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2021.10.13

威勢よく“ウッド・チェンジ”/足腰を鍛えてこその木造推進

威勢よく“ウッド・チェンジ”

木材を使え、使えと“ウッド・チェンジ”の大合唱だ。これまでの公共建築物に絞っていた木材利用促進法が公共建築を取っ払って民間建築物や中高層建築物など建築物全体に拡大する促進法へと改正され、脱炭素社会の実現という大義をつけて10月1日から施行されたのだ。施行と歩を合わせて10月を「木材利用促進月間」とし、「木」という漢字は十と八から成るということで10月8日を「木材利用促進の日」とも定めた。さらにウッド・チェンジを国民運動にしようということで農水省、国交省、経産省、環境省、総務省など関係省庁による木材利用促進本部(事務局・農水省)が設置され、加えて主要経済団体、住宅・不動産団体、森林、林業・木材関係団体など民間団体や企業を糾合した官民連携組織“ウッド・チェンジ協議会”も発足した。ウッド・チェンジは住宅分野もさることながら中高層の木造ビルや中高層マンションをはじめとする中大規模木造建築に狙いを定めている。

その意気や良し、だ。国土の7割を森林が占め、世界有数の森林国でありながら現実は“木のない国”が真の姿だった。何しろ木材の自給率は長らく20%台が続き、ようやく盛り返したとはいえ、19年で37.8%だ。大半を輸入材に頼っている現状は変わらない。外国人が「不思議の国ニッポン」と首をかしげるのも無理はない。豊臣の時代、秀吉が側近の曽呂利新左衛門に「天下に最も多いものは?」と問い、曽呂利は「人でございます」、それでは「天下に最も少ないものは?」で「人でございます」との問答を思い出す。いうまでもなく後の人は“人材”のことだ。日本の山もそう。山は木で覆われているが、用材として伐り出せる木は少ないのだから。だが、戦後70余年が過ぎ、戦後に植えたスギ、ヒノキ等が成長、いま、伐採期を迎えている。政府は、国産材利用促進を打ち出し、林業の成長産業化をも掲げた。追い風も吹く。カーボンニュートラルだ。二酸化炭素の吸収源として森林が脚光を浴び、グリーン成長実現のエース格にのし上がった。ウッド・チェンジの大合唱が響く。

足腰を鍛えてこその木造推進

ところがウッド・チェンジを唱えるなか業界を襲ったのが木材価格の高騰、ウッド・ショックだ。輸入木材が米国などの住宅市場の活況により調達が難しくなり、前年にくらべて4倍近い値上がりに見舞われた。住宅建築の工期遅延も出てきており、価格改定を余儀なくされる住宅業者も相次ぐ。こうなると当然ながら脚光を浴びていいのが国産材のはずだ。国産材シェアを拡大する絶好のチャンスと誰もが見るだろう。だが実際には国産材の価格は依然、輸入材にくらべて高く、何よりも安定的な供給が難しい。これでは、使おうにも使えない。好機どころか森林―林業―木材業の連携がスムーズではなく、大量ロットに対応できる伐採、搬出、加工の生産、流通体制の不備も露呈した。ウッド・チェンジも遠吠えに聞こえてしまう。

さらに言うなら木材の需要側、住宅・建築業界の問題もある。木の知識や木造技術の退化である。戦後の建築界の木造敵視のなか木造建築を学ぶ学生は急減し、木造建築技術の伝承も途絶えた。木は育った環境で癖が出る。樹種ごとに個性があり、違った性質を持つ。大工は木のこうした癖や性質を見抜き、組み合わせていかなければならない。昔、棟梁は大規模な工事となると自ら山に行って「この木は柱に」「これは梁に」と使い道を指示した。まさに適材適所。大工は木を知らなくてはつとまらなかった。宮大工の口伝に「木は寸法で組まずに癖で組め」や「一分や二分は芸者の花」というのがある。木は生きものであることを知っての言葉であり、熟達した大工の経験から導かれ、伝承されたノウハウでもある。

古来から日本は“木の国”であり、木を使いこなす知恵、技術を受け継いできた。奈良時代に編まれた日本書記に記述がある。スサノオノミコトが身体の毛を抜いてまいて木をつくる話だ。

「顔のひげをまくと杉。胸毛をまくと檜。尻の毛は槇。眉毛は樟になった」、そして「杉と樟は浮宝(船)、檜は瑞宮(立派な建物)、槇は墓所の棺の材料にせよ」と木の使い方を指示している。森の国、木の国ニッポンは神からの授かりもの、恵みなのだ。古来からの豊かな木の文化が日本にはある。これを見忘れて、ただ単に木を使えばいい、木造建築を建てよう、の風潮が広がるのはまさに木を見て、森を見ずの類だ。伐られた後も生き続ける木への敬けんさを持ち、豊かな木の文化を愛する感性を持ち、確かな技術で木造建築をつくる誇り高き棟梁たちの輩出があってこそのウッドチェンジであり、責任だと思う。

長期優良住宅が唱えられたとき、“200住宅”が標ぼうされた。法隆寺を持ち出すまでもなく、木造建築での200年寿命は決して不可能ではない。木を知り、木を使う技術があれば―だ。伐採したあとに植樹すれば、伐採した木で建てた住宅を200年後に建て替えるとき、200年前に植えた木を使う―。まさに持続可能性の最たるものだ。

木造建築の良さは健康面を含めさまざまな研究成果にみられるとおりだ。木の復権への期待は膨らむ。ただ、戦後の失われた70年余のキズは決して浅くはない。川上から川下まで改めて足元を見つめ直す必要がある。人材の育成もしかりだ。ぜい弱な足腰で踊ろうものなら転んでかえって木造の信頼性を揺るがしかねない。チェンジと肩をいからせるよりむしろ“リターン”なのかもしれない。木の奥は深い。木を知ることは自然を知ることにつながるのだから―。

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ハウジング・トリビューンVol.628(2021年19号)

特集:

住産業はどう対応する?

社会が大きく変わりつつある。
環境対策は待ったなしの緊急課題で、脱炭素社会の実現に向けた取り組みが急展開している。
少子高齢化は、わが国の人口構成を大きく変え、これまでになかった社会を迎えつつある。
また、地震や台風などの自然災害の激甚化・頻発化は気候変動への対策とあわせ、その対策が強く進められつつある。
さらにコロナ禍は、働き方改革やデジタル化を好むと好まざるとにかかわらず、強制的に進めることになった。
こうしたなかで人々の暮らしも変わりつつある。
生活を支える住産業は、こうした変化にどのように対応していくのか──。
各省庁がまとめた白書をベースに、さまざまなデータを紐解いた。

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