2022.8.10

「住」と「農」をつなぎ居心地の良い地域づくりを促す

北浦和みのりプロジェクト

ポラスグループの中央住宅は、「衣・食・住」をテーマにした全51戸の戸建分譲住宅「北浦和みのりプロジェクト」において、広大な農地と地域をつなぐプラットフォームとなる新しいスタイルの街づくりに取り組んでいる。

さいたま新都心駅や大宮駅などの主要駅から2~3㎞という場所に広がる見沼たんぼ。縄文時代には海の底にあり、江戸時代に新田開発された農地だ。畑などへの用途変換は進んでいるものの、今でも首都近郊の貴重な大規模緑地空間としての役割を担う。その広さは約1200ha。実に東京ドーム約257個分の広さだ。

この見沼たんぼと地域をつなぐプラットフォームとなる新しいスタイルの分譲住宅プロジェクトが埼玉県さいたま市で進んでいる。それが、中央住宅の「北浦和みのりプロジェクト」だ。

交通利便性とは異なる軸で住宅地の新しい価値を創出

北浦和みのりプロジェクト」では、見沼たんぼのこばやし農園の農場での農業体験などを提供

北浦和みのりプロジェクト」は、51戸からなる戸建住宅の分譲プロジェクト。

このプロジェクトの舞台は、近年、急速な都市化が進むさいたま市において、見沼たんぼをはじめ、桜回廊、大小様々な公園があり、緑豊かな環境が残る場所。小中学校や市立病院、スーパーなどの施設も充実している。
その一方で最寄りのJR武蔵野線の東浦和駅からは徒歩43分。バス便はあるものの、交通利便性という点では魅力付けが難しい土地でもある。

中央住宅では、この立地条件を考慮しながらプロジェクト全体の企画を検討。見沼たんぼが近いという立地条件にフォーカスし、「居・食・住を楽しむ暮らし」を具体化するための提案を盛り込むことにした。

同社戸建分譲設計本部設計一部の野村壮一郎部長は、「駅まで徒歩圏ではないという条件のなかで、緑深い環境をポラスグループらしい企画力でどう生かしていくのか。その点を重視しました」と述べる。

都市農家と近隣住民の交流と人の流入による農地の活性化

見沼たんぼで農業を営むこばやし農園の小林弘治さんは、埼玉県浦和で生まれ育った。大学卒業後に東京の会社に就職し、都心へと通勤する毎日を過ごしていたそうだ。ある時、一念発起して脱サラし、就農することを決意。移住も視野に入れながら農業をするための土地を探していた時に、子どもの頃に遊んだ見沼たんぼの記憶が蘇る。

「子ども頃に遊んだ記憶はありましたが、全く存在を忘れていました。残念ながら、近隣住民にとって見沼たんぼは、それくらいの存在なのです」と小林さん。

小林さんは見沼たんぼの一画に2haの土地を借り、農業を開始。今では農薬や肥料を使用しない自然栽培にこだわりながら、年間50~60種類の野菜を育てている。

また、「見沼野菜」のブランド化にも取り組んでおり、質の高い野菜ブランドとして人気を得ている。また、初心者から就農を目指す方々を対象とした研修なども行っている。

北浦和みのりプロジェクト」に携わる中央住宅メンバーは、小林さんが経営するこばやし農園に協力を仰ぎながら、新たに開発する分譲地と見沼たんぼをつなぐことはできないかと考え、実際にこばやし農園を訪問。田植え体験なども行い、小林さんへ協力を仰いだ。

小林さんも中央住宅の提案に賛同し、「北浦和みのりプロジェクト」の立ち上げから参画することになった。
具体的な取り組みとしては、「北浦和みのりプロジェクト」の住民に「見沼野菜サポーター」になってもらい、年間を通じて農業体験などを案内する。

実際に見沼たんぼに行き、田植え・稲刈りイベントや農業セミナーなどを通じて、「農ある暮らし」を体感してもらい、自邸の庭づくりに生かしてもらおうというわけだ。

今回の企画を担当した戸建分譲設計本部設計一部営業企画設計課の酒井かおり係長は、こばやし農園との連携について、「小林農園さんに協力してもらうことで、『農』を介して居住者同士、さらには周辺住民とのコミュニティ形成へとつなげていき、住民の方々が楽しい暮らしをデザインしていくきっかけを提供できればと考えました」と語る。

一方のこばやし農園の小林さんは、「私が見沼たんぼの存在を忘れていたように、多くの住民の方々の意識は都心の方へと向いています。今回のプロジェクトをきっかけとして、新しい分譲地の住民の方々だけでなく、その住民の方々と小学校などでつながるコミュニティを通じて、より多くの方々に見沼たんぼに興味を持ってもらえることを期待しています」と述べており、地域全体への波及効果にも期待しているようだ。

都市近郊で農家を営む場合、近隣の住民との間でトラブルになることも多い。農機具の音や土埃、落ち葉などを焼いた際に煙などが住宅地にまで届き、クレームを言われることも多々ある。

見沼たんぼは広大な敷地があり、住宅地と接している部分も少ないため、こうしたトラブルはあまりないというが、都市農家と周辺住民をつなげ、良好なコミュニティを形成しながら農地への人の流入も促すという点でも、「北浦和みのりプロジェクト」への注目度が高まりそうだ。

家庭菜園を農業体験の入り口に食育につなげる

各住戸に設置した家庭菜園「ポタジェ」や貯めた雨水を使い野菜づくりなどに関するワークショップも農家が講師となり開催する

北浦和みのりプロジェクト」で分譲する各住戸には、見沼たんぼで学んだ農を生かす場として家庭菜園「ポタジェ」を設ける。加えて、「緑のカーテン」を設置するための工夫も施しており、ゴーヤなどのつる性植物を育てることも可能だ。菜園に使う水を確保するための雨水利用タンクも備えている。

さらに、野菜の育て方などを教えるワークショップなどもこばやし農園が講師となり分譲地内全体で開催していくという。

家庭菜園で日常的に土と触れ合い、そこから見沼たんぼでの農業体験へとつなげていきたい考えだ。

収穫した野菜などを美味しく味わうために、キッチンにもこだわった。リンナイのガスコンロ「デリシア」を採用。このコンロは、スマホでプロが監修したレシピを検索し、火力調整などを自動で行う機能を備えており、収穫した野菜を美味しく食べるためのレシピの提案なども検討していく。

国産材の活用も推進
予想以上の反響で販売も好調

北欧スタイルの木のインテリアを採用した「キナリの家」

北浦和みのりプロジェクト」では、「森の家」や「キナリの家」といった「木」をテーマにした数スタイルの住宅を提案している。

「森の家」では、国産材を活用した「SUGINOKA」(2020年度グッドデザイン賞受賞)という内装材を利用し、まるで森の中にいるようなリビング空間を演出。この「SUGINOKA」は、ポラスグループのほか、造作部材の製造・販売を行うモリアン、全国森林組合連合会、東京大学大学院との共同開発により誕生したもの。

国産杉を活用したオリジナルパネルと一室一体空間で構成する「森の家」

なお、中央住宅では、春日部桐箱工業協同組合、厚川産業という地域パートナーシップにより「KIRINOKA」(2021年度グッドデザイン賞受賞)という無垢桐材の壁パネルも開発している。

一方、「キナリの家」は北欧スタイルの木のインテリアが特徴的な内装デザインを採用している。

中央住宅の戸建分譲さいたま事業部営業推進係の吉田怜渚リーダーによると、事前申し込みなども含めると、51棟中42棟が売約済みという状況で(2022年7月8日時点)、販売状況は当初想定した以上に好調に推移しているという。

契約者の78%が中広域からの居住者で、東京都内や神奈川県、千葉県からの移住者も含まれている。ここまで中広域からの割合が高いことは珍しいそうだ。

コロナ禍を経て、在宅時間の充実を希望する人が増える中で、都心からそれほど離れていない場所で、なおかつ「農ある暮らし」が継続的な「日常」としてプログラムされている「北浦和みのりプロジェクト」の魅力が広く受け入れられているのだろう。

左から中央住宅の野村氏、こばやし農園の小林氏、中央住宅の酒井氏、吉田氏

交通の利便性は決して良くないが、緑豊かな環境を有しているという土地のポテンシャルを上手く引き出すことができれば、新たな暮らしの価値を創造することさえできる―。「北浦和みのりプロジェクト」は、そのことを見事に証明しようとしている。

入居後に実際の暮らしがスタートした後に、「北浦和みのりプロジェクト」がもたらす暮らしの価値が地域へと波及し、地域全体が「農ある暮らし」を享受していくことに期待したいところだ。