2023.11.2

2023年度 グッドデザイン賞 “アウトカムがあるデザイン”1548件が受賞

戸建住宅、まちづくりなどで受賞相次ぐ

2023年度グッドデザイン賞の受賞作品が決まった。「アウトカムがあるデザイン」というテーマで選考が行われ、モノだけでもコトだけでない視点から1548件のデザインが評価された。

(公財)日本デザイン振興会が2023年度のグッドデザイン賞を発表した。

今年度は、齋藤精一氏を審査委員長、倉本仁氏と永山祐子氏を審査副委員長とする新しい体制のもと、国内外のデザイナー、建築家、ディレクター、ジャーナリスト、研究者など総勢100人の審査委員会を編成した。審査のテーマを「アウトカムがあるデザイン」とし、モノ・コトの境界線を越えて、アウトプットとしてのデザインそのものだけでなく、さまざまなデザインを生み出すプロセスや、創造の根底にある哲学や挑戦を読み解くことにつとめたという。そのうえで①人間的視点、②産業的視点、③社会視点、④時間的視点、という4つの視点で審査を行った。また、新たに広範な領域からの応募を19のカテゴリーに分類して審査した。建築については「建築(戸建て住宅~小規模集合住宅)」、「建築(中~大規模集合住宅)」、「建築(産業/商業施設)」、「建築(公共施設)・土木・景観」という4つの分類が設けられている。

審査の結果、応募5447件のなかからグッドデザイン賞を受賞したのは全1548件。受賞企業数は1068社のなかにはハウスメーカーやデベロッパー、建材や設備メーカーなど住宅産業界からも多くの企業が名を連ねている。

1548件のなかで総合的に特に優れたデザインとして「グッドデザイン金賞」(経済産業大臣賞)20件が選定され、このうち5件がグッドデザイン大賞候補としてノミネート、10月25日に「グッドデザイン大賞」が決定される。候補となった5件は、「電動シェーバー[Panasonic ラムダッシュ パームインES‐PV6A](パナソニック)、「乗用車[プリウス]」(トヨタ自動車)、「老人デイサービスセンター[52間の縁側](オールフォアワン+山﨑健太郎デザインワークショップ)、「市民科学プロジェクト[NHKシチズンラボ](日本放送協会)、「学校をつくるプロジェクトの集合体[神山まるごと高専]」(神山学園)だ。

(公財)日本デザイン振興会 深野弘行 理事長
「グッドデザインの力を信じる」

グッドデザイン賞はプロダクトデザイン、建築、そしてサービス、さらには地域の活動、ソフトウェア、コンテンツなど幅広い分野をカバーしている。今年は、生成AIが登場するなどさらに幅が広がってきている。

今年は、さまざまな新しい取り組みを実施。例えば、受賞作品の展示もベスト100だけでなく全件展示とし、グッドデザインの力を皆さんに体感していただけると考えている。

今、環境問題、戦争などけっして良いことばかりではなく色々な問題がある。こうしたなかだからこそグッドデザインの力を信じ、グッドデザインが広がることで社会を少しでも良くすることができると確信している。

齋藤精一 審査委員長
「デザインとはすべてのものを良くする力」

今年は新しい体制のもと、さらなるアップデートができないかと見直し、グッドデザイン賞が新たなスタートを切った。

今年は「アウトカムのあるデザイン」をテーマに設定した。これまでモノのデザインか、コトのデザインかという議論が続いてきたが、こうした議論をそろそろやめた方が良いと思っている。モノの後ろにはプロセスがあって、コトの後ろにはモノがある。どのような人が関わり、どのようなルールで制御されているのかを読み解く機会がグッドデザイン賞の審査の過程だと考えている。

デザインとは、すべてのものを良くしようとする力だと思う。それがどこを向いているのか、全件展示の場で、受賞作品から感じていただきたいと思っている。

グッドデザインを受賞した戸建住宅
空間や性能、暮らし方を高いレベルでデザイン

23年度も数多くの住宅やまちづくりがグッドデザイン賞に選ばれた。

意匠性と環境性能を両立したミサワホームの「CENTURY-NEUTRAL MODEL-」

ミサワホームは戸建住宅、集合住宅、保育施設など5件が受賞。1990年以降、34年連続受賞であり、住宅商品57点など累計受賞点数は172点と住宅業界最多となった。

住宅商品で受賞したのは「CENTURY‐NEUTRAL MODEL‐」(オークランド住宅展示場)。3方向のパラペットの屋根形態など意匠性と環境性能を両立する提案で、LCCMの基準を満たしつつも洗練された外観意匠を実現している。「特筆すべきは、リビングの外側につくられた中間領域である。建築に取り込まれた庭のような場所であり、リビングが拡張したとも半屋外化した庭とも捉えられる」と評価された。

住友林業の「木造ラーメン工法による剛接合登り梁住宅」は登り梁組みによる構造現しの立体空間をつくる

住友林業は「木造ラーメン工法による剛接合登り梁住宅」が受賞した。同社オリジナルの「BF構法」で登り梁組みによる構造現しの立体空間をつくり、広々とした開放的な空間を実現している。登り梁組みによる屋根面剛性の高さは、火打梁や小屋筋違のない美しい意匠を可能とする。「家に求められる過ごし方のパターンが増えつつある今、このたっぷりとした空間は、そこで人が過ごす時間を豊かにするであろうことは間違いない。工業化住宅として非常に高いクオリティを持っている」と、コメントされている。

積水ハウスが受賞した「石匣の邸宅」は大阪府箕面のモデルハウス。プライバシー確保とダイナミック大空間を両立した富裕層向けの邸宅で、建物で囲い込んだ庭を対角に配置し、さらに対角に配置した石貼りのボックス、その周りをすべて居住空間として、非日常のプライベート大空間を実現している。「大手ハウスメーカーによる住宅として、商品化住宅と、建築家の設計による一品生産住宅の差が、ある部分においては縮まりつつあることを感じさせる力作である」とそのデザイン性が高く評価された。

積水ハウスの「石匣の邸宅」はプライバシー確保とダイナミック大空間を両立した
ポラテックの「継承の家」は日本の伝統文化を現代のライフスタイルに適した形で実現

ポラスグループは今回のグッドデザイン賞で9点が選出された。受賞は21年連続であり、通算受賞数は83点となった。まちづくりプロジェクトが多く選出されるなか、戸建住宅として受賞したのがポラテックのPOHAUSブランド「継承の家」だ。「時節の行事を楽しむ」日本の伝統文化を現代のライフスタイルに適した形で実現した住まいで、日陰をつくる2mを超える深い軒、外と内とを曖昧に一体となって繋ぐ濡れ縁、「間」を仕切る講師など日本の伝統的な手法と、耐震や環境などの基本性能を融合させた。「部屋名とは異なるささやかな居場所を家の内外にちりばめることで、家のなかにアクティビティやシーンを増やすことに寄与」していることが審査員から評価された。

デザイン画や図面など伝え方も評価された土屋ホームの「規格住宅LIZNAS AND SELECT」

土屋ホームが受賞したのは「規格住宅LIZNAS AND SELECT」で、断熱等性能等級7を標準化した規格住宅の取り組みが評価された。同住宅は、ワクワクする家づくりと住宅の未来を両立させた住宅体験・商品開発を目的とする「ANDプロジェクト」を通じてZEH住宅の普及を図る規格住宅で、楽しみ方、アイテム、デザイン・設備の好みをセレクトできる。「高水準の環境性能の住宅を、素材や空間をスタイリッシュにまとめるだけでなく、それをイラストタッチのデザイン画、図面、デザイン言語などを駆使しながら、上手く伝えている」と、高性能とデザイン、その伝え方が評価された。

WELLNEST HOME の「EGAKU IE 花小金井モデルハウス」は高断熱ながらも開くデザイン

超高断熱住宅を展開するWELLNEST HOMEは「EGAKU IE花小金井モデルハウス」が受賞した。UA値0・26という高断熱な住宅は、分厚い断熱材と樹脂窓によって閉じた印象になる高性能住宅を窓まわりにデザインを集中させることで「ひらく」デザインが特徴。間取りや大きさが変わってもブランドとしての一定のデザインイメージが確保できる、デザインガイドライン付きのモデルとして開発された。「今後は付加するだけでなく、あえて削り取るなど、空間的な言語の醸成への展開も大いに期待したくなる」と期待を集めた。

戸建て住宅では、これら以外にも地域の住宅事業者や設計事務所などの注文住宅がグッドデザイン賞を受賞しているが、工業化住宅、規格住宅であっても性能や生産性だけでなく高いレベルでのデザイン性が求められることが当たり前となるなか、各社からは一品生産品に負けない住宅が提案され、高い評価を受けている。

グッドデザイン賞では、戸建分譲住宅、つまり戸建住宅によるまちづくりも数多く選ばれている。三井不動産レジデンシャルの全29区画の「ファインコート新百合ヶ丘」は「地区の4分の1を緑地・公園として整備し、また住宅を木質調の外観によって景観を調和させることで、良好な生活の質を感じさせる街を実現」したことが評価された。また、ポラスグループは、中央住宅の「北浦和みのりプロジェクト」や中央グリーン開発の「ビルトインガレージを集めてつくるコミュニティ」、ポラスガーデンヒルズの「NOEN~エンが暮らしを豊かにする~」など7物件が選定されている。まちの大小を問わず、一棟ごとの住宅の提案は言うに及ばず、共有部の活用などコミュニティをどうデザインしていくかの取り組みが高く評価されている。

「デザインとは、すべてのものを良くしようとする力」とは審査委員長を務めた齋藤精一氏の言葉だ。暮らしをデザインする住まいづくり・まちづくりへの取り組みのさらなる深化が期待される。