大和ハウス工業が追求する「つくった責任」
ネオポリス再耕アイデアコンテストに込められた団地再生に向けた本気度
大和ハウス工業は「ネオポリス再耕アイデアコンテスト」を開催した。同社が過去に供給した住宅団地「ネオポリス」の再生に向けて、グループ全体からアイデアを募り、最優秀賞に選ばれたアイデアを事業化していくというものだ。記者もゲスト審査員として参加した最終審査会は、団地再生に向けた同社の〝本気度〟で満ちていた。大和ハウス工業は、自らの「つくった責任」を全うするために、活気を失いつつある住宅団地の「夢の続き」を本気で描こうとしている。(中山紀文)
住宅団地の幸福な第二章のために
マイホームが多くの人々にとっての夢だった時代、日本全国で郊外型の住宅団地が開発された。
大和ハウス工業でも、「ネオポリス」と称した郊外型の住宅団地を開発し、これまでに全国61カ所、6万区画以上でマイホームを供給してきたという。そのネオポリスが、他の住宅団地同様に活気を失いつつある。少子高齢化や空家の発生、さらには近隣商店街の閉店…。マイホームという庶民の夢を形にした場所が暗い影で覆われようとしている。
こうした状況に「待った」をかけるべく、同社では2021年4月にリブネスタウン事業推進部を創設。その目的は「ネオポリスの再耕」。リブネスタウンプロジェクトとして、ネオポリスの再生に向けた取り組みを本格化させたのだ。
同社の芳井敬一社長は、「SDGsの目標のひとつに『つくる責任、つかう責任』というものがあるが、我々には『つくった責任』もある。ネオポリスによって多くの方々に豊かな暮らしを提供できたことは間違いない。しかし、今では多くのネオポリスが様々な問題を抱えており、困っている居住者の方々も少なくない。確かに第1章は上手くいったが、今は第2章を幸せなものにしていくことが求められている。『この街に住んで良かった』と居住者の方々に思っていただく責任が我々にある」と語る。
芳井社長は、全国のネオポリスの現状を自らの目で確かめたという。他社の不動産会社の看板が立てられた空地が散見される光景を目にし、居住者の話に耳を傾けた。「つくった責任」の大切さを痛感したそうだ。
「かつて我々が開発した街が泣いている。それを無視したままで新しい街を開発していいのか」という芳井社長の言葉には、「幸福な第二章を実現しなくてはいけない」という想いがにじむ。
171件の宝の山
脱所有で街のOSを変える
リブネスタウン事業推進部では、既に具体的なプロジェクトを進めており、1970年に開発に着手した横浜市の「上郷ネオポリス」では、コンビニエンスストア併設型のコミュニティ施設を開設。多世代コミュニティの形成に向けた取り組みなどを進めている。
石川県の「加賀松が丘団地」では、空き地となった区画などを買い取り、公園などを新設する計画が進んでいる。
そして今回、ネオポリス再耕に向けたアイデアを広く募るために「ネオポリス再耕アイデアコンテスト」を開催した。大和ハウス工業だけでなく、グループ会社からもアイデアを募集し、最優秀賞に選ばれたものについては事業化を目指すという。そのために1億円の資金も用意した。
募集開始からエントリー締め切りまで約1カ月半。237件の応募があり、そのうち171件から具体的な提案があった。1カ月半という短期間でありながら、171件ものアイデアが寄せられたことに驚かされる。複数回にわたる審査を経て、171件から5件の優秀賞が選出され最終審査へと駒を進めたが、5件以外にも捨てがたいアイデアが多数寄せられたそうだ。
「今回提案があった171件のアイデアは宝の山。しっかりとストックして、今後の事業に活用していきたい」(芳井社長)。
優秀賞に選ばれた5提案は別表の通りだ。居住者の生態データを街全体の収益源にしようという提案や、団地内の住宅を多世代型シェアハウスとして活用し、シニア世代と大和ハウス工業の若手社員が同居するアイデアなど、様々な視点からの提案が盛り込まれている。その他にも、ジュニアアスリートを育む街へと再生する提案や、居住規約を共有しながら団地全体でグループ居住的な暮らしを実現していくアイデアなど、まさに「宝の山」のようなアイデアばかり。どうしてもネガティブな要素が目立ってしまう団地再生や空家問題だが、アイデア次第では十分に夢の続きを紡ぐことができそうだ。
こうした提案の中から最優秀賞に選ばれたのが、大和ハウス工業本社技術統括本部環境部長の小山勝弘氏の「脱所有で、まちに多様性を ―『公園』と『小商い』で、まちを動かす―」。団地全体の4分の1を目途に大和ハウス工業がハウスリースバックや残価設定ローンといった手法を活用して賃貸・半所有化し、流動化を図っていこうという提案だ。小山氏は「まちのOSを再構築する」と表現する。
そのうえで、OS上で機能を果たすアプリのように、様々なプレイヤーが街の魅力を高める。例えば街の中心に公園を設けて、その周りに個性豊かな「小商い」を行う店舗の開店を促す。脱所有によってまちのOSを作り変えることで、街の魅力を高めるプレイヤー(=アプリ)を呼び込み、若い世代の流入を図っていこうというわけだ。
緩やかな変化を急いで生み出す
コンテストの審査委員長を務めた東京大学大学院の大月敏雄教授は、審査講評において、「(団地を再生していくためには)緩やかな変化を急いで生み出す必要がある」と指摘する。
住宅団地は急速に活力を失いつつある。しかし、急速な変化によって問題を解決しようとすると、歪みが生じたり、取り残される人々が出てくる懸念もある。それだけ団地再生という問題は難しいということだろう。
さらに言えば、民間企業にとっては事業化が難しいという課題もある。団地再生によって、どれだけの収益が得られるのか―。収益を生み出す団地再生という難題を前にして、多くの民間企業が頭を悩ませているのが実情だろう。
芳井社長は言う。「ネオポリスが完成した時、我々は代金をいただいている。その一部は、将来にわたり安心して暮らすことができる環境を提供する対価としていただいたものではないか」。
住宅業界の枠では収まらないグローバル企業にまで成長した大和ハウス工業。〝住宅業界の巨人〟が示す団地再生に向けた本気度が業界全体にもたらす影響度は決して少なくないだろう。
そして、ネオポリス再耕が「つくった責任」を全うするだけでなく、収益を生み出す事業としても成立する道筋が見えた時、「何をしたら儲かるではなく、どういう商品が、どういう事業が世の中のためになるのかを考える」という創業者の言葉の真意が示されることになりそうだ。
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