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待ったなし、製材業界の人材育成 学びの機会をつくろう

国産材を活かす 林業は成長産業になれるか

利用期を迎える国産材を活用して林業の成長産業化に導くにはどのような取り組みが求められているのか。林材ライターの赤堀楠雄氏が地域で芽生える国産材活用の事例をルポする。


製材所が減っている

国産材の利用を進める上で取り組まなければならない課題のひとつに、製材技術者の育成がある。

近年、国産材業界では全自動タイプの製材機を備えた大型工場が増え、国産材のシェア拡大に一役買っている。その一方で、山間の林業産地に立地している小規模製材工場の経営は厳しくなる一方で、廃業するケースが相次いでいる。

導入事例が増えている簡易製材機

農林水産省の統計によると、かつては全国に2万以上もの製材工場があった。しかし、2020年末時点の工場数は4115工場と激減している。減っているのは主に小規模零細工場で、大型工場のシェアは年々高まっている。

小規模工場を中心に工場数が減っても大型工場が増えれば国産材製材品の供給量は増え、自給率も上昇するのなら問題はないと考える人も多いだろう。だが、地産地消にこだわる大工や工務店が頼りにしているのは、地元の山から伐り出される丸太を挽いている製材所(小規模製材工場のこと)であり、製材所が減るというのは地産地消の家づくりがしづらくなることを意味する。

そのため、最近は手刻みで部材を加工している大工を中心に簡易製材機を導入するケースが増えている。近場の製材所が廃業したため、自ら丸太を挽いて間に合わせようというわけである。簡易製材機の場合は精度を確保するのが簡単ではないが、手刻みの技術があればうまく納めることができる。

だが、簡易製材機は製材スピードが遅く、量を挽くのにかなりの時間が取られる。いくら「スローライフ」の家づくりだと言ってもそんなにのんびりやっていられるわけもなく、結局は仕入れた材も併用して間に合わせているケースが多い。そうなると、やはり地元の製材所が減る、あるいはなくなるというのは痛い。

「見て覚えろ」では人は育たない

製材所が減っている理由はいろいろある。取引先である地場の大工・工務店自体が減っているということも大きい。地場産木材の供給者と利用者の双方が減っていて互いに困っているわけだ。これは地産地消の家づくりそのものを底上げしなければ解決しない。

住宅の工法が変わり、乾燥機や仕上げ用のモルダーといった高価な設備が必要になり、その一方で製材品の価格は低迷しているために採算が悪化しているという事情もある。

さらに経営者と従業員の双方で後継者が不足しているという問題があり、個人的にはこれがもっとも深刻だと感じている。特に従業員については、製材所の実務を担当するためには木を見る目や製材機を使いこなす技術、家づくりに使われるそれぞれの部材に関する知識などさまざまなノウハウが必要だが、それらは簡単に身に付くものではなく、学びと経験を重ねなければならない。

製材所が減り続ける中、ベテランのノウハウを受け継ぐ人材の育成を急ぐ必要がある

ところが、高度な技術と深い知識を持つベテランはいても、そうしたノウハウを受け継ぐ後継者はいないという製材所が非常に多い。これには、そもそも新規に就業する人が少なく、せっかく就業しても上記のノウハウを学ぶ機会やシステムがないという問題がある。

地元の山の木を活かす上で製材所の存在は欠かせない

もちろん、日々の仕事の中に学びの機会はふんだんにあり、ベテランの所作を観察したり、毎日木に触れたりする中で学べることはたくさんある。製材という営みにこれまで携わってきた人の多くはそのようないわば「見て覚える」式のやり方でノウハウを身に付けてきた。

だが、これを今の若年世代に求めることができるだろうか。先輩の仕事ぶりを観察することが仕事をする上での基本的な態度であることは今も昔も変わらないが、やはり製材のことや建築のこと、さらには製材所に原料を供給してくれる林業のことなどを体系的に学べる方がいいに決まっている。新たに就業してきた若者も当然それを期待するはずだ。

ところが、現在の製材業界ではそうした学びの場は職場以外にはほとんどない。OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)だと言えば聞こえはいいが、職場が「見て覚えろ」式の教育に終始するのだとしたら若者には少々辛い。そして現実問題として、日々の仕事に追われ、採算にも苦しんでいる小規模製材所には新人教育に力を入れる余裕がない。

一方で林業界に目を移すと、20年ほど前から「緑の雇用」事業という新規就業促進・人材育成のためのプロジェクトが国の支援事業として展開されており、研修費名目での実質的な賃金補助や各種研修の実施といった措置が手厚く講じられている。必要な知識や技術を体系的に学べる研修テキストや実習プログラムも作成され、新たに林業に就業した人たちは職場で実務経験を重ねるとともに、職場以外の研修でも学ぶことができるようになっている。さらに林業に就業して何年も経った人がキャリアアップのために学ぶ研修も用意されている。こうした人材育成のための取り組みが製材業界にはまったくないのである。

「製材をやりたい」という人を増やそう

先日、取材に訪れたある製材所で社長と話すうち、今、この業界にもっとも必要なのは人材の確保だという考えで一致した。林業界で展開されているような教育システムがあればぜひ利用したいと、その社長は熱を込めて語ったものだ。

同じ一次産業でも農業や漁業なら、野菜や魚を一般消費者に直売し、料理して食べてもらうことができる。ところが、林業では一般消費者に山の木を持ち帰って利用してもらうことなど思いもよらない。山の木を広く利用してもらい、林業を活性化するためには、製材という専門知識と技術を駆使した加工プロセスを経ることが不可欠なのである。

林業に関してはさまざまな情報が発信され、「緑の雇用」事業の効果もあって「林業に就くために山間部に移住してきた」という人がたくさんいる。ところが「製材をやってみたい」から移住してきたという人には会ったことがない。製材所が減り続けていることの危うさをわれわれはもっと自覚しなければいけない。

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