でも書いたが、50~60年生に育ったスギやヒノキ、カラマツなどの人工林について皆伐再造林を進める方針が国から打ち出されていることについては、まったくやるなとは言わないが、100年はおろか数百年から千年以上も生きる樹木(スギとヒノキの場合)を50~60年程度で伐採する(命を絶つ)ことを是とする風潮を広げてはいけないと思う。
ましてや花粉を出すという生命体として当たり前の行為をさもよくないことのように規定し、「伐るのが当然」と言わんばかりの態度で臨むのは間違っていると強く訴えたい。
戦後、天然広葉樹林をスギやヒノキの人工林に植え替える拡大造林が大々的に進められたことについては、やり過ぎだったと思うし、その反省から人工林を減らして天然林を増やすというのは納得できる。
花粉症がこれだけ社会に広がっている中では、大気汚染との複合による症状だということを承知しておいてもらった上で、都市近郊の山で花粉の少ないスギに植え替えていくのも、ある程度は仕方ないと思う。
だが、それはスギが悪いからではないし、まだ樹齢が若いのに伐らざるを得なくなったことに対して、人は後ろめたさを抱くべきだし、申し訳ないと思わなければいけないのではないか。
スギを悪者にしてはいけない
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