2021.8.26

日鉄興和不動産、分譲マンションをスマホで24時間いつでも購入

モデルルームでの対面販売から脱却へ

日鉄興和不動産は、スマートフォンなどを使って24時間365日いつでも分譲マンションを購入できるサービスを始めた。
物件の申し込みから住宅ローン審査までをオンラインで完結できるサービスは不動産業界では初めてという。


コロナ禍も加わり、様々な商品がオンラインで購入できる時代になった。住宅ではどうだろう―。例えば、VR内覧などで気に入った物件があったとしても、詳しい間取りや価格などについては、モデルルームに足を運び、営業担当者と話をしながら、消費者は、より具体的な情報を手に入れるケースが一般的だ。コロナ禍で普及し始めた住宅販売に関するオンライン化は、対面販売の枠内での集客方法の1つにとどまり、オンライン上だけでは購入まで完結できないのが現状だ。そこに風穴を開けようと、マンションオンライン販売サービス「sumune for LIVIO」を導入。「いまだEC化が一般的でない住宅販売で、当社が業界に先駆けて、これまでモデルルームでしか買うことができなかったマンションを24時間365日、いつでもどこでも買うことができるようにした」(猪狩甲隆常務取締役)と強調する。

マンションオンライン販売サービス「sumune for LIVIO」の流れ

これまでの一般的なマンション購入までの流れは、モデルルームでの対面接客を前提にいろいろな手続きが組み込まれている。今回投入したサービスでは、モデルルームで、対面で行っていた様々な手続きがオンラインで可能になる。

例えば、モデルルームで検討者の個人情報や担当者との打ち合わせを通じて入手することが前提となっている、全ての住戸の価格表や、パンフレット、部屋の間取り図面などの情報については、物件情報として全て公開。成約直前に行われることが多い重要事項説明でも、購入検討者が関心の高い「ハザードマップ」や「周辺の施設情報」、「建築計画」に関してはQ&Aで予め紹介する。

全部屋の3Dモデルや眺望写真、住戸のカスタマイズ、価格のシミュレーションなどの情報も、モデルルームに行かず、スマホから簡単に入手できる。さらに、こうした情報を入手するための会員登録も不要になっている。マンションの購入を検討したくても、個人情報登録後の営業担当者からの売り込みを気にして、資料請求の段階で二の足を踏むケースも多い。誰でも気軽に、マンション購入の検討をしてもらいたいために、ハードルを下げた。
購入したい住戸が見つかれば、すぐに申し込み手続きに移れるのが、このサービスの最大の特徴だ。個人情報を入力し、申込金をカード決済すれば、その段階で住戸が確保される。分譲マンションの場合、抽選の申し込みもあるが、このサービスで対象となるのは先着順住戸のみ。対面での申し込みではないため、同一の住戸を複数人が検討していれば、スマホによる申込金決済が一番早かった検討者が住戸を確保できることになるという。もたもたしている間に、他の検討者に住戸を押さえられてしまうこともあるが、ここでも購入までのハードルを下げる仕掛けを用意した。その仕掛とは住戸価格に関係なく一律10万円とした申込金だ。新築の分譲マンションを購入する場合、購入申し込みの意思を示すために申込金を支払い、売買契約締結時にキャンセルリスクを考慮し、手付金を支払うのが一般的。申込金は高額にはならないが、手付金は物件価格の1割などが多い。例えば5000万円の物件であれば500万円が手付金となり、仮に購入検討者がキャンセルしても返還されないお金のため、売買契約を結ぶ上でハードルの1つとなる。このハードルに同社は着目。カード決済した10万円以外の「追加の手付金は不要にし、購入までのハードルを大幅に下げた」と住宅事業本部販売統括部販売推進グループグループリーダーの御領原雅士氏は話す。その後、iYell(イエール)と連携して開発したスマホ専用アプリ「sumune ダンドリ」を使ったローン事前審査を経て、申し込みを最終確定させる。それ以降は、「sumune ダンドリ」を活用しながら、契約から引き渡しまでのサポートを、スマホを介して行う。

販売コスト見直し、
客に100万円分のポイント還元

個人情報の提供や手付金など、マンション購入での心理的・経済的なハードルを下げ、消費者がマンションを買い求めやすい環境を整備する同社が、今回、新たな試みとして始めるのが、諸費用やカスタマイズに使えるポイントを購入者に100万円分付与することだ。マンション購入時のハードルの1つに諸費用の支払いがあり、このポイントを使えば、諸費用は「0円」になることもあるという。この100万円分のポイントは、購入者全てに付与されるが、気になるのは、その原資だ。その原資確保に大きく関わるのが、モデルルームによる対面営業から、デジタルを使った非対面営業への転換だ。同社によると、リアルのモデルルーム1部屋にかかる費用は1500万円だが、VRを使ったモデルルームだと25万円。他にもモデルルームを設置するための賃料や配置する人件費などもオンラインにすることで圧縮。「販売活動の見直しによりコスト構造を変革したことで、原資をねん出できる」(御領原氏)。首都圏では新築マンションの価格が高止まりしている。こうしたポイントの付与は、購入価格という、消費者にとっても最も高いハードルを下げる効果が期待できそうだ。

販売会社に依存しない
新たなマンション販売

もっとも、今回のサービスの登場は、今後のマンション販売の課題を浮き彫りにさせたともいえる。

同社は、マンションの販売会社を持っていない。このため、他の販売会社へ販売を委託して供給量を増やしてきたが、最近は他社からの販売業務を受託するマンション販売会社が減ってきている。理由としては、大手デベロッパー系の販売会社が自社物件に注力し、受託を断るケースが増えているためだ。その背景にあるのは、大手不動産事業者のリソースの見直しだ。新設住宅着工が長期的に減少傾向にある中、国内の流通事業を強化したり、海外事業を強化したりする動きが活発化している。それに伴い、マンション販売に投入する人員も減ってきているという。

同社が社内で抱えている営業担当者は数名という。今回、同社が投入したサービスは、最小限の人員で、マンションという高額な買い物をオンラインだけで販売できるかという点で、大きな実験と言えるだろう。そして、同社のように、マンション販売を他社に依存している事業者にとってみると、新たなマンション販売方法につながるかどうかの試金石という意味合いが含まれている。