東日本大震災から10年 あの教訓をどう生かしたか

未曽有の大震災が残したもの

2011年3月11日14時46分、日本社会に大きな傷跡を残すことになる「東北地方太平洋沖地震」が発生した。震源地は三陸沖、その規模はマグニチュード9・0という国内観測史上最大の地震だ。この地震により、広範囲にわたり、まさに”想定外”の大規模な被害がもたらされることになる。
この「東日本大震災」は、その後の日本の姿を変えたと言っても過言ではない。人的被害は、死者1万6000人弱、行方不明者2500人超に及び、住宅の全壊・半壊は40万5000戸近くに達した(表)。
被害の大きさだけではない。この大災害はそれまでの地震災害と大きく異なる点がいくつもあり、新たな対応が求められるとともに、数多くの課題を突きつけた。経験したことのない規模の津波による被害、原子力発電所の被災はこれまでの災害対策やエネルギー対策を抜本的に見直すことにつながった。また、広範囲にわたる液状化現象は海岸や河川沿岸部、埋め立て地の地盤の脆さを浮き彫りにした。この10年の間に、色々な場面で”3・11の前と後”が語られる。それだけ東日本大震災は大きなインパクトがあった。
住宅産業界でも東日本大震災以降さまざまな対策が進み、技術開発が行われ、提案が行われてきた。
近年、気候変動による自然災害が多発し、災害対策は次のステージへと入ったといっていい。居住者の安全の確保、安心の暮らしの提供を目指し、さらに災害対策を加速させていく必要がある。
あの日から10年──。東日本大震災が住宅産業に与えた影響と、その対策のあゆみを5つのキーワードから見つめ直した。

【教訓:津波対策】3・11をきっかけに津波対策が変わった 災害対策は水害を防ぐステージへ

東日本大震災では津波が猛威をふるった。
亡くなった人の9割超が溺死であり、これまでの地震災害と大きく様相を異にする。
3・11を境に津波対策は大きく変わった。今、住宅業界には水害対策が大きなテーマとして浮上している。


東日本大震災における死亡者は1万5899人に及び、そのうち1万5832人が岩手県、宮城県、福島県の東北3県に集中している。特徴的なのは死因で、この東北3県の死亡者の92.4%が「溺死」であることだ(図)。いうまでもなく津波によって多くの命が奪われたということである。阪神・淡路大震災の死因が建物の倒壊によるものが83%占めるのとは大きく様相を異にする。

津波は福島県相馬で9・3m以上、岩手県宮古で8・5m以上、大船渡で8・0m以上、宮城県石巻で7・6m以上が観測された。浸水面積は青森、岩手、宮城、福島、茨城、千葉の6県62市町村で計561㎢と広範囲に及び、内陸の奥まで浸水し地域全体が壊滅的な被害を受けたエリアもあるなど、各地で大きな被害を及ぼすことになった。

例えば、仙台市ではハザードマップに示された浸水想定範囲より広い範囲で浸水しており、それまでの想定をはるかに超える津波であったことがわかる。

この”想定外”がその後の津波対策を大きく変えることになった。

2011年(平成23年)4月、中央防災会議は「東北地方太平洋沖地震を教訓とした地震・津波対策に関する専門調査会」(座長:河田惠昭・関西大学教授)を設置、今後の対策などについて検討を行い、同年9月に報告書をとりまとめた。東北地方太平洋沖地震による被害が”想定できなかった”ことから、「今後の地震・津波の想定の考え方を抜本的に見直さなければならない」とし、基本的な考え方として、①住民避難を柱とした総合的防災対策を構築する上で設定する津波、②発生頻度は極めて低いものの発生すれば甚大な被害をもたらす最大クラスの津波、という2つのレベルの津波を想定することを提言した。

多重防御へ転換
防災+地域づくりの新法も


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