2022.8.4

住宅における良好な温熱環境実現推進フォーラム、2022年度全体会議を開催

消費者への普及啓発、自治体との連携強化などを推進

住宅における良好な温熱環境実現推進フォーラムが全体会議を開催。組織改編を行い、より機動的な運営を図るとともに、自治体との連携強化を進めるなど2022年度の活動の方針を示した。

住宅における良好な温熱環境実現推進フォーラム」(会長:阿部俊則・(一財)住宅・建築SDGs推進センター会長)は、住宅における良好な温熱環境の実現に向けて、住宅や住宅リフォームに関係する団体が集まり、取り組みを進めるプラットフォームとして2019年に発足した。建築・医学系学識経験者、住宅業界団体・企業など50団体が参加するほか、関連省庁、東京都、消費者関連団体4団体がオブザーバーとして参加。これまで、その実現に向けた啓発活動の推進、住宅事業者やリフォーム事業者などの理解の促進・スキル向上、国・地方公共団体の住宅政策などへの提言、調査研究などを進めてきた。

企画・調査研究部会と普及啓発部会という2つの部会で具体的な検討を行うほか、全参加メンバーによる全体会議を年1回程度開催しており、第4回目となる全体会議を開催した。

新たに会長に就任した阿部会長の挨拶に続き、推進フォーラムの2021年度の活動結果の報告が行われた。参加団体を通じた会員への普及啓発活動としては、メールマガジンによる情報提供、参加団体講習会への支援などを行った。また、地方公共団体に対する情報提供の取り組みを本格的に進めた。具体的には、リフォーム補助制度を実施する1503団体のうち温熱環境関連の取り組みを実施している可能性が高い182団体を抽出、情報提供や補助制度に対するアンケートを実施したほか、普及ツールの配架要請を行った。

同推進フォーラムでは、一般消費者向けの「あたたか住まいガイド」や「チェックシート」、事業者向けの「良好な温熱環境による健康生活」や「温熱環境リフォーム設計・施工ガイドブック」などの普及ツールを制作しているが、先のような活動を通じ「地方公共団体にツールが認識されてきている」(同推進フォーラム)としており、配布部数も前年に比べ大きく増えている。

また、調査活動では、良好な温熱環境を実現するうえで重要な「浴室暖房乾燥機」を効果的に普及推進していくことを目的にウェブ調査を実施した。同調査では、年齢が高いほどヒートショック対策として浴室暖房乾燥機が有効であることの認知率が高いとともに、65歳以上の家族がいる世帯でも認知率が高いことなどが明らかになっている。

2022年度の活動としては、まず組織を改組。企画・調査部会と普及啓発部会を統合して「運営委員会」(委員長:深尾精一・東京都立大学名誉教授)を発足。これは「より機動的な運営を図る」ことが目的だ。この体制のもと、参加団体の個別ニーズに即した普及支援策の検討と実践、参加団体と連携しての一般消費者への普及啓発活動などに取り組む。

最新の研究知見や都の取り組みなどを報告

断熱性能とマインドマップ有効回答数の関係

委員からの情報提供として、伊香賀俊治・慶應義塾大学教授から「幼児から高齢者までの健康を守る住宅の断熱と設備」、東京都住宅政策局の浦口恭直・住宅政策担当部長から「東京都における住宅分野の脱炭素化に向けた取り組みについて」、また、(一財)ベターリビング住宅部品・関連事業推進本部の設樂正幸氏から「良好な温熱環境の実現に資する住宅部品の取組」の報告があった。

伊香賀教授は、温熱環境による作業成績について、部屋の上下の温度差があると創造作業成績が低下するとの研究成果を報告、「温熱環境の改善が健康に影響するということから一歩進み、生産性をあげることにもつながる」と指摘した(図)。

また、子供の健康に関して、断熱性、省エネ性の高い住宅に住む子供は、居間において足元が冷えにくく、喘息が少ない、風邪による欠席が少ないといった研究成果も紹介した。

一方、東京都の浦口部長は、東京都住宅マスタープランの目標の一つである「脱炭素社会の実現に向けた住宅市街地のゼロエミッション化」を紹介、具体的な取り組みの一つとして、先に立ち上げた「省エネ・再エネ住宅推進プラットフォーム」について解説した。このプラットフォームは、都と住宅関係団体が連携し、省エネ・再エネ住宅の普及促進に向けた情報共有・連絡協議、普及促進・気運醸成などの取り組みを行うもので、住宅や不動産、リフォーム関連団体など40団体が参画してスタートした。

その他、省エネ診断や省エネ設計、省エネ改修に対する直接補助「既存住宅省エネ改修促進事業」や、「東京ゼロエミ住宅導入促進事業」、一定の事業者に対して太陽光発電の設置を義務付ける新制度などについて解説した。

また、同推進フォーラムの事務局でもある(一財)ベターリビングは、設樂正幸氏が今年4月に「浴室ユニット」と「暖・冷房システム(浴室暖房乾燥機)」の基準を改正し、良好な温熱環境の実現に資する付加基準〈BL‐bs〉を追加したことを報告、BL‐bsの認定取得の働きかけを強化しているとした。

全体会議の終了にあたり、顧問の村上周三(一財)住宅・建築SDGs推進センター理事長は「健康住宅が市民権を得たのはここ5年くらいのこと。それは十分なエビデンスが得られたから。コロナ禍において、換気が非常に重要であると指摘されたが、大きな問題にはならなかった。これはしっかりした基準があったからこそ。一方、温熱環境については明確な基準はなく、早急に整えてほしい」とコメントした。

省エネ住宅は健康にも良いこと
広く知らしめることが我々の使命

阿部俊則会長

一昨年秋の「2050年カーボンニュートラル宣言」により、日本全体が脱炭素化の実現に向けて大きく舵を切った。住宅分野においても、先月、国会で改正建築物省エネ法が可決され、2025年の省エネ基準への適合義務が決まったが、大きな前進だと思う。

省エネ住宅というと、一般的なイメージは夏涼しく冬温かく快適、省エネで経済的、また、エネルギー消費量が少なく環境にもよいという点があげられる。それらはもちろんだが、加えて、健康にも大きく貢献するということを、もっともっと声を大にして言うべきだと思っている。村上先生や伊香賀先生が8年前から研究をし、結果が出ている。これを広く国民の方々に認識してもらうことが、我々の大きな使命だと思っている。

フォーラムでは、省エネの視点に加え、住む人にとっての良好な温熱環境を実現するため、今後とも広く活動していきたいと思っている。