NHK朝ドラと「森は海の恋人」/新学問領域の可能性も

NHK朝ドラと「森は海の恋人」

5月中旬から始まったNHK連続TV小説「おかえりモネ」がいい。楽しみな朝のルーティーンだ。宮城県の気仙沼を舞台に海で生まれ、育ったヒロインが高校卒業後に隣市の登米の森林組合に就職、そこで出会った気象予報士に触発され、命を守る仕事に目覚める、というプロローグだ。まだ始まって1か月も経たないのに、魅きつけられたのは記者としての日常の取材領域に密接に関係しているからだ。と同時に、気仙沼・カキ養殖・森林というフレーズから瞬時に気仙沼のカキ養殖業、畠山重篤さんが頭に浮かんだせいもある。ヒロインの祖父はカキ養殖の名人という設定も畠山さんの存在を連想させた。

畠山さんは「森は海の恋人」の名フレーズを世に広め、豊かな海は豊かな森林に宿る、と山への植樹活動を展開。「漁業者植樹活動」の輪は全国に広がった。“山に大漁旗がはためく植樹祭”は、始まってからもう30年以上になる。いまや海と川と森の人たちが世代を超えて集う大きなイベントになっている。その活動は小・中学校の教科書にも掲載されるほどだ。森林・川・海のつながりの重要性を疑う人はいまや少ないだろう。畠山さんの精力的な活動がその一端を担ったことも事実だ。国連が漁師である畠山さんをフォレスト・ヒーローズに選んでもいる。“森は海の恋人”という魅惑的なフレーズは畠山さんが海と森の関係を調査するなかで森で知り合った歌人熊谷龍子さんの一首〈森は海を海は森を恋ながら悠久よりの愛紡ぎゆく〉からとられたもので、畠山さんの名著「森は海の恋人」が、さらにその知名度を高めた。言霊の霊力を感じる。

気仙沼湾はいうまでもなく10年前の東日本大震災で壊滅的とさえ思われる被害を受けた。畠山さんらのカキ養殖筏も全滅した。だが震災後、5年ほど経て取材した畠山さんは変わらぬ仙人のような人懐っこい笑顔で、「海は戻りました。海藻は茂り、カキやウニ、アワビも丸々、ふとっています」。ふるまっていただいた潮の味がスパイスになったプリプリの生ガキのおいしさの記憶は今に残る。森・川・海の絆の強さが豊かな海への回復力につながっていたのだろう。

朝ドラで気象予報士が森林組合に勤めるモネに言う。「山は水を介して空とつながっている。海もそうです。あなたは海で育って海のことを知っている。いま山のことを知ろうとしている。それなら空のことを知るべきです」と。


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