木材とキノコせめぎあい/樹木には神が宿る

木材とキノコせめぎあい

記者仲間の一人が言う。「林業の成長産業化というが、木材生産額は意外に少ないんだな」と。確かに林野庁の統計を見ると令和3年(2021)で林業の産出額は約5457億円だが、このうちの約60%の3254億円が木材生産。そして残りの約2092億円がシイタケ、エノキダケ、マイタケ、ブナシメジなど栽培きのこ類だ。キノコって農産物じゃなくて林産物などとちょっかいも入りそうだが、木材とキノコの産出額の差がそれほど多くないことに驚く。過去を振り返ると、この20年間の両者の差はほとんどなく、ほぼ半々だ。キノコ派の鼻息が高くなるのも無理はないが、木材派に言わせれば、平成元年頃は圧倒的に木材で、87%を占めていた、となる。木材価格の下落が産出額を減らし続けてきた、ということだ。まぁ今はキノコ類が頑張っていると頭を下げざるを得ないということだろう。仲間の記者の皮肉っぽい指摘にもうなずくほかない。

ただ、これは林業の産出額。木材産業という大きな枠で見ると、プレカット製材、集成材、合板・単板、木材チップ、パーティクルボード、繊維板など、木材・木製品製造業の出荷額は令和2年(2020)では約2兆7381億円に達する。加えて木材・木製品製造の付加価値額は約8884億円という。

ただ、ここでは林業という経済的な視点だけではなく、やはり森林という大きな枠のなかで森林が持つ土砂災害防止や水源の涵養、地球温暖化抑制、生物多様化の保全―等々のいわゆる“緑の社会資本”としての機能に目を向けたい。ちなみに20年ほど前になるが、日本学術会議が森林の多面的機能を貨幣評価としてまとめている。それによると、森林は年間約70兆円の価値を持ち、これは森林1ha当たり約280万円になるとしている。日本のGDPは2022年度で実質約550兆円だからこれは約13%ということになる。決して小さくはない。森林機能の大きさが分かるというものだ。“林業の成長産業化”があまり声高に叫けばれてしまうと、森林の持つそれ以上の高い機能の評価が損われてしまいかねないのは要注意といっていいだろう。日本の国土の約7割が森林という山岳国家の日本。自然環境に恵まれ、森林の効用の恩恵を受けながら、恵まれすぎているが故に森林を疎かにしがちな気がする。その点、欧州など世界各国の森林への想いは筋金入りだ。森林と寄り沿うライフスタイルが定着している。


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