これからの時代の防蟻対策 住宅の高断熱、長寿命化に向けて

住宅の長寿命化を進めるうえで欠かせないシロアリ対策。
シロアリにより構造材が侵食されると、耐久性が低くなり地震などで倒壊する可能性が高まる。
近年、地球温暖化の影響を受け、温暖な場所に生息するシロアリが北上し、被害が拡大している。
また、高断熱化された住宅はシロアリにとっても住みやすい環境だ。市場環境の変化の中で、シロアリ対策も多様化している。

施工性、居住者の健康など
様々な角度からのアプローチ

住宅の長寿命化の流れのなか、長く住まえる住宅に欠かせないのが防腐・防蟻対策だ。地球温暖化の影響によるシロアリの北上や、外来種のアメリカカンザイシロアリの出現により、年々シロアリ被害は拡大傾向にある。ニーズの高まりを受け、様々な方面から新たな提案がなされている。防蟻効果はもとより、居住者や施工者の健康、施工性などに配慮した取組みが進んでいる。国による木造化の推進もあり、防蟻対策は今後さらに重要度を増しそうだ。

日本ボレイトは、責任施工によるホウ酸処理「ボロン de ガード」を展開する。ホウ素系薬剤は人や環境に優しく、水に触れない限り、成分が揮発・蒸発することがないため、効果が長続きすることがポイントだ。このホウ素薬剤を混ぜた気密シーリング部材「ボレイトシール」や気密パテ「ボレイトフィラー」を用い、配管部や基礎断熱の接合部などシロアリの侵入口となる隙間を埋める。さらに、万一シロアリが侵入した際の対策として、躯体へのホウ酸処理を行うことで対策を強化する。同社は、新築に施工する場合10年目に定期点検を行うことを条件に15年間の保証を実施している。また、2023年4月1日以降に「ボロン de ガード」を施工した既存住宅について、従来5年保証だったものを、5年目に定期点検を行うことで10年間の保証を可能にするサービスを開始した。

エコパウダーが販売するホウ素系薬剤「エコボロン PRO」は、ホウ酸の濃度と、木材への浸透性に強みをもつ。ホウ素系薬剤は、ホウ酸を水に溶かして安定させたものとなるが、通常、ホウ酸が水に溶ける量は5%ほどだという。同社は、ホウ酸の濃度が10%を切ると確かな防腐・防蟻性能が得られないとし、木材保存用途で使われる水に溶けやすいホウ酸を使用することで、15%の濃度で安定させている。また、水に溶かしただけのホウ酸は木材が含む油にはじかれて浸透しづらく、効果を十分に発揮できない。そのため、不純物の多い水道水ではなく精製水を使い、安全な添加剤を2%混ぜることで、浸透性の高い薬剤を実現した。齋藤武史専務取締役は「現場での希釈作業は濃度などの品質が担保されない。輸送コストはかかるがあらかじめ希釈した商品にすることで品質を保っている」と、同商品の質のよさをアピールする。ただし、ホウ酸での防蟻は、シロアリが木材を食べた場合にしか効果を発揮できないため、外壁や断熱材からの侵入を防ぎきれない。特に、暖かく齧りやすい断熱材は、シロアリが活動するのに好適の環境だ。そこで同社が力を入れているのが、シンジェンタジャパンの「アルトリセット200SC」による土壌処理と「エコボロンPRO」による木部処理を組み合わせた「eことアル工法」の販売だ。アルトリセットは米国で厳しい基準をクリアし「低リスク殺虫剤」として登録されており、安全性・環境性に配慮された薬剤だ。アルトリセットで土壌処理をしておくことで、より安心して暮らすことができる。

兼松サステックは、業界唯一の乾式保存処理を開発し、「ニッサンクリーンAZN保存処理木材」を販売している。処理装置により減圧、加圧することで溶剤に溶かした保存処理薬剤を木材内部に注入する。注入後に装置内で溶剤を揮発させ、木材内部に保存処理薬剤のみが留まるようにする。保存処理薬剤を木材に加圧注入処理する方法は、木材の内部までしっかり保存処理薬剤が浸透するため、防腐・防蟻効力の持続性が高いことが強みだ。ただ、一般的に用いられることの多い湿式処理では木材中に保存処理薬剤と同時に水も注入されてしまうため、木材が膨れる、割れる、反るなどの問題を抱えている。同社が開発した乾式処理は水を一切使用しないため木材の寸法や形状の変化が少ない。また、保存処理薬剤注入後に再乾燥させる必要がないため、納品から施工までの時間も大幅に短縮できる。

エービーシー商会は、木造住宅の断熱・気密性能を高める1液タイプの発泡ウレタンフォーム「インサルパック」に防蟻性能を付与した「インサル防蟻フォーム」を取り扱う。同商品の最大の特徴は、防蟻と断熱を同時に行うことができる点だ。住宅の高気密、高断熱化の波を受け、基礎断熱工法の採用が増加している。これまで基礎断熱の隙間にはグラスウールをちぎって充填する方法が多くとられてきたが、ウレタンフォームは吹き付けにより手軽に気密施工ができる。このウレタンフォームに新しい付加価値をつけようと生まれたのが「インサル防蟻フォーム」だ。ピレスロイド系防蟻剤とペパーミントオイルを含有しており、防蟻試験では、3週間後の質量減少率は無処理の発泡ウレタンが8・6%であったのに対し、「インサル防蟻フォーム」は0・6%と大きな効果が得られることが判明した。また、ウレタンフォームで基礎断熱工事を行うことで、躯体内結露の予防にもなる。シロアリは高温多湿を好む性質にあるので、物理的な侵入防止だけでなくシロアリの住みにくい環境をつくるという点でも対策につながる。

保証を強化することで採用数を増やしている商品もある。日東エルマテリアルが販売代理を行うターミダンシートは防湿シートに防蟻性能を付与したもの。地中に埋めるため、紫外線や熱変化による成分分解がなく、水に溶けにくいビフェントリンという成分を使用しているため、効果の持続時間が長いという。また、工務店が自ら施工できるため、防蟻会社との日程調整がいらず工期短縮となる。施工後10年のシロアリ保険申請ができ、最大1000万円/棟(第三者損保会社)の保険金額が支給される。同社によると、住宅系YouTuberが紹介したことで注目が集まっているそうだ。「ベタ基礎への防蟻だけでは不安を感じる施主も多く、そういった方からターミダンシートを併用したいとの問い合わせを受ける」(住環境グループ 髙野鋼二課長)というように、シロアリの脅威が認知されるなかで二重の対策をしたい施主も出てきているようだ。

ターミダンシートは防湿シートに防蟻性能を付与したもの。保証の充実度で採用を高めている

住宅市場の変化に合わせ販売方法にも工夫

兼松サステックの乾式処理の、変形が少ないという強みが生かされるのが、集成材やCLTなどのエンジニアリングウッドや加工済み木材への使用だ。例えば、2022年に住友林業と外装に使える新材料エスリー合板を共同開発している。穿孔加工または溝切加工を施した構造用合板に「ニッサンクリーンAZN」を乾式処理し、住友林業の木材保護塗料「S−100」を施して耐候性を高めた。住宅と非住宅どちらでも使用でき、住宅では軒天材やウッドデッキなどの用途を想定している。また、直近では、長谷萬が展開する木質パネルの DLT(Dowel Laminated Timber)に「ニッサンクリーンAZN」を乾式加圧注入処理した、高耐久・乾式防腐防蟻処理マスティンバー「DLT+AZN」を発売。DLTは製材を並べて穴をあけ、木ダボで接合した木質パネル。これまでDLTは主に意匠材兼構造材として用いられ屋外での活用事例はなかったが、兼松サステックと長谷萬が共同で特許を取得した新技術により耐久性が向上し屋外利用が可能になった。今後は造園材、木塀、木ルーバーなどの外構材の用途で提案していく。

同社は、住宅着工数が落ちこむなかで公共建築物への利用に活路を見出している。2021年6月に「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が改正されるなど、政府も一般建築物の木質化には力を入れている。国立競技場の屋根や庇の木材保存処理に「ニッサンクリーンAZN」が採用されたこともあり、認知度は順調に向上してきているという。また、従来から行っているプレカットメーカーへの販売活動に加え、ビルダーや工務店にもPR活動を行い乾式処理のよさを積極的にアピールしている。

同社は、「木材自体の耐用年数が長くなればカーボンニュートラルの貢献にもなる」と、今後も機会があれば協業などで、「ニッサンクリーンAZN」を使用した建材を増やしていきたい考え。外装材、外構材にも利用できる「ニッサンクリーンAZN」は住宅、非住宅どちらの領域でも活躍の幅を広げていきそうだ。

新設住宅の着工数減少に対し、日本ボレイトは、リノベーションへの対応やターゲット層の拡大を図る。同社は数年前から、施工代理店へ既存住宅市場の開拓について話してきたという。ただ、予防を行うだけの新築住宅と異なり、既存住宅ではシロアリがいないかの点検や、シロアリがいた際の駆除が必要な場合があるため、新築に比べ技術力が求められ、二の足を踏む施工会社も多かった。しかし、住まいながら安心して処理ができ、水に濡れる心配の少ない既存住宅こそホウ酸処理のよさを生かせるとする。同社は、YKK APの性能向上リノベの会などに参加し、工務店への認知度向上に努める。YouTubeが普及し、施主向けに情報が届けやすくなったことで、工務店から施主への説明が難しかった部分が軽減され、採用を伸ばしている。浅葉健介代表取締役社長は、「既存住宅にホウ酸処理を行うなら、新築でも扱おうと思う工務店もいるのではないか」と、既存住宅市場から、新築市場へのホウ酸処理の広がりも期待する。

一方、ホウ酸処理は通常の薬剤散布より初期費用が掛かるため、「良さは分かるが、導入するにはハードルが高い」という声があった。そこで、2023年4月から、より多くの人が使用できる普及品として「シロアリポリス−C(BHK−1870−C)」を発売する。誰でも購入ができ、手軽にホウ酸処理ができる点が魅力だ。ただ、「売れればいいという姿勢で、ホウ酸処理の評価を落としたくない。経営理念にもあるとおり、正しいホウ酸処理を広めることが重要」(浅葉社長)と、新築5年保証を付与する場合には、同社が運営する(一社)日本ホウ酸処理協会(JBTA)の賛助会員になる必要がある。

日本ボレイトは、より手軽にホウ酸処理が行えるように「シロアリポリス-C(BHK-1870-C)」を発売する

エコパウダーは工務店のための提案ツール作成や営業の勉強会を開催。工務店の販売力を強化することで、市場拡大を狙う。また、既存住宅でのシロアリ駆除および再発予防に力を入れ、「eことアル工法」を中心に普及を図っている。

エービーシー商会の「インサル防蟻フォーム」は、約10年前に商品を導入した際には、市場の反応はほとんどなかったというが、最近ではインサルパックの商品の中でも、最も売り上げを伸ばしているそうで、防蟻市場のニーズの高まりがうかがえる。特に、玄関のかまち下や、風呂場の基礎断熱などに採用されることが多い。

元々はノズルタイプのみでの販売だった「インサル防蟻フォーム」だが、発泡ウレタンの採用の広がりに伴い、自分のガンを所持する職人が多くなったことを考慮し、2023年6月からはノズル&ガンタイプにバージョンアップして発売する。1つの製品で、ノズルとガンのどちらでも施工できるようになった。ガンを取り付けると、蓋を閉めた時に密閉度が高くなるため中身が乾燥せず、使い切らなかったフォームを別の機会に再利用できる。少量のみの使用がしやすくなり、使い勝手が格段に向上した。インサル事業部東日本営業課 佐藤佳信課長は「扱える場面が増えることでより多くの工務店に採用してもらいたい」と、リニューアル後の販売数量2倍を目指す。また、同社は今後、基礎断熱関連商品を拡充していきたいとし、その中で防蟻製品も視野に入れているという。「防蟻性能を持ったコーキング材は市場にあるが、発泡ウレタンの商品は少ない」(佐藤課長)と他社と協業しパック化を行うなど、提案を強化していきたいとする。

エービーシー商会の「インサル防蟻フォーム」は、断熱と防蟻を兼ね備える点が強み

高耐久性樹種にも対策を
国産材利用の広がりを受け注意喚起を強化

ウッドショックの影響下で急速に存在感を強めたのが、国産材だ。(一社)JBN・全国工務店協会、日本木材青壮年団体連合会、(一社)日本林業経営者協会 青年部が実施した「地域工務店における木材利用実態調査報告書」では、ウッドショックにより国産材利用が増えたと回答した工務店は22%となった。また、国産材による家づくりへの取り組みでは「すでに取り組んでいる」(64%)、「今後、ぜひ取り組みたい」(12%)、「今後、できれば取り組みたい」(20%)と、96%の工務店が国産材利用に前向きな姿勢を示している。国土交通省の「地域型住宅グリーン化事業」の地域産材加算額の引き上げや、クリーンウッド法の改正の動きもあり、国産材の利用は今後より一層促進される見通しだ。

国産材の中でもヒバやヒノキは、住宅性能表示基準で耐久性が高い樹種として挙げられている。これらの樹種は、保存処理せずにそのまま使用が可能という認識のもと、住宅を建てる際の採用率が高まっている。

ただ、兼松サステックは「高耐久の樹種であっても、きちんとした防腐・防蟻処理をしなければ辺材部分は腐ってしまう」と、警鐘を鳴らす。特に、集成材などでは、辺材の割合が多くなりやすいため積極的に呼びかけを行うとする。同社が加盟する日本木材防腐工業組合では、2021年に住宅設計者、建材購入者に向け、適切な保存処理を促す説明書となる「ヒノキ等の高耐久樹種であっても辺材は適切な保存処理が必要です」を発行している。樹種ごとの辺材、心材別の耐用年数やヒノキの蟻害について写真やグラフを用いて説明する。

シロアリの食害を受けたヒノキ。兼松サステックは高耐久材であってもシロアリ対策が必要だと注意を促す

通常のシロアリ対策では防ぎきれない
アメリカカンザイシロアリ

近年、新たな脅威として恐れられるのがアメリカカンザイシロアリだ。名前の通り、もとはアメリカなどに生息する外来種だが、輸入木材などで運ばれて日本に上陸したとされる。アメリカカンザイシロアリは日本古来のシロアリと異なり、乾燥に強く木材に含まれる水分のみで何年も生きることができる。羽を持つため、地中から蟻道をつくるのではなく屋根裏などから侵入し、木材の中に巣をつくる。また、羽アリが飛んできた住宅の周辺住宅にも数㎞にわたり被害が拡大しやすい点も特徴だ。このため、建築基準法に定められている地面から1m以内でのシロアリ対策では防ぎきれない。

日本ボレイトは、アメリカカンザイシロアリの駆除でも実績を伸ばす。年間の駆除数は約70件だそうで、「感覚としてもアメリカカンザイシロアリによる被害は確実に増えてきている」(浅葉社長)という。同社はアメリカカンザイシロアリの巣にホウ酸水溶液を注入して駆除を行うが、家の中で合成薬剤を使うと健康への影響に加え、臭気が残るという課題も大きいとしており、積極的にホウ酸による駆除を進めたい考え。

もちろん、アメリカカンザイシロアリが住宅に侵入する前の予防も重要になる。

エコパウダーの齋藤専務は、「工務店が施主に付加価値の説明をしやすく、他社との差別化も図りやすい」とアメリカカンザイシロアリ対策の広がりを語る。羽アリであるアメリカカンザイシロアリへの対策は、住宅の全体に木部処理を行うことが必要となり地下シロアリ対策のみの場合よりも必要な薬剤量は増える。エコパウダーの業績は2021年度の売上が前年度比約23%アップ、2022年度の売上が前年度比約15%アップと右肩上がりだが、そこにはアメリカカンザイシロアリの施工が増えたことも大きく起因している。採用率の高い注文住宅が減るなか厳しい状況ではあるというが、差別化の重要性は大きくなっていると展示場で説明コーナーを設けるなどの訴求を行う。

エコパウダーは、アメリカカンザイシロアリ対策の全構造材処理の採用が増えているという

シロアリによる被害が拡大し、今まで以上に防蟻が重要視されるなか、様々な分野から防蟻対策の提案が行われている。長期的に住める住宅にするためにも、しっかりとした防蟻対策が求められている。