世界中の「むずかしい土地」をゼロに 新しい土地活用法で地域に賑わいを

フィル・カンパニー 代表取締役社長 金子麻理 氏

コインパーキングなどの上部空間を活用する「空中店舗フィル・パーク」、ガレージ付き賃貸住宅「プレミアムガレージハウス」などの事業を展開するフィル・カンパニー。2023年2月、代表取締役社長に就任した金子麻理氏は「新しい土地活用法を普及させ場所の価値を最大化することで街の活性化に貢献していきたい」と話す。

フィル・カンパニー 代表取締役社長
金子麻理 氏

──主力事業について教えてください。

当社グループは、Phil=共存共栄を企業理念として、土地オーナー様、入居者、地域にとって三方良しとなる「空中店舗フィル・パーク」、およびガレージ付き賃貸住宅「プレミアムガレージハウス」の2つを主力事業として展開しています。

フィル・パーク事業は、既存のコインパーキングの上部空間や、郊外の駅から離れた場所などの未活用空間に、小型の商業ビルを建て、初期のテナント誘致のサポートまでを含めて企画・提供する事業です。
一般的に駐車場、コインパーキングでは、初期投資のコストは抑えられますが、見込める収益も低くなります。対して、大型の商業ビルは高収益を見込めますが、建設コストがかさみます。フィル・パーク事業は、それらのちょうど中間を狙っています。高い投資効率が見込める新しい土地活用法であると思っています。

フィル・パーク事業では、需要に応じた空間づくり「スペースオンデマンド」を基本としています。案件ごとに徹底したマーケティング調査を行い、土地オーナー様の意向を踏まえ、どのようなテナントが最適なのかを想定して建物を企画、設計します。30坪~50坪前後、3階~4階建てが多く、あえて建蔽率、容積率一杯に建てないこともあります。

飲食、美容室といったサービス業から、フィットネスジム、オフィスに至るまで入居するテナントは多岐にわたります。創業から18年で全国に250棟超のフィル・パークを建ててきました。こういった場所であれば、どのようなテナントがどれぐらいの賃料で入居を希望するのかといったことを熟知しています。地域に根差した小規模な事業者の情報も豊富に持っています。そうした情報を駆使してテナントを誘致しています。

そのほか、建物自体、ハード面においても独自のノウハウがあります。なるべく既存のコインパーキングの車室の数を減らさないで上の建物もさらに収益アップを狙って建物をつくる設計ノウハウを持っています。また、ガラス窓を多用した建物であることもフィル・パークの特徴ですが、これは窓を大きくすることによって、遠くからでもテナントの視認性を高めるためにしていることです。
コインパーキングの上部空間を活用して建物を建てるだけでなく、初期のテナント誘致保証を付けてテナントを実際に誘致する、場合によってはその後の建物管理に至るまで、最初から最後まで土地オーナー様にワンストップでサービスを提供できることが一番の強みです。

1つの土地だけでなく、複数の土地を持っている土地オーナー様は結構いらっしゃるのですが、実際に1回フィル・パークを採用していただくと、その良さをわかっていただきリピーターとなる方は少なくありません。

コインパーキングは全国に約9万9000ヶ所※1あります。それに加えて、利用されてない空き地、空き家、駐車場、資材置き場などを含めた「低未利用地」は4000㎢※2あるといわれています。これらすべてがフィル・パークになりうる、市場になると捉えています。

郊外の土地をガレージ賃貸として有効活用

──プレミアムガレージハウスとは。

1階がガレージ、2階が賃貸住宅という新しい賃貸住宅の形です。一般的に木造では、車2台分を置けるガレージ空間を創出することはハードルが高いのですが、我々のガレージハウスは、軽量鉄骨で車2台を置くことができる空間を確保できることが強みです。

コロナ前は、愛車を野ざらしにしておけない、ちゃんとガレージに置きたいといった車好きの人たちを主なターゲットとしたニッチなニーズを狙ったものでしたが、コロナを経て、昨今のライフスタイルの多様化を背景にガレージハウス入居者のニーズも多岐に変わってきています。単に車を置くスペースというわけでなく、趣味の場所として使いたいというニーズが高まっています。そうした多様なニーズに応える空間を提供するとともに、当社独自の入居待ち登録システムを活用し、ガレージハウスの建設に加え、入居者募集までワンストップで担うことで土地オーナー様に対して安定的な土地活用を提供しています。

フィル・パーク横須賀

入居待ち登録システムは、既存のガレージハウスに入居したい、あるいは、新しくこうしたエリアにできたら入りたいといった入居希望者が登録できるもので、現在6700件※3以上の登録があります。ピンポイントで需給のマッチングを行うことができ、その結果として現在入居率は97・3%※4となっています。コロナ禍後、経営資源を積極的に投下してプレミアムガレージハウス事業にドライブをかけました。全国で479戸に拡大しています。

ガレージハウスは、車があることを前提とした賃貸住宅なので、駅の近くでなくてもいい。従来アパート、マンションを建てていたエリアにとらわれずに建てることができます。郊外地で、例えばインターチェンジの近くとか、幹線道路の近く、海のそば、といった場所の方が適しています。そういった意味ではこれも新しい土地活用の手段と言えます。

サステナビリティ宣言
住み続けられる街づくりに貢献

──2023年1月、「サステナビリティ宣言」を策定しました。

「世界中の「むずかしい土地」をゼロに。」というスローガンを掲げました。世界中から「むずかしい土地」をなくしたい。当社グループは本気でそう考えています。

「少し駅から遠い」「土地の形が使いにくい」などの理由から人の流れが少なく、活用が難しいために手付かずになり、賑わいや光を失ってしまっている場所があります。そんな場所を私たちは「むずかしい土地」と位置付けこれまでに数多くよみがえらせながら人々の活気やよろこびが途絶えることのない住み続けられるまちづくりに貢献し続けてきました。環境に配慮しながらまちの課題を解決し地域に持続的な賑わいと灯を創り出すという「むずかしい土地の再生」を繰り返す。その再生の循環がひと・まち・社会を活性化させ続けやがて世界の未来を変えていく大きなうねりになる。そんな信念と情熱、そして私たちの使命を表すサステナビリティ宣言です。

サステナビリティ宣言で示す「むずかしい土地の再生」と循環の概念図

街の一歩裏通りにあるような土地、一般的にはちょっと商業ビルにするには難しい、いわゆる「むずかしい土地」をコインパーキングとして暫定活用するケースは増えていますが、長らくコインパーキング以上の土地活用の手法が生まれてない。世の中に浸透していない。そこで街の発展が止まり、魅力が失われ悪循環に陥ってしまう。こうした状況を我々は社会課題と捉えています。その社会課題に対して独自の切り口で何とかしていこうというのが我々の事業の価値であると思っています。

結局、土地活用は難しいということなのだと思います。二人三脚で土地オーナー様の背中を押すところまでサポートしないと、なかなか最後までやろうとはならない。フィル・パークをはじめとする新しい土地活用法を普及させ、新しい建物をつくり地域の賑わい創出に貢献していきたいと考えています。

フィル・パークは、重量鉄骨でスピーディにシンプルに構造躯体をつくり、あとの内装などは全部テナント各社にやっていただいています。重量鉄骨でシンプルにつくっているので暫定活用にも向いているし、長く使うこともできる。また、鉄は金属の中でもリサイクルがしやすい。最近はCO2を抑えてリサイクルできる技術開発も進んでいます。その街のニーズに合わせてつくり、使命を終えたら、なくしてもいいしそのまま使ってもいい、違う使い方もできる。サステナビリティの街づくりに非常に適しているとも考えています。

一番大事なのは創造力
ダイバーシティを推進

──女性ならではの視点をどのように会社の舵取りに生かしていくのでしょうか。

私たちは建設業や不動産業の担い手とは考えていません。創業時から自分たちで新しいサービスを生み出していくということをやってきました。創造すること、クリエイションが一番大事なことであると考えたときに、やはりいろんな視点が必要になる。そのためにはこの会社を担っていく人々のダイバーシティを大切にしていく必要があると思っています。

会社の存在意義や、事業の独自性に共感して一緒にやっていきたい、そういった志を持つ人たちの集団にしていきたいと思っています。今年、社内調査を行ったところ、会社の存在意義や事業が目指すものへの共感度は非常に高いポイントが出てきました。やはりみんなそういった志を持ってやってくれていることを調査で改めて確認できました。ビジネスによって社会課題を解決するというところに意義を見出してくれている社員が多いことはありがたいことですし、会社の強さに直結するものだと考えています。

(聞き手:沖永篤郎)