地方都市の開発で周辺地域の地価が急騰
住宅地の地価は上昇が続く
国土交通省の「令和5年都道府県地価調査」によると、全国的に地価上昇が広がっている。住宅地では都市部とその周辺で上昇しており、特に地方都市周辺での再開発を背景にした伸びが大きい。
国土交通省は全国2万1381地点(宅地:2万947地点)を対象に、2023年7月1日時点の価格を調査し、「令和5年都道府県地価調査」として発表した。全国平均は、全用途平均で2年連続上昇、三大都市圏平均、地方圏平均ともに住宅地・商業地で上昇している。コロナ禍からの回復傾向が全国的に進み、また、金融緩和政策などが需要を下支えしているとみられる。
住宅地の圏域別に見た平均変動率は、東京圏・大阪圏・名古屋圏でそれぞれ2.6%、1.1%、2.2%の上昇で、上昇率も拡大した。地方圏は全体で0.1%の上昇で、31年ぶりに上昇となった。そのうち地方四市(札幌市、仙台市、広島市、福岡市)の平均変動率が7.5%と大きく上昇し、11年連続で上昇した。一方で、地方四市を除くその他の地域の平均変動率は▲0.2%と下落が継続しているが、下落率は縮小している。
住宅地の上昇率が高い都道府県は、上から沖縄県(4.9%)、福岡県(3.3%)、東京都(3.0%)、千葉県(2.5%)、北海道(2.2%)、神奈川県(2.1%)、愛知県(2.1%)となっており、別荘地としての需要が回復傾向にある沖縄県以外では、主要都市を中心に地価が上昇している。また、上昇率が高い県庁所在都市は、上から札幌市(12.5%)、福岡市(8.2%)、仙台市(7.1%)であった。
都市部など生活利便性の高い地域で地価上昇が継続するなか、都市部の地価上昇に伴い周辺部にも地価の上昇範囲が広がっている。特に、地方四市の中心部の地価上昇の影響が周辺の市などに波及し、高い上昇となっている。例えば、住宅地の上昇率が8.2%の福岡市の周辺市町では、古賀市で11.2%、小郡市で10.1%、大野城市で8.9%、宇美町で8.2%、須恵町で7.3%の上昇となった。
地方都市周辺の地価上昇には、大手デベロッパー各社が「テレワークの浸透などにより生活スタイルの多様化が定着し、郊外の駅近や再開発エリアの販売好調が継続している」(三菱地所・中島篤 執行役社長)、「地方中核都市においては、中心市街地の再開発ニーズは高く、実現性の高い提案実施により積極的な参画を続ける」(野村不動産・松尾大作 代表取締役社長)とコメントしており、再開発による需要の高まりも要因の一つだ。実際に、県として住宅地の地価上昇率が高い神奈川県では、横浜市において再開発が進められている。23年3月には相鉄線・東急線の相互乗り入れが開始するなど交通利便性も向上しており、横浜市神奈川区で14.6%、港北区で14.4%と高い上昇を見せている。
さらに、「2030年度の北海道新幹線の札幌駅への延伸を見据え、札幌駅周辺を中心に市内で開発が進んでいるほか、札幌市近郊部の住宅地、商業地にも地価上昇の流れが波及している」(東急不動産・星野浩明 代表取締役社長)というように札幌市周辺での地価上昇は著しく、全国の住宅地における上昇率のトップ10に、北広島市、恵庭市に所在する3地点がランクインしている。
同じくトップ10には沖縄県の宮古島市や恩納村が入っているが、国土交通省では観光需要の回復により県内外からの移住や別荘需要が高まったことが要因としている。
そのほか、北海道千歳市や熊本県菊池市、大津町など大手半導体メーカーの進出が決定した地域で、関連企業も含めた従業員向けの住宅用地などの需要、関連企業の事務所用地などの需要が旺盛となり、住宅地、商業地、工業地ともに高い上昇となるなど、企業の進出が地価の上昇を誘引したケースもあった。
地方圏では需給バランスの崩れも
一方で、全国の住宅地における下落率順位表では、1位から10位までを石川県と北海道の基準地点が占めており、北海道においては地区によって地価が二分していることがわかる。
住宅地の価格上昇について、大和ハウス工業マンション事業部の角田卓也 事業統括部長は「首都圏において用地価格は昨年以上に上昇している。用地減少に伴いデベロッパー各社が計画通りの仕入れができていないため、高値圏での争奪戦となっている。地方圏においては、一部の中核都市の価格が上昇している。地方部への外部デベロッパー流入により、結果として用地高騰につながっているが、エリアによっては需給バランスが崩れて販売不振に陥っている」とする。また、都市圏についても「低金利環境や住宅取得支援策などが下支えとなり、需給の均衡が何とか保たれている」(住友不動産・仁島浩順 代表取締役社長)との慎重な見方もある。
住宅地の地価上昇が続くなか、その影響もこれまで以上に大きくなりつつある。住宅の資材価格の高騰などもあるなかで、地価上昇による住宅取得環境のさらなる悪化が懸念される。
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