建物のZEH化、4号特例縮小などで新たな局面を迎える耐力壁

高性能化などに伴い、住宅の重量化が進むなかで、国土交通省ではZEH水準等の木造建築物に求められる壁量の見直しに着手している。また、2025年4月に迫った4号特例の縮小に向けた動きも出てきている。
こうした中で、住宅の構造躯体を構成する重要な要素である耐力壁が新たな局面を迎えようとしている。

ZEHで必要な壁量が増加
構造計算の実施に伴い仕様見直しも!?

脱炭素社会の実現に向けて、ZEH化が急速に進む一方で、太陽光発電システムの搭載などにより住宅が重量化し、現状の設計では壁耐力が足りない可能性が指摘されている。

(一社)環境共生住宅推進協議会の「戸建住宅の太陽光発電システム設置に関するQ&A」によれば、住宅屋根に太陽光発電システムを設置する場合、架台を含めた太陽電池の重量は4kWシステムの場合で約400~550㎏相当。ここに、樹脂サッシやトリプルガラス仕様の高断熱窓の採用、付加断熱による断熱材使用量の増加などが重なることで、従来の構造躯体の仕様では強度不足になる懸念があるのだ。

こうした状況を受け国土交通省は、22年10月に「木造建築物における省エネ化等による建築物の重量化に対応するための必要な壁量等の基準(案)の概要」を公表。建築基準法施行令等の改正を行い、ZEH水準等の木造建築物に必要な壁量等の基準(ZEH壁量等基準)を位置づける方針を掲げた。

具体的には、壁・柱の構造基準(壁量計算・柱の小径)の見直しを検討している。

このうち壁の構造基準では、①壁量計算における必要な壁量の基準について、建築物の荷重の実態に応じて計算により求める精緻な方法(必要な壁量が簡単に把握できる早見表を活用予定)を新たに位置づけること、②現行の壁量の確認方法に、新たにZEH水準等の建築物に対応する基準を追加すること、③許容応力度計算など構造計算により安全性を確認する場合は壁量計算を省略可能とすることなどを検討している。

こうした基準の見直しにより、今後必要な壁量は現在の1.3倍~1.4倍になるのではないかとの見方もあり、「省エネ化による重量の増加で、住宅には今まで以上の壁耐力が求められることは間違いない。しかし、この問題は一部の先進的なビルダーの間では周知の事実だが、業界全体ではまだまだ認知度が低く、今後いかに問題提起を図っていくかが重要な課題」との声が挙がっている。

一方、25年4月から4号建築の特例が事実上廃止になる。これまで4号建築として多くの住宅が許容応力度計算などによる構造計算は不要とされてきた。しかし、改正後は「新2号建築物」として、構造関係規定などの図書や省エネ関連の図書を提出することが求められることになる。その結果、構造計算が必須になるわけだ。

耐力壁の壁倍率は、壁量計算する場合が5、許容応力度計算など構造計算する場合が7を上限としている。それだけに、4号建築の特例の縮小に伴い、あらためて耐力壁の仕様を見直そうという機運が高まる可能性がありそうだ。

こうした動きの中で、耐力壁を提供する企業では、今後の動向も予測しながら、新たな商品・技術開発や営業強化などの動きを見せはじめている。

構造用合板「ネダノン」
許容応力度計算なら壁倍率7倍に

木造住宅における耐力壁は、主に筋かいと耐力面材に分かれる。かつては筋かいによる施工が比較的多かったが、耐力面材は規定された間隔を空け、釘で固定するだけで均一の性能を確保しやすいという利点があり、施工の合理化や性能確保などの面から近年では採用数が増加している傾向がある。

耐力面材には木質系と無機質系があるが、特に筋かいからのシフトを牽引しているのが木質系だ。特に、構造用合板はその筆頭と言える。合板は、木材の単板を繊維方向が直角になるように、3枚以上交互に接着した素材。大きな面材を生産できることから、壁や床、屋根の下地材などとして使用されている。

木質系構造用合板の筆頭と言える構造用合板。コストを抑え、かつ手軽に壁耐力を高められる

日本合板工業組合連合会(日合連)が中心となり、その傘下各社が共通の商品名で生産するJAS構造用合板(24㎜厚、28㎜厚以上)の「ネダノン」は、水平構面としての性能が高く、もともとは床用構造材として開発された。しかし、近年では手軽に住宅の耐震性能を向上できる点が評価され、構造用壁材として壁や屋根の下地材としての採用が増加している。

例えば、厚さ24㎜の「ネダノン スタッドレス5+」は、現行の法制度で定める壁倍率の上限値5.0倍の大臣認定を取得しているが、実力値では5.9倍~7.0倍相当の耐力を有しており、許容応力度計算ルートや非住宅の設計においてはこの数値を基に設計をすることができる。

一般流通材として簡単に入手できるため、調達コストが抑えられるほか、施工に特殊な技能も必要なく、新築、リフォームに関わらず手軽に壁耐力を高められることが特徴だ。

また、日合連では今後需要が高まることが予想される非住宅分野・中層大規模建築分野向けに、従来の厚物合板(厚さ30㎜程度)を超える厚さを持つ「超厚合板(ちょうあつごうはん)」(CLP:Cross Layered Plywood)の開発に着手している。合板に関するJAS規格の改正や建築基準法への適合などを目的に、技術・製品開発を随時進行し、新たな用途開発に注力している。

生産増強を急ぐパーティクルボード
「novopan STP Ⅱ」が好調

PB(パーティクボード)などの繊維板も耐力面材としての需要が高まっている。合板の2倍超のせん断剛性を持つほか、ねばり強いことなど性能面で利点が多く、反りにくいことや、表面が硬いことで釘がめり込みにくいなど、施工時にトラブルになりにくい。

また、18年3月に木造軸組工法における耐力壁の改正告示が施行され、高倍率の耐力壁に厚さ9㎜の構造用PBなどが使えるようになり、取扱いメーカーが増加。高倍率の仕様が増え、使いやすい環境整備が進んだことで存在感が強まっており、ビルダーなどによる採用が増えている。

ただ、ウッドショック下で値段が急騰したOSBや合板からの代替需要としてPBが注目され、フル生産を長らく続けてきたが、在庫のひっ迫状況は改善されず、供給能力が追いつかないという問題が露呈した。住宅の重量化への対応、4号建築の特例の縮小といった今後の動向を見据えると、生産力の増強が喫緊の課題となっている。

この課題の解決に期待がかかるのが、国内最大のPBメーカーの日本ノボパン工業と内装建材メーカーであり、PB製造の老舗メーカーでもある永大産業が合同出資を行い、19年に設立された合弁会社「ENボード」だ。この合弁会社では、静岡県に新設した国内最大のPB工場を建設しており、22年11月から商用生産を開始、今年度中にもフルキャパシティでの生産(月産1万5000t)を開始する見込みだという。「ENボードの静岡工場をいち早くフル生産体制に移し、PBの供給不足の解消を図っていきたい」(日本ノボパン工業・営業本部・営業推進部・服部和生部長)。

さらに、日本ノボパン工業では、構造用PB「novopanSTPⅡ」を主力商品として製造・販売している。04年に大臣認定を取得し、07年に「STPⅡ」へのバージョンアップを実施。床勝ち仕様や高倍率の認定も取得するなど、使い勝手が向上した。発売当初から売り上げは順調に増加しており、住宅1棟あたり70枚を使用すると換算した場合、23年3月時点で累計採用棟数は約90万棟に達する。

「一度採用してもらえればその良さが伝わり、リピートしていただけることが多い。そのため、初めての採用先にいかに訴求していくかが重要。また、今後は『novopanSTPⅡ』の技術を応用し、戸建リフォームや非住宅向けの新商品開発も視野に入れている。新たな需要先を創出することで減少する新設住宅着工戸数へ対応していく」(服部部長)方針だ。

リピート率が高く、特に現場の施工者から高い支持を得ている日本ノボパン工業の「novopanSTPⅡ」

狭小住宅向けのニーズが高まる
在来木造のシステム化も促す「タフボード」

ビスダックジャパンは、約10年前に柱間にはめ込み、釘で留め付けるだけで施工が完了する木造軸組工法用の耐力壁「タフボード」を開発し、順調に販売実績を伸ばしている。住宅の重量化も相まって、問い合わせ件数や売り上げが急増しているという。特殊な材料は一切使用せず、木質系面材、製材というシンプル部材のみを組み合わせて高耐力を実現している。

「『タフボード』は、特殊な金物などは一切使用せず、木質系の面材や製材のみを組み合わせるシンプルな設計が特徴で、施工性の高さが支持を集めている。この点が工務店の間でも口コミで広がっているようで、問い合わせから受注に順調につながっている」(ビスダックジャパン・開発担当・髙島章氏)。

幅900㎜で壁倍率4.5倍の大臣認定を取得している「タフ900」をはじめ、幅600㎜で壁倍率3.8倍の「タフ600」、幅455㎜で壁倍率3.5倍の「タフ455」の3種類をラインアップしている。

袖壁や、狭小の耐力壁など、これまで耐力壁としてカウントできなかったところの柱間に、タフボードをはめこみ施工をするだけで耐力を確保できるという特徴も備えており、最近では「狭小住宅でも高耐力を確保したい」といったニーズが増加しており、幅455㎜の製品の引合いが増えているという。

同社では、タフボードを組み合わせたパネルによって、木造在来工法をシステム化した「在来軸組パネル構法」も展開している。床、壁、間仕切り、小屋、屋根、天井という構造躯体を構成する全ての箇所をパネル化することが可能で、壁用のパネルは外壁下地や開口部材を施工された状態で現場に搬入される。現場ではプラモデルのように、パネルを施工していくだけで容易に上棟まで行える。一般的なプレカット材よりも上棟までに施工時間を半減することも可能だという。

壁用のパネルは外壁下地や開口部材を施工された状態で現場に搬入できるビスダックジャパンの「在来軸組パネル構法

雑壁からの置き換えで重量化に対応
許容応力度計算で生きる「新・つくば耐力壁」

タナカとつくば創研が共同開発した「新・つくば耐力壁」も狭小耐力壁の引き合いが増えている。これは柱芯間450㎜幅で壁倍率5.0倍相当の耐力を確保できる狭小耐力壁。455㎜、500㎜サイズもラインアップしており、従来の耐力壁から変更することにより設計の自由度を高めることができる。また、面材として構造用合板、MDF、パーティクルボードなどを組み合わせることも可能で、この場合、壁倍率を最大6.91倍まで高めることができる。

21年11月に(一財)日本建築センターの評定を再取得し、適応木材の種類を国産スギ集成材などにも拡大したことで使い勝手が向上。大手ビルダーをはじめ全国で採用件数が増加している。

また、施工性の高さも魅力のひとつ。専用の柱脚金物や柱材へのプレカット加工が不要であるなど、従来の筋かいと同様の感覚で施工できる。

タナカでは、壁長の短い雑壁を「新・つくば耐力壁」に置き換えることで、住宅の重量化に対応する壁量を確保することは可能になると見ており、今後、ニーズが高まることを期待している。

なお、「新・つくば耐力壁」を採用するには建築基準法で定める許容応力度計算による構造計算が必須となる。そのため、4号特例の縮小によって採用が増えることを期待しているという。

タナカの「新・つくば耐力壁」。壁長の短い雑壁を「新・つくば耐力壁」に置き換えることで、住宅の重量化に対応する壁量を確保することが可能

住宅の重量化への対応と4号建築特例の縮小という大きな潮流の中で、新たな局面を迎えようとしている耐力壁。住宅の性能に大きな影響を及ぼす部位であるだけに、今後の各メーカーの動きにも注目が集まりそうだ。