家庭内の平面上でも転倒のリスク 超高齢社会を見据えバリアフリー改修を
日本福祉大学 健康科学福祉工学科 建築バリアフリー専修 准教授 村井裕樹 氏
バリアフリーと住まい
日本福祉大学 健康科学福祉工学科 建築バリアフリー専修 准教授
村井裕樹 氏
──住宅の中にはどのようなリスクがあるのでしょうか。

1995年日本大学理工学部建築学科卒業、2002年日本大学大学院理工学研究科建築学専攻博士後期課程修了。博士(工学)、一級建築士。兵庫県立福祉のまちづくり工学研究所、広島工業大学を経て、2014年から現職。専門分野は、福祉住環境、福祉施設の防災・避難計画。主な著書に「住環境のバリアフリー・ユニバーサルデザイン―福祉用具・機器の選択から住まいの新築・改修まで」(共著)などがある。
住宅で起こる死亡事故は非常に多く、交通事故よりも家庭内で亡くなる人の方が多くなっています。死亡事故の要因の一つとして、ヒートショックによるリスクが大きいことは、近年、よく知られるようになってきています。昔ながらの住宅において、リビングなどの暖かい場所と、暖房されていない、トイレ、お風呂、脱衣所など、寒い場所で温度分布が生じ、これらの場所を行き来することにより身体的な負担が生じ、最悪の場合、心筋梗塞や脳梗塞などを引き起こすリスクが高まります。特に入浴行為で危険が大きく、高齢者は、ヒートショックのリスクが高いため注意が必要です。
一方、転倒・転落などにより、家の中で死亡するリスクがあることにも注意が必要です。日本の住宅では、土地外周の地面と1階の床面がフラットではないことが多く、少なからず段差がある設計となっています。建築基準法では、1階の床と、地面の高さに関して、「床の高さは、直下の地面からその床の上面まで45㎝以上とすること」と定められています。高温多湿な日本では、地面から建物の底面へと盛んに湿気が上がってきます。湿気を排出しなければ、土台や床などの腐食、シロアリの被害のリスクが高まるため、1階の床の高さと地面の高さの間隔を一定程度設けることを定めているのです。今でこそ、床下の地面をすべて厚いコンクリートで覆うベタ基礎の住宅が大半で、その場合、湿気に対する劣化対策のための空間を床下に設けることは不要とされていますが、基本的にはベタ基礎の住宅でも配管を通したり、通気のための空間を設ける必要があり、構造上、少なからず段差がある設計のものが少なくないのです。また日本の住宅は、玄関の土間と廊下の境界に「上がり框」を設けることが多く、その箇所に段差が生じます。さらに、昔ながらの家では、フローリングと、畳がある部屋の間の境にも、段差が生じやすくなります。そのほか、これは日本に限りませんが、昔ながらの家ではお風呂と脱衣室の境には、脱衣室側に水が入ってこないように段差を設けることが一般的です。
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