2023.4.21

YKK AP、新ビジョン「Evolution 2030」を発表

木製窓の開発や断熱商品のトータル提案など

今後の方針について、魚津彰新社長は、木製窓の販売や、窓に加えて構造材や工法、コンサルティングをひとまとめにした「外皮トータル断熱ソリューション」など、これまでの事業にとどまらない新たな事業への挑戦を明らかにした。

魚津彰新社長は「2030年度以降の売上高1兆円規模を目指す」と意気込みを
語った

4月1日付で社長に就任した魚津彰氏は、2030年に向け「Evolution 2030 Architectural Productsの進化で、世界のリーディングカンパニーへ」のビジョンを掲げた。具体的には、「地球環境への貢献」、「新たな顧客価値の提供」、「社員幸福経営」の3つの方針を軸に進めていく。

なかでも、大きなポイントとなるのが、「新たな顧客価値の提供」についての取り組みだ。主に、高断熱化の推進と、商品のトータル提案を強化する。

そのひとつが、木製窓の開発、販売だ。

木製窓については、2021年より、全国で木材の加工や販売を行う木材・木建具事業者と連携し、木製内窓の普及促進をサポートする取り組みを開始。木製内窓専用の部材・部品を開発・提供することで、各事業者による木製内窓の商品化を支援してきた。これを基盤に、新たに価格の高い木製窓を自社で工業製品化する。2024年度に住宅用、それ以降にビル集合住宅用の販売開始を予定している。

同社の販売窓数に対する素材構成比率は、2022年度でアルミ窓 24%、アルミ樹脂複合窓 44%、樹脂窓 32%を推定しているが、これを2030年度にはアルミ樹脂複合窓 30%、樹脂窓50%、木製窓20%と、高断熱窓を100%にする目標だ。アルミ窓は、等級5を目指す住宅の増加に伴い採用が減っており、生産数によっては今後アルミ樹脂複合窓よりも価格が高くなる可能性もあるとし、随時アルミ樹脂複合窓に集約していきたいとした。

木製窓の価格は、現時点では樹脂窓の4~5倍となっているが、樹脂窓の2倍程度の価格まで下げられるよう開発を進める。魚津社長は「現時点で木製窓は非常に高級なものとなっており、日本の市場は1万~2万窓。私たちは、工業化してできる限りコストを下げることで、市場拡大を狙いたい」と木製窓市場への参入に意欲を見せた。まずは、東北製造所、黒部越湖製造所でラインを立ち上げ、木製窓の浸透を図る。

木製窓は、海外市場でも業務提携やM&Aなどで展開していきたい考えだ。

また、高断熱窓を軸に、壁、屋根、基礎などの断熱構造商品や設計、工法、コンサルティングなどを組み合わせた「外皮トータル断熱ソリューション」を打ち出す。同社はこれまで、高断熱窓の普及に力を入れてきたが、窓だけでは快適性や耐候性などで満足な断熱性能を達成できないとし、家一棟丸ごとの断熱推進に舵を切る。

エクステリアに関しても、商品単体の販売ではなく、建物・外構をつないだ空間デザインのトータル提案を進める。ウォールやガーデンエクステリアに加え、植栽や石材、照明など街並みや暮らし方を含めた提案とする。

このほか、現状で市場シェアの低いインテリア建材を伸ばすために、アルミインテリア建材を、マンションやオフィスビルなど新たな領域で販売強化。建物の特性や使用用途に合わせた商品の開発を計画する。

ビル事業では、集合住宅用のアルミ樹脂複合窓や、アルミサッシの中に断熱材を入れた、非居住向けのアルミ形材断熱窓の販売で高断熱化を図るほか、中層建築物に向けてガラス入り工場完成品のカーテンウォール「ユニタイズドCW」を提案し、省人化や工期短縮、安全確保などの付加価値を訴求する。また、2023年度よりグローバルCW本部を立ち上げ、アジアや欧州での同商品の販売拡大、市場参入を見込む。

一方、「地球環境への貢献」では、国内、海外の自社からのCO2排出量(2013年度比、scope1+2)の100%削減目標を10年繰り上げ、2040年度の達成を目指すとした。創エネ設備の導入や、水素やアンモニアを活用した燃料転換を行い、2030年度には80%のCO2削減を想定する。

scope3への取り組みとしては、国内樹脂材を2024年度までに社内品でリサイクル100%へ、国内アルミ材を2030年度までに社外品含めリサイクル100%にしていく。アルミリサイクル材に関しては、溶解炉の設備更新を2030年までに全施設で行い、リサイクルの効率化を図る。樹脂のリサイクル材に関しては、まだ技術が確立しておらず、確立し次第、社外リサイクル材を含めた2030年度の目標を定めるとした。

こうしたサステナビリティへの投資は、2023年~2030年度で国内、海外合わせ500億円を予定している。

「社員幸福経営」では、「善の循環」に則り、働きやすい職場環境の実現や、社員への成長機会の提供、雇用を生み出す経営を目指す。こうした内容を含めた「YKK AP人権方針」を4月に公開した。

世界のリーディングカンパニーへ
売上高1兆円規模を目指す

2022年度は資材高騰など厳しい状況をうけ、同社の売上高は5064億円、営業利益率は2・9%を推定している。2023年度について売上高5479億円、営業利益率5・0%を計画。さらに、既存事業を成長させ、新たな施策を行う中でより高い目標を設定するとし、2025年度~2028年度の第7次中期経営計画を経た2030年度以降には売上高1兆円(国内7000億円、海外3000億円)、営業利益率10%以上の企業を目指すとした。「売上高1兆円という目標を達成するために、次期リーダー層によるプロジェクトを始動した。何をすべきか、どうしていくべきかをプロジェクトで落とし込み、2025年以降の中期計画に反映させる」(魚津社長)と、世界のリーディングカンパニーへ向けた、第一歩を大きく踏み出した。