多機能化が進むエコキュート 光熱費の上昇で注目度高まる
快適、安心した暮らしのための工夫が満載
発売開始から約20年が経つエコキュート。その機能は、時代に合わせて進化を遂げてきた。より環境に良く安心して暮らせる製品にするため、各社は独自の発想や技術でしのぎを削る。
エコキュート(自然冷媒ヒートポンプ給湯機)は、空気中の熱エネルギーを取り込み、圧縮で高温にしたものを水に伝えてお湯を沸かす。電気料金の安い夜間に沸き上げを行い、貯湯タンクにお湯を貯めておくことで日中に安くお湯を使用することができる。2001年に登場し、省エネ性やランニングコストの高さで注目を集めた。
オール電化住宅への関心の高まりなどの追い風を受け市場を拡大してきたエコキュートだが、近年、エコキュート各社はデジタル化や太陽光との組み合わせで、さらなる安心安全、省エネ性の高い暮らしを支援する機能を追加した商品をこぞって新発売している。
スマホアプリの機能を拡充
気象情報と連携などでより便利に
パナソニックは、「スマートフォンを第3のリモコンとして使ってほしい」(空質空調社 電化営業部 営業企画課 中西達也主務)と、連動するアプリ機能の充実を図る。同社は、2020年10月に、専用スマホアプリ「スマホでおふろ」との連携で遠隔から湯はりや追い焚きの操作ができるエコキュートの発売を開始。リモコンに無線LANを搭載することで、アダプターなしでもスマホ連携ができるというのは当時画期的だった。発売後も、節約効果を見える化するモニター機能や、浴室リモコンのひとセンサーからの通知で、スマホでも入室状況を確認できる入室サインなど、快適性を高めるための新機能を随時追加している。
スマホ連携機能は当時のスマートフォン普及率が8割を超えたことから取り入れたが、発売当初は「本当にアダプターなどの付属品がなくてもスマホと連携できるのか」などの問い合わせも多く寄せられた。同社は、ホームページ上でデモ操作を行えるようにしたり、専用の取扱説明書や、アプリの便利さを漫画で説明するミニ冊子を作成し訴求を行っている。こうした取組みが功を奏し、アプリのユーザー評価も好調だ。
またスマホアプリとの連携することで、「エマージェンシー沸き上げ」など気象情報と紐づけての沸き上げが行えるようになった。「エマージェンシー沸き上げ」は、あらかじめ大雨や暴風など沸き上げと紐づける警報を選択しておくことで、災害警報・注意報が発令されている間、タンク内が常にお湯で満水になるよう、自動でお湯の沸き上げを続ける機能。エマージェンシー沸き上げを開始したプッシュ通知で、災害情報の認知にもつながる。
2001年に世界で初めてエコキュートを発売したコロナは、2022年6月にレジリエンス機能を強化した「AY5シリーズ」を発売。大きな貯湯タンクを最大限活用し、アプリの操作をすれば停電に備えて満タンまで給湯することができる「1回満タン」に加え、浴槽に生活用水の水はりを行うこともでき、断水に備える。
人感センサーによる見守り機能にも注力しており、お湯使用量の確認だけでなく、入浴者の入浴時間が長いときにスマホに通知を送る長湯お知らせで、遠方の家族を見守れる。
また、エコキュートによる安心への訴求では、「ふろ自動一時停止機能」もユーザーからの評判がよい。子育て世帯へアンケートを取って開発を行い、保温機能を一時的に止めることで、循環口からの熱いお湯に子どもが当たることを防ぐ。
同社は、2022年に発表した中期経営計画で「ヒートポンプ、電化機器事業の拡大」を掲げており、これまでに培ったヒートポンプ技術を生かして、他社へのヒートポンプの供給も行っている。
ダイキン工業は、2021年12月より「ダイキンエコキュート」の2022年モデル(W型)を発売。同社の製品を一括で操作できるスマートフォンアプリの「Daikin Smart APP」をつかって、外出先など離れた場所から湯はりや追い焚きができるほか、登録したエアコンとエコキュートの連動ボタンをオンにすればお湯はりと同時にエアコンのスイッチが入るため、脱衣所と浴室内との温度差を軽減しヒートショックの予防にもなる。
太陽光パネル設置の広がりを受けエコキュートも対応
太陽光で発電した電力の買い取り額は年々下がっており、2022年は17円となっている。反対に電力価格の高騰で日中の電気代は約25円するため、自家消費に使う方が、ユーザーにとってメリットが大きくなっている。こうした状況を受けエコキュートでも昼間の余剰電力を利用する動きが起きている。
パナソニックは、2020年の新商品発売時に「おひさまソーラーチャージ」を採用。「おひさまソーラーチャージ」は、翌日の天気予報が晴れの場合に夜間の沸き上げ量を減らし、翌日の昼間に太陽光の余剰電力を生かして沸き上げを行う機能。これまでもソーラーチャージ機能は搭載してたが、次の日の天気を生活者が自分で確認して手動設定する必要があった。アプリへの気象情報の登録により、自動で翌日の天気と連動した沸き上げを行えるようにすることで利便性を向上した。
コロナも、2022年の新商品に合わせて「ソーラーモードアプリ」機能を追加し、HEMSの利用が必要だった気象情報との自動連携を、HEMSがない家庭でも行えるようにした。
一方で、ダイキン工業は、「おひさまエコキュート」の展開に力を入れている。おひさまエコキュートは、太陽光発電システムが設置してある住宅向けの商品。一般的なエコキュートは深夜電力の50%を使うことが決められているが、おひさまエコキュートは基本的に昼間の余剰電力のみで沸き上げを行う。2022年2月に、業界に先駆けて同社が発売した「おひさまエコキュート」は、高圧給湯など一般的な「ダイキンエコキュート」と同じ機能でラインアップ。空調営業本部事業戦略室の森上群平氏は「これから市場をつくっていきたい」とし、電力会社をはじめハウスメーカーや販売店、工務店への説明を積極的に行っている。おひさまエコキュートでどのくらいの家計へのメリットがあるかは、電力会社のプランやエリアによって異なるため、おひさまエコキュートに対応するプランでの、ガス給湯器や一般的なエコキュートと比較した提案や、エリアごとに異なるチラシを作成して訴求を強めている。
ハード面へのこだわりで確かな品質を維持
エコキュートを取り扱っている各社は、普段あまり消費者から見えないハードの部分にもこだわりを持った商品開発を行っている。
金物加工が有名な新潟県三条市に本社を置くコロナは、エコキュートのタンクに溶接技術を用いる。通常は円柱型にする際、金属板の両端を重ねて溶接するが、同社は両端をつき合わせて溶接する。つき合わせて溶接することで、錆びづらく水漏れしにくいタンクにすることができる。また、タンク内には7つの温度計をつけており、きめ細かい温度管理が行える。
ダイキン工業では、貯湯ユニット内のタンクにクロム含有量が高く品質の良いステンレスを使用し、耐腐食性を強化している。水質判定検査をクリアすれば地下水や井戸水でも3年保証をつけられる点も強みだ。
また、エコキュートの不満点として多く挙げられるのが、ガス給湯器に比べて水圧が弱いという声だが、ダイキン工業の「パワフル高圧給湯」は、貯湯ユニット内のタンクの厚みや構造を工夫することで、高圧機の給湯圧力を320kPaまで向上。高圧機であれば湯はりとキッチン、湯はりとシャワーなど2ヵ所同時での給湯を可能にした。新商品では標準圧機の圧力も従来の170kPaから210kPaまで引き上げ、ユーザーの声に応える。この給湯圧力は、水道直結方式を除く高圧機、標準圧機それぞれのカテゴリーにおいて業界最高の性能となる。
パナソニックは貯湯タンクに「ダブル真空断熱材」採用。独自の高性能真空断熱材「U‐Vacua」を二重に巻きつけ、高い保温性能を実現している。4本脚で貯湯ユニットを支えることで、耐震性能も確保した。
エコキュート市場は右肩上がり
政府の新政策へも期待高まる
(一社)日本冷凍空調工業会の統計によると、エコキュートの2021年の出荷台数は約58万6000台。出荷台数は6年連続で伸びており、2022年3月には累計800万台を突破した。そんななか、2025年度はトップランナー制度の目標年度となっており、より高い性能が求められている。
ダイキン工業は、カスタマーインの考えを根底に置いており、これまでも見えない部分の機器性能にこだわりを持ってきた。トップランナー制度に対しても、ただ基準に沿った性能のものを開発するのではなく、プラスアルファでユーザーがエコキュートを導入するメリットを感じられるような商品にしていきたいという。また、現状ではスペースなどの問題で導入が難しい集合住宅に対応できる機器の開発もあわせて進めていきたいとし、戸建だけでなく集合住宅の省エネへも貢献していく。
11月に創設された「高効率給湯器導入促進による家庭部門の省エネルギー推進事業」を受けては、ユーザーに対して購入のきっかけになる要素として提案するとともに、購入検討者に対しても、補助金を使うことで1段階上の性能の機種へのグレードアップも提案する。特に、角型(Xシリーズ)の「EQX46WFV」と、角型「EQ46WFV」は改正後のトップランナー制度の基準にも対応しており、積極的に販売していきたい考え。
パナソニックも、「高効率給湯器導入促進による家庭部門の省エネルギー推進事業」の補助金が利用できる年間給湯効率の高い商品の販売を推進していきたい考え。ただ、性能が良いものは一方で価格が高くなるのも事実。開発に当たっては「性能をどこまで上げるか価格とのバランスをみて行う必要がある」(空質空調社 電化営業部 営業企画課 美馬秀夫課長)と、顧客にとってどの程度の性能が必要とされているかを見極めたいとした。
また、一般へのエコキュートの認知度がまだまだ低いと感じている同社は、11月26日のいい風呂の日に合わせて、SNSやラジオを使ったPR活動を行った。「IoTや政府の補助金などで注目を浴びているが、基本的な仕組みを知らない人は多い。時流に合った商品開発をするとともに、何も知らない人へのアプローチも考えなければならない」(空質空調社 電化営業部 営業企画課 中根朱理氏)と、オリジナルキャラクターなども使って、エコキュートを身近な製品にしていきたいとする。
コロナは、買い替え需要をいかに取り込めるかを重視し、修理の際の商品提案を進める。「高効率給湯器導入促進による家庭部門の省エネルギー推進事業」については概算予算額も高く、普及率の高いエコキュートで活用しない手はないと、補助金を活用した販売戦略を練っていくとする。デザイン性の高い商品の展開なども行っており、トップランナー制度へ向けた性能値の底上げに加えて、レジリエンス、太陽光、ヒートショックなど社会課題での訴求が主になっているエコキュートで、どのようにそのほかのニーズを生み出すかを考えていきたいという。
2050年カーボンニュートラルに向け、より注目が集まるエコキュート。各社はそれぞれの強みを生かした商品のアピールを加速する。今後もエコキュートの進化は止まらなそうだ。
リンク先は各社のサイトです。内容・URLは掲載時のものであり、変更されている場合があります。
内容・URLは掲載時のものであり、変更されている場合があります。
-
マーベックス・アキレス “断熱等級6”の時代の真の差別化ポイントを解説
2024.11.21
-
YKK AP・パラマウント硝子工業・日本住環境・アキレス 断熱気密の施工をプロが解説
2024.11.21
-
JCA・デコス エバーフィールド・久原氏が石川の木造応急仮設住宅について講演
2024.11.12