梅雨はじまりぬ/梅雨は花の季節
梅雨はじまりぬ
〈樹も草もしずかにて梅雨はじまりぬ〉(日野草城)
梅雨の頃になると思い出すことがある。ずいぶん前の話だが、“世界のタンゲ”と呼ばれた日本を代表する建築家、丹下健三と会合で隣席した住宅メーカーのあるトップが唐突に丹下さんから「貴方のところの住宅は雨もりしないかねェ」と問われたというのだ。さすが返事に窮したというが、そのときつくづく思ったという。「世界的な建築家、丹下さんでも雨もりには頭が痛いんだ」と。丹下さんをも悩ます雨もりトラブルは住宅メーカーならずとも世の建築家諸氏、建築会社、住宅会社にとって共通の永遠のテーマといっていいだろう。防水技術の進歩をもってしても雨もりトラブルが減らないのは、集中豪雨など最近の異常気象のせいもあるだろうが、長雨の梅雨時が来るたびに担当した住宅に雨もりがないように、と祈りたくなるという住宅メーカーの営業マンたちの気持ちも分かるというものだ。まぁ、雨もり問題は今に始まったことではない。安土桃山時代の茶の湯の開祖、千利休の言葉に「家は漏らぬほど、食事は飢えぬほどにて足ることなり」があるほどだ。粋人も雨もりだけは勘弁してほしいというところだろう。
また、この雨もりトラブルは、日本だけの問題ではなさそう。アメリカ出張が多い友人によると、電話帳や地域の生活誌には雨漏り修理の広告が多く、なかには家の中で傘をさしている絵がついて“ポタリ困る、ピタリ止まる”なんて思わず笑えるものもあって、まさに雨もりは世界共通の悩みかと思いを新たにしたという。
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