魅惑の小瀬の鵜飼/鵜が難儀で鰻に
魅惑の小瀬の鵜飼
〈おもしろうて やがてかなしき 鵜舟かな〉。
芭蕉のあまりに有名な句だが、真夏よりも9月に入って小さな秋をあちこちで見つけられるようになってから思い浮かべることが多い。鵜飼見物のいわば楽しいひとときが終わり、鵜舟の漁火が消えての寂しさがうたわれたとの見方もあろう。だが、それ以上に、鵜が懸命に捕った鮎を吐き出させられる姿を思い起こしての悲しさをうたったとの解釈だってできるのでは―。それは同時に、夏のあとを受けて秋に向かう一抹の寂しさを吐露しているようにも思うのは読みすぎか。
鵜飼となればやはり長良川が有名だが、個人的には長良川の上流、関市の“小瀬鵜飼”が好きだ。何しろ、長良川鵜飼がすっかり観光化し、観光船が重なりあうような見物となり、鵜が鮎を捕る様子など殆んど見ずじまいになってしまうことが多い。
対して小瀬鵜飼は昔ながらの漁法が伝承されている。宮内庁式部職として国家公務員でもある鵜匠の風折烏帽子、漁服、胸あて、腰蓑という古式ゆかしい装束はもとより、漆黒の闇の中、かがり火の炎だけが燃える鵜舟。手こぎの船頭と鵜匠との息のあった絶妙の鵜匠の鵜を操る手縄さばき、そして鵜が捕えた鮎を素早く吐き篭に。そして小瀬鵜飼の何よりの魅力はこの一連の幻想的なショーを“狩り下り”といって鵜舟と観光屋形船とが並走しながら間近かで見られることだ。かがり火の熱とはじける火の粉、鵜匠のかけ声、舟縁をたたく音など、暗闇のなかに浮かび上がる鵜舟の姿と静かな音の響きは感動的ですらある。わずか20分足らずの“狩り下り”であるが、やみつきになる人は多い。
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