2023.4.3

数値で測れるパフォーマンスではなく居住者の共感に訴える建材開発を

法政大学 デザイン工学部建築学科 教授 網野禎昭 氏

法政大学 デザイン工学部建築学科
教授 網野禎昭 氏

──〈プレミアム住宅建材50〉のうち、特に注目する建材を挙げてください。また、注目する理由、どういったところを面白いと思ったのかを教えてください。

1つ目は、私が開発に関わっているということもあるのですが、長谷川萬治商店の「DLT」です。ヨーロッパでは中小規模の企業が、低質な製材を並べて釘打ちや木ダボで積層する「ブレットシュタッペル」と呼ばれるものをつくっています。長谷川萬治商店の長谷川泰治社長らと共にヨーロッパを視察し、ブレットシュタッペルなどを参考にして日本で製品化したのがDLTです。

簡単に言えば、板を並べて木ダボで積層するだけですから、高度な技術は必要なく、設備投資がかからない。CLTみたいに、大規模な設備投資は不要なので、多品種少量生産ができるのです。例えば、こんな木が余っているから、それを利用してDLTをつくり、床や天井、壁の用途で使おうといったことが可能です。製材所が取り置いた端材を使い、注文に応じてつくることもできるし、大工さんが板を買ってきて現場で組むこともできる。このように、製造方法に幅があり、設計者や住まい手と一緒になり、オリジナルな表情のDLTをつくってみたいねという声に応えられることはすごく面白いと思っています。

製材所は、角の丸まった材などいわゆるB材を積極的に使っていくことで、これまでは廃棄していた木材も販売できるようになる。できるだけ無駄を出さず木を使い切り、歩留まりを高めることによって付加価値を上げることができる。日本では木材の消費量を増やしても歩留りが悪いので、川上の林業が受け取る利益が増えるという状況になっていませんが、DLTは林業に還元される利益を上げていくことにも貢献する製品であると思っています。

一般的に木質製品というと、構造的、物理的なハイパフォーマンスを求められます。しかし、このDLTで大切なのは、そういうすごさ、技術的なパフォーマンスは求めていないことです。強度は弱くなるが、環境のことを考えて木ダボにこだわる。多品種生産による付加価値を求めて色々な板を使えるようにする。だからCLTのように高強度でもないし、大量生産にも向かない。いわゆる工学的な効率性では測れない価値なのです。確かに施工性も強度も上げないといけない、求められている仕様を達成しないといけない、といった役割が建材には求められますが、新しい役割もあると思います。森林資源を活用し、木材を良い方向で活用していかなければ、森林の維持、中山間地域の雇用もままならなくなる。こうした問題に対して、DLTは貢献できる役割を持っています。生活を通して環境づくりに参加し、貢献していきたいという消費者は少なくないはずです。必ずしも数値で測れるパフォーマンスが高く、経済的なものがよしとされるのではなくて、製品づくりをとおして、現在の環境問題や社会問題に向かって答えを出そうとしている企業の理念が消費者の共感を呼ぶ。そんな時代になりつつあるのかなと私は思っています。


この記事はプレミアム会員限定記事です。
プレミアム会員になると続きをお読みいただけます。

新規会員登録

(無料会員登録後にプレミアム会員へのアップグレードが可能になります)

アカウントをお持ちの方

ご登録いただいた文字列と異なったパスワードが連続で入力された場合、一定時間ログインやご登録の操作ができなくなります。時間をおいて再度お試しください。