【お知らせ】4月末から5月にかけて、サイトが繋がりにくい現象がございました。現在は解消しています。【お知らせ】 ハウジング・トリビューンVol.640(2022年8・9号)好評発売中です。【お知らせ】2022年4月1日施行の改正個人情報保護法を踏まえ、プライバシーポリシーに事業責任者・個人情報保護管理者の名称を追記いたしました。

森林所有者の利益確保が前提

「ウッドショック」下の木材利用②

利用期を迎える国産材を活用して林業の成長産業化に導くにはどのような取り組みが求められているのか。
林材ライターの赤堀楠雄氏が地域で芽生える国産材活用の事例をルポする。


トータルの収支は完全に赤字

現在、国内の森林資源は人工林を中心に増え続けており、相当な供給余力があることは間違いない。今後も中国やヨーロッパなどで堅調な木材需要が見込まれる中では、木材輸入が増えるとは考えにくく、豊富な資源量を背景に、国産材へのシフトは進むと見ていい。

ただ、そのためには林業サイドの経営マインドを高める必要がある。

2000年前後には20%を下回っていた木材自給率は、その後、上昇基調に転じ、現在は40%近くにまで回復してきている(2019年実績は37.8%)。しかし、林業経営をめぐる状況は依然として厳しい。

林野庁の調査によると、スギ人工林の場合、苗木を植え付けてから50年生にまで育てる経費は、1㏊当たり114万円〜245万円かかる。それに対して、50年生のスギを伐採して販売した場合の平均的な収入は96万円というから、完全に赤字である。つまり、森林所有者の立場で言えば、このままで生産量が増えたとしても赤字が拡大するばかりで、うまみはない。

それでも国産材が生産され、しかも近年は生産量が増加傾向になっているのは、過去にかかった経費は勘定せず、丸太の代金と伐採搬出経費とを突き合わすだけで収支が論じられるケースが多いことが背景にある。

例えば、スギの並材丸太の価格が1万円/㎥として、丸太1㎥当たりの生産経費がそれを下回れば、所有者の手元に利益がもたらされる。補助金で経費を軽減できれば、取り分はさらに多くなる。つまり、トータルの収支を言えば、本当は赤字なのだが、その時点に発生する収入と支出だけで見れば、生産が可能な条件が何とか整うので、国産材は生産されているのである。

森林所有者の利益を確保する必要がある

立木価格はピーク時から9割下落

こうした脆弱な経営体質になぜ陥ってしまったのか。それは価格下落の影響がやはり大きい。

図1 スギ立木、丸太、製材品価格の推移 (1970〜2020年)

図1は1970年から現在までのスギ立木、丸太、製材品(未乾燥材)の価格をグラフにしたものである(資料=日本不動産研究所、林野庁)。価格のピークは1980年で、その時点に比べると現在の価格はいずれも大幅に値下がりしている(2013年頃から製材品の価格のみは大きく上昇しているが、その原因は不明。未乾燥材の市場性がほとんど失われる中で、実際には何らかの形で乾燥に対応し、その経費が上乗せされているのではないかと筆者は想像している。乾燥材の統計は97年からしかないので、データ比較の連続性を確保するため、未乾燥材の価格でグラフを作成した)。

図2 スギ立木、丸太、製材品価格の推移 (1980年時点に比べた指数)

一方、図2は1980年を起点として価格の下落率を指数化したもので、これを見ると、2020年時点で丸太価格の下落率が7割弱であるのに対し、森林所有者の取り分である立木価格は下落率が9割近くと際立って大きい(製材品価格の下落率については、前述の理由により、2013年以降のデータは参考にならない)。このため、林業関係者の間では、国産材の需要が低迷し、価格が下がり続けたこの数十年間について「所有者が一番、しわ寄せを受けてきた」とする見方が根強くある。
そうした中で、今回のウッドショックではナイ物高で丸太、製品とも価格が急上昇しているわけだが、川下のユーザーの立場では深刻さが募るばかりの現在の価格水準について、林業関係者には「これまでの価格が安過ぎたのだから」と歓迎する向きが多くあることを指摘しなければならない。「これではまだ不十分」と断じる向きさえある。

所有者の立場が軽んじられている

このように国産材の価格や林業経営収入(立木価格)について、森林所有者が長年、不満を募らせてきたことについては、実はそれほど強く意識されてこなかったのではないか。むしろ、森林所有者に対しては、価格が低下し採算が悪化している中では無理もない面があるにも関わらず、経営意欲が低下していることの方が多く指摘され、ややもすると「森林管理の責務を果たしていない」と批判の矛先を向けられることさえあった。

さらに言えば、前述したように、木材を生産する時点で発生する収支のみで採算が語られるケースが多いというのは、所有者不在での議論が横行していることの表れだとも指摘できる。実際、昨今の林野庁の政策スタンスは、林業経営者を例示するのに「伐採業者等」と伐採搬出の役務に従事する立場を代表格として扱っており、森林所有者の立場が軽んじられている印象が否めない。

ウッドショックを契機に林業復権への期待が高まっているが、森林所有者への見返りが適切に確保されない中では、いくら国産材のシェアが高まったとしても林業経営が好転したとは言えない。では、どうすればいいのか。単純に価格が以前の水準に戻れば話は簡単で、ウッドショックはその可能性に期待を抱かせないでもないが、ただ外材から国産材へのシフトが進むだけで、価格が高値安定するとは考えにくい。所有者への見返りも確保しつつ、国産材の利用が進むようにするための方策を考えなければならない。(次回に続く)

住宅産業総合誌「ハウジング・トリビューン」は隔週金曜日発売。年間購読者には電子版News Report「Housing Tribune Weekly」を配信しています。

ハウジング・トリビューンVol.640(2022年8・9号)

特集:

ハウジング・トリビューンは、住宅事業者の商品開発担当者などを対象に、今後の住宅商品開発の方向性を探るアンケート調査を実施した。

「省エネ」、「再生可能エネルギー活用」、「木材利用」、「リサイクル」、「蓄エネ」、「防災・減災」、「温熱環境」、「空気環境」、「在宅ワーク」、「非接触」、「IoT・IT」、「家事支援」、「高齢者対応」、「子育て支援」、「リフォーム対応」、「長寿命化」、「高意匠」、「省施工」、「DIY」、「その他」という19項目の中から、商品開発を進めていく上で注力したいテーマを3つ選択してもらった。

また、その中でも特に注力したいテーマと、なぜそのテーマを選択したのか理由を聞いた。
アンケート結果から、あるべき未来の住宅像が浮き彫りになった。

目次を見る

関連記事