2022.8.26

伊藤忠建材、木材のサプライチェーン構築を強化

適正価格での安定供給を実現

伊藤忠建材は、木材のサプライチェーン構築に向けた住宅会社への提案を強化している。建築側の需要情報をサプライチェーンに係るプレイヤーが共有することで、適正価格での安定供給を実現する仕組みづくりを進めている。

ウッドショックを契機として、木材のサプライチェーンを見直そうという機運が高まっている。ここにきて欧州材などの在庫量が積み上がっているが、今後も世界市場の状況次第で安定的な調達が難しくなることが増えるのではないかという見方もある。

かつて日本はアメリカに次ぐ木材輸入大国であった。しかし、そのポジションが既に崩れている。国際連合食糧農業機関によると、世界全体の木材輸入量の総量は、1999年に1億910万㎥であったものが、2020年には1億4468万㎥へと増加している。このうち日本に輸入されているものが、1999年時点では943万㎥で全体の8.6%を占めている。2020年には504万㎥まで減少し、全体に占める割合も3.4%にまで縮小している。

この期間に木材輸入量を増やしたのが中国だ。1999年の396万㎥から2020年には3384万㎥にまで増加しており、アメリカの2626万㎥をも凌ぐ量の木材を輸入している。

さらに言うと、日本経済の国際的な競争力が低下していることは間違いなく、その結果として木材の調達力も低下する傾向にある。

言い換えると、国際的な木材市場の中で「お得意様」であった日本は、既にそのポジションを失いつつあるのだ。そのため、一時的に調達を行いやすい状況が訪れたとしても、他の国の木材需要が高まることで、一気にウッドショックと同じ状況が訪れる懸念がある。

そこで期待されるのが国産材市場だが、安定的な供給体制が構築されている事例はまだまだレアケースであり、住宅会社にとっても調達先を国内に変更できないでいることも事実だ。

伊藤忠建材では、こうした現状を考慮し、国産材と輸入材の安定供給を実現するための提案活動を進めている。

需要側の情報を供給側に伝える
基本価格と公共性の高い指標で値決め

同社では、住宅会社に対して輸入材・国産材の安定供給のためのサプライチェーンを提案している。輸入材においては産地ラミナ製材工場を起点に、国産材においては山林所有者から素材生産業者、製材・集成材工場、プレカット工場、そして住宅会社というサプライチェーンに係る全てのプレイヤーが需要側の情報を共有することで、安定供給へとつなげていこうというものだ。一方で輸入ラミナの安定供給については、伊藤忠商事が出資しているフィンランドのメッツァグループが大きな役割を果たす。

同社が提案するサプライチェーンでは、まず住宅会社の年間の住宅供給量から必要になる木材の量を部位ごとに算出し、その情報を川上へと伝えていく。川上側は、その情報に基づき伐採計画や製材量を決定していくことで、不要な在庫を抱える必要がなくなる。

また、市場動向の読み違いにより大量の在庫が発生し、売れば売るほど損失が発生してしまうという事態も回避できる。

この仕組みの肝となっているのが、値付けの方法だ。事前に基本価格を設定し、公共性の高い指標の3カ月間の市況動向に基づき、次の3カ月間の値段を決めていく。市況の動向も考慮した値付けとなる一方で、需要側と供給側で価格が見える化されることで、不必要な「腹の探り合い」を行うこともなくなる。

木材サプライチェーンの断絶を生んでいる大きな要因が、「需要側の情報が共有できていないこと」と、「信頼関係の欠如」だろう。前者については、需要側が必要とする木材量が把握できないため、川上のプレイヤーは見込みで事業を展開する必要がある。そのリスクを嫌い、必要以上に伐採を行わないという森林所有者や素材生産業者も少なくない。

後者については、建築側は「できるだけ安く仕入れたい」、供給側は「できるだけ高く販売したい」という思惑がぶつかり、創造的な議論ができないケースもある。

同社建材木材製品事業部の久村将英 木材製品第二部長は、「輸入材の調達が難しくなれば、国産材に頼らざるを得ない状況になる。その時に、全てのプレイヤーが〝顔見知り〟になって、これまでとは異なるサプライチェーンが構築できていれば、お互いにメリットを享受できるのではないか。また、輸入材においても昨年のウッドショック発生時もその供給が完全に途絶えることはなかった。国産材・輸入材共に信頼できるパートナーときちんとした取決めをすれば優先的に供給を得られ、結果的に安定供給は確保できる」と語る。

また、国産材普及に向けた大きな課題である横架材の問題についても、「国産杉であっても、例えば10~20%のボリュームをアップすれば輸入材と同等の強度を確保できる。コスト的にも同等、もしくは安くすることも可能。また、国産材桧であれば輸入材とほぼ同等の強度での供給も行える。そうした情報を、設計を担当する方々に伝えることで、木材の安定供給を確保することはできる」としており、こうした情報提供を通じて、サプライチェーンの隙間を埋めるための取り組みも進めていきたい考えだ。

CADデータ統一入力による
生産性の向上とBCP対策

同社はサプライチェーンの隙間への手当も実施している。

住宅会社の意向に沿った設計・施工マニュアル作成、マニュアルに基づいたプレカットCAD入力、プレカット工場への加工データ配信までの体制をQuantum Net社と共に構築した。

加工データは同社独自のインターフェースを開発し、複数のCADメーカーのデータ変換・連携を可能にしている。結果全国のプレカット工場との連携による万が一の災害時のBCP対策にも効果を発揮している。

既に複数の住宅会社が同社の提案を採用しており、今後も全国の住宅会社への提案活動を行っていく方針だ。