規制緩和で遠隔巡視の実現を 業務効率化、人手不足解消の一手を提言

住宅・建設業界が抱えるさまざまな課題解決に向けてDXが進む。アナログ規制の撤廃が進められるなか、こうした動きに加速がつきそうだが、なかでもITツールを用いた遠隔巡視は業務効率化、人手不足解消への期待も高い。ただ、新たなルールづくりにはさまざまな課題があるのも事実。政策提言などを行う建設DX研究所・岡本杏莉 代表(アンドパッド 上級執行役員)、セーフィー・渡部郁巴 営業本部副部長に聞いた。

岡本 杏莉
建設DX研究所 代表
アンドパッド
上級執行役員
経営戦略本部長

渡部 郁巴
セーフィー 営業本部
第2ビジネスユニット
副部長

──まず、建設DX研究所の設立経緯から教えて下さい。

岡本 建設業界が抱える諸課題についてDXを推進することで解決の手助けができないか、そのための議論、検討する場として、2021年に色々な会社に声をかけて勉強会を始め、今年1月に任意団体として正式に発足しました。アンドパッドが事務局を担い、セーフィーをはじめとする建設テックのベンチャー企業など全6社で活動しています。

建設業界が抱える課題は深刻です。労働環境が非常に過酷で、それが常態化してしまっている。付加価値労働生産性は低く、長時間労働の環境であるにも関わらず賃金が上がりにくい構造ゆえに若い人が入ってこず高齢化が進み、人手不足は深刻です。また、新たな制度への対応も必要です。生産性の向上、法規制の対応を図る必要に迫られるなか、DXの必要性は日増しに高まっています。

渡部 セーフィーはクラウドによる映像プラットフォームを提供しており、建設業界、特にゼネコン・サブコンの領域では遠隔臨場のツールとして多く採用いただいています。ただ、しっかりとルールを定めておかないと現場でデジタルツールを上手く使いこなせないことから啓発活動などを続けてきています。デジタル庁が目視や常駐などを義務付ける「アナログ規制」の撤廃を打ち出し、法改正が大々的に進む潮流のなか、各社が集まり共通課題を解決するという活動に共感し、建設DX研究所に参画しました。

──建設DX研究所では、どのような取り組みを行っているのですか。

岡本 大きく3つの柱を立てています。一つ目はウェブを通じて、最新テクノロジーや法規制の最新情報などの情報を発信しています。こんな成功事例があるよと、広く情報を届けることで多くの人に興味を持っていただきたいと思っています。二つ目は勉強会。部会という形でメンバーが集まり、情報交換や事例の共有を行っています。住宅・建設業界は非常に広く、現場ごとに要望も異なるため、一つのツールですべて解決できるわけではなく、色々なツールの組み合わせが必要になると考えています。三つ目が政策提言です。国土交通関連の政策に詳しい議員有志による勉強会の事務局を建設DX研究所がやらせていただいています。多岐にわたるテーマを取り上げ、DX推進のためにはこの制度を変えた方が良い、こんな制度の後押しがあっても良いのではないかなど、話し合った内容を元に政策提言をまとめ、関連省庁に提出しています。今年5月にとりまとめた政策提言は大きく3つの柱からなり、遠隔臨場や遠隔巡視の制度、行政手続きのオンライン化や書類の統一化、そしてBIMの活用やデータ活用の推進、をまとめました。

渡部 そのうち遠隔巡視については、労働安全衛生法で定められている一日一回、現場で安全確認を行う巡視義務についての緩和を提言しています。

──遠隔巡視は政府のアナログ規制撤廃の対象となっていますが、どのような議論が進んでいるのでしょうか。

岡本 巡視義務について24年6月までに見直すと公表されており、具体的な要件について厚生労働省が建設業労働災害防止協会に委託して検討を進めています。中間報告をみると、遠隔を可としつつも、現場の人数規模などに応じて、現場巡視とのハイブリッドとすることも要検討とされています。例えば、大きな現場は基本的に一日一回現場に行きつつ遠隔もやる、小規模の現場では基本は遠隔で良いが週に2回以上などの頻度で現場巡視を行うというものです。私たちが事業者にヒアリングをしたところ、特に人手不足が深刻な工務店からは「現実問題として週に2回現場に行くのは大変」、「遠隔巡視をしながら現場に行くとなると、むしろ工数が増える」という声があります。

遠隔巡視の場合、1日1回に限らずいつでも必要な時に見ることができる、経験豊富な技術者が確認できるといったメリットがあります。人手不足が深刻な小規模現場においては、遠隔巡視を基本としつつ、現場に行く必要性や頻度については事業者の判断に委ねるという方法により、事業者の負担を減らしつつ安全性を確保することも可能ではと考えています。追加報告の内容などを踏まえ、建設DX研究所として提言をまとめ、関連省庁に提出したいと考えています。

──現場の実態を踏まえたルール作りが求められますね。

渡部 一人の現場監督が、引渡しまでに一棟の現場に行く回数はおよそ40~50回で、その中には必須の場合とそうでない場合があります。新たなルールは生産性を上げることが目的ですから、これは遠隔でOK、これは現場巡視と、一つひとつ考える必要があるのではないでしょうか。ルール作りはいよいよ大詰めですので、セーフィーとしても事業者の声を聞き、一緒に現場に入って実証していきたいと考えています。

土木工事では遠隔臨場が広く使われており、そのフローを遠隔巡視に転用できないかと検討しています。国土交通省が遠隔臨場を導入した時、「実際にどうやったら良いのか分からない」という事業者が非常に多く、セーフィーにも多くの問い合わせがありました。セーフィーを活用した遠隔臨場を定義してマニュアルや再現VTRを作成して国土交通省や事業者への啓もう活動を続けてきましたが、遠隔巡視においてもフローを提示することが重要だと考えています。ただ、遠隔臨場は材料確認や立ち合いを遠隔で行うためウェアラブルカメラのみで対応が可能ですが、安全管理が目的の遠隔巡視は、作業員が危険行動をしていることなどをしっかり確認できることが求められます。基本的には、固定カメラで俯瞰で見る、ウェアラブルカメラでより細かなところを見る、と網羅的に現場の状況を集約できる仕組みづくりが必要だと考えています。

どんな時に事故が起こるか、やはり業務負荷が高く疲れた時ですよね。負荷を減らすための解決が重要です。安全管理のクオリティを担保するためにも、遠隔巡視のルールづくりの働きかけをしていく必要があると考えています。

岡本 小規模な工務店に話を聞くと、正直、一日一回現場に行くことは実態とそぐわないのではないかという感覚があります。人材が不足していることから、一人の現場監督が何棟も同時に受け持つため、移動しているだけで一日が終わってしまう。そのロスは非常に大きい。遠隔で効率的に現場を見ることができれば、移動の時間を減らし、より高品質の住宅をつくることができると考えています。

IT技術が進化する中、DXの実現により、安全性や品質確保と同時に生産性向上や働き方を実現することが可能になっていくのではないでしょうか。この動きを政策面からも後押ししていくことが重要と考えています。

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