2022.3.18

アンドパッド、実証プロジェクトANDPAD HOUSEが完成

DXを駆使した新たな住宅の設計・施工を検証

「ANDPAD HOUSE」が完成、BIM活用など設計・施工のDX化の可能性が検証された。打合せなど移動時間の大幅削減、施工者の基本計画段階からの参加などで工期が1.5カ月短縮できるなど、さまざまな効果が確認された。


アンドパッドが進めてきた実験住宅プロジェクト「ANDPAD HOUSE」が完成した。

このプロジェクトは、実験住宅の設計・施工を通じて「数年先に実現する設計・施工のDX」を先行して実証することを目的に、同社が施主となって実験住宅「ANDPAD HOUSE」(神奈川県湯河原町)を建設してきたもの。「ANDPAD」を用いることですべてのデータについてCDE(Common Data Enviroment=工事や管理などに関わる人たちが、情報を受け渡したり共有したりするための環境)を実現、ANDPADでチャットを用いリモートワークにおける生産性の向上を目指し、施工者である長谷萬が基本計画段階から参画することで施工・製造の効率化を図るECI(Early Contractor Involvement=プロジェクトの設計段階から施工者の技術力を設計内容に反映させることでコスト縮減や工期短縮を目的とする方式)についての効果検証などを行った。

このプロジェクトは国土交通省の「令和3年度BIMを活用した建築生産・維持管理プロセス円滑化モデル事業(先導事業者型)」において、「木造住宅における、BIMとクラウドサービスを用いたCDEとECIの効果検証・課題分析」に採択されている。

300時間以上を削減
遠隔臨場も大きな可能性

DXをフル活用し300時間以上の移動時間を削減、工期も1.5カ月短縮できた

CDE下でのBIM活用を通じた生産性向上については、合計300時間以上の移動時間削減を実現した。

ANDPADをプロジェクト管理プラットフォームとして用い、BIMデータだけでなくプロジェクトにかかわるすべての共有可能なデータについてCDEに取組み、関係者全員がいつでもアクセスできる状態を実現した。こうした環境下で、会議をすべてリモートで行うことで移動時間を削減し、週一回の会議に関係者全員が参加することで意思決定を迅速化することができた。

関係者の会議への移動時間を300時間削減した。設計者においては33時間削減でき、その時間を設計作業に充てることができた。

ANDPADによりデータ共有が行われ、企画・設計段階の資料のやり取りの83%がANDPAD上で行われた。残りの17%の多くはデータ量が大きくメールでのやり取りとなったという。また、チャット機能を使うことでやり取りを集約、電話・メールでのやり取りは通常の場合に比べて9割減った。

アバターロボットによる地鎮祭を実施するなど、さまざまな検証を行なった

このほか、ロボットやMRグラスなどを使った遠隔臨場にも取り組んだ。

3Dで検査対象を表示するMRグラスは、配筋ピットや躯体形状、アンカー位置の確認など一次確認としては十分に利用可能であったという。ウェアラブルカメラは、目視がしづらいスラブ︱配筋間の被り厚の確認などに役立った。監理者が監督に対して支持を出し、ウェアラブルカメラで確認することでより精緻な品質管理が可能になると指摘している。「現場に臨場するよりも情報量が多い」という声もあったそうだ。

一方、遠隔での中間検査については課題が多そうだ。検査員が通常通りの中間検査を進めたが、チェックする部分を図面上で指示しながら動いてもらうことに時間がかかり、通常10分でできる作業に30分以上を要した。また、準備に手間もかかるという。ただ、目視だけに比べメリットも多く、位置・視点情報の共有といった手法を検討することで可能性はあると指摘している。

また、ロボットによるフルリモートでの遠隔管理は、現状では課題が多そうだ。カメラのズームによりクロス表面の凸凹まではっきりと確認できたが、ロボットの位置把握に時間がかかり、操作者の距離感がつかみづらいという課題もあった。4輪ロボットの場合、段差への対応も課題であったという。

工期を1.5カ月短縮
BIMは規格住宅と相性が良い

ECIの採用にともなう工期の削減については、実施設計から作図を開始することで延べ1.5カ月短縮することができた。

具体的には、製造部材を実施設計段階で早期決定し作図を開始したことで1カ月の現場納期の前倒しを実現した。また、施工においても、施工性を考慮した仕様調整を実施設計段階から検討し、設計者も手戻りなく設計を行うことができ、施工者も施工図の調整手間を2週間程度削減できた。

折しもプロジェクトの真っ最中にウッドショックが発生したが、実施設計(4月中旬)に施工者である長谷萬から検討していた躯体断面サイズが供給困難になる可能性が高いと報告があり、その場で樹種と断面を変更した。早期に対応したことで、異常時における大幅な工程遅延とコスト高も回避できたという。このウッドショックによる遅延を加味すると、延べ3カ月を短縮できたことになる。

また、実施設計から部材生産までの工程で、BIMを中心とする3次元データでのやり取りを実証した。結果、住宅は設計図が施工図として使われる割合が多いことからモデルを一貫して活用しやすく、非住宅以上にBIM活用の可能性があると指摘。特に、BIM活用はパーツが揃っていると価値が向上することから、規格住宅との相性が良いとした。

ANDPAD HOUSEによって、戸建て住宅の建設において現状、どこまでDX化が図れるか、今後どのような可能性があるかが明らかになったと言える。次世代の住宅生産のあり方の一つの形が見えてきた。