2021.2.15

国土交通省が新たな住生活基本計画案を示す

新型コロナを受け「職住一体・近接」の住まい整備へ

国土交通省は向こう10年間の住宅政策の方向性を示す「住生活基本計画(全国計画)」の案を、国交相の諮問機関である社会資本整備審議会住宅宅地分科会に示した。新型コロナウイルスの感染拡大を受けテレワークなどによる「職住一体・近接」の住環境整備や、地方、郊外、複数地域での居住推進などを明記。パブリックコメントを踏まえ、年度内に閣議決定される見通し。


現行計画は20年度で期限を迎える21年度から10年間の新計画について同省は検討を重ねている。

計画案では8つの目標を設定。コロナ禍を踏まえて、「『新たな日常』やDXの進展などに対応した新しい住まい方の実現」を1つ目の目標に掲げた。実現に向け、住宅内テレワークスペースや地域内のコワーキングスペース、サテライトオフィスなどを確保し、職住一体・近接、在宅学習の環境整備を推進することを明記。非接触型の環境整備を推進するため、宅配ボックスや自動水栓の設置などを進めることも盛り込んだ。

また、テレワークの普及で郊外移住が注目される中、計画案では空き家などの既存住宅の活用を重視。同時に、意欲ある地方公共団体と緊密な協力関係を構築し、体験的な居住にも資する賃貸住宅の提供や物件情報提供、リフォーム、住宅取得環境の整備を進め、地方、郊外、複数地域での居住を推進するなど、住まいを柔軟に選択できる居住の場の多様化・柔軟化を示した。

新技術を活用した住宅の契約・取引プロセスのデジタル化、AIやBIMを使った住宅の生産・管理プロセスのデジタル化の推進も明記した。

風水害への対策も推進

近年、頻発・激甚化する自然災害を見据え、安全な住宅・住宅地の形成と被災者の住まいの確保も目標の1つとした。実現するため、ハザードマップの整備・周知などによる水災害リスク情報の空白地帯の解消や住宅改修、敷地かさ上げなどによる住宅・住宅地の浸水対策の推進。また、住宅の改修による耐風性などの向上といった、近年大きな被害が目立っている水害や風害への対策が明記された。災害の危険性の高いエリアでの開発の抑制や災害の危険性の高いエリアを政策の優遇措置から外すことなども盛り込んだ。耐震改修・建替えなどによる住宅・市街地の耐震性の向上や、食料、物資、エネルギー等を住宅単体・共同で確保し、災害による停電、断水時などにも居住継続が可能な住宅・住宅地のレジリエンス機能の向上も示された。

災害が発生した場合の住まいの確保については、「今ある既存住宅ストックの活用を重視して応急的な住まいを速やかに提供することを基本」とする考え方を示した。これまで災害時の住まいとして重要な役割を果たしていた建設型応急仮設住宅に関しては、「地域に十分な既存住宅ストックが存在しない場合には、応急住宅を迅速に建設し」としたが、分科会の委員からは「何らかの準備が必要」との意見が出た。

新たな生活に向けストック活用

テレワークの普及などライフスタイルに合わせた柔軟な住替えを可能とするために計画案では既存住宅流通の活性化を掲げた。具体的には、基礎的な性能や優良な性能が確保された既存住宅の情報が購入者に分かりやすく提示される仕組みの改善(安心R住宅、長期優良住宅)や既存住宅に関する瑕疵保険の充実、紛争処理体制の拡充などを盛り込んだ。また、長期優良住宅の維持保全計画の実施など、住宅の計画的な点検・修繕及び履歴情報の保存の推進や耐震性・省エネルギー性能・バリアフリー性能等などを向上させるリフォームや建替えによる良質な住宅ストックへの更新を基本方針として示した。

待ったなしの空き家対策については、周辺の居住環境に悪影響を及ぼす管理不全空き家の除却や特定空き家などに係る対策の強化。空き家の発生を抑えるため、地方公共団体と地域団体などの連携による相談体制の強化を基本的な施策に盛り込んだ。

2050年までのカーボンニュートラルに向けV2Hの普及推進

50年までのカーボンニュートラル実現のためには住宅の省エネ性能の向上などが不可欠だ。案では、長期優良住宅ストックやZEHストックを拡充。LCCM住宅の評価と普及を推進する。また、V2H(電気自動車から住宅に電力を供給するシステム)の普及を推進。木造住宅の普及や、CLTなどを活用した中高層住宅の木造化で、まちにおける炭素の固定も促進する。
生産年齢人口の減少に伴う省力化施工やデジタル化など生産性向上も示した。子育てしやすいよう職住や職育が近接する環境の整備やエレベーターの設置をはじめとしたバリアフリー性能やヒートショック対策などを踏まえた良好な温熱環境を備えた、高齢者住宅の整備、リフォームの促進なども案では明記した。

ストックのエネルギー消費量
30年に13年比18%削減

それぞれ目標実現に向け成果指標の案も同省は公表した。新たに加わった成果指標としては、住宅ストックのエネルギー消費量の削減率。2018年の時点では13年比3%にとどまっていた削減率を30年に18%へ引き上げる。また、居住支援協議会を設立した市区町村の人口カバー率を20年の25%から50%に広げる。市区町村の取組により除却などがなされた管理不全空き家数を20年に20万物件(15年5月から30年3月は9万件)。認定長期優良住宅のストック数を現在の113万戸(19年)から30年に約250万戸とするなど指標も見直す。
計画案はパブリックコメントを踏まえ、年度内に新たな計画として閣議決定される見通し。

良質な住宅を維持管理し、評価する仕組みがなければ、意味はない。しかし、大きな転換期にある今だからこそ、その立脚点となる「時代に残すべき住宅」とはどのような姿なのか、住宅産業界をあげて考えていく必要がありそうだ。


新たな住生活基本計画(案)の3つの視点と8つの目標

視点① 「社会環境の変化」の視点
【目標1】「新たな日常」やDXの進展等に対応した新しい住まい方の実現
【目標2】頻発・激甚化する災害新ステージにおける安全な住宅・住宅地の形成と被災者の住まいの確保
視点② 「居住者・コミュニティ」の視点
【目標3】子どもを産み育てやすい住まいの実現
【目標4】多様な世代が支え合い、高齢者が健康で安心して暮らせる コミュニティの形成とまちづくり
【目標5】住宅確保要配慮者が安心して暮らせるセーフティネット機能の整備
視点③ 「住宅ストック・産業」の視点
【目標6】脱炭素社会に向けた住宅循環システムの構築と良質な住宅ストックの形成
【目標7】空き家の状況に応じた適切な管理・除却・利活用の一体的推進
【目標8】居住者の利便性や豊かさを向上させる住生活産業の発展

新たな住生活基本計画に盛り込まれた成果指標の案

●耐震基準(昭和56年基準)が求める耐震性を有しない住宅ストックの比率 13%(2018年) ⇒ おおむね解消(30年)
●危険密集市街地の面積 約2220ha(20年) ⇒ おおむね解消(30年)
●地域防災力の向上に資するソフト対策の実施率 約46%(20年) ⇒ 100%(25年)
●建替え等が行われる公的賃貸住宅団地(100戸以上)における地域拠点施設併設率
 公的賃貸住宅団地 89%(16年〜19年)⇒ おおむね9割(21年〜30年)
 都市再生機構団地の医療福祉拠点化の推進 128団地(19年)⇒250団地程度(30年)
●高齢者の居住する住宅のうち一定のバリアフリー性能及び断熱性能を有する住宅の割合 17%(18年)⇒25%(30年)
●高齢者人口に対する高齢者向け住宅の割合 2.5%(18年)⇒4%(30年)
居住支援協議会を設立した市区町村の人口カバー率 25%(20年)⇒50%(30年)
●既存住宅流通及びリフォームの市場規模 12兆円(18年)⇒14兆円(30年)
●既存住宅流通量に占めるインスペクション結果等に基づく情報等が消費者に提供される住宅の割合 15%(19年)⇒50%(30年)
●25年以上の長期修繕計画に基づく修繕積立金額を設定している分譲マンション管理組合の割合 54%(18年)⇒75%(30年)
◎住宅ストックのエネルギー消費量の削減率(13年度比)3%(18年)⇒18%(30年)
●認定長期優良住宅のストック数 113万戸(19年)⇒約250万戸(30年)
◎市区町村の取組により除却等がなされた管理不全空き家数 9万物件(15年5月〜20年3月)⇒20万物件(21年〜30年)
●居住目的のない空き家数 349万戸(18年)⇒400万戸程度におさえる(30年)
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ハウジング・トリビューンVol.626(2021年17号)

特集:

木促法改正で市場拡大に期待

利用期を迎えた国内の森林資源の活用、また、SDGs、脱炭素化といった観点から、木造建築推進の機運が高まっている。
2021年6月には、公共建築物木造利用促進法(木促法)が改正され、脱炭素社会の実現に向けて、一般建築も含めて、木造化を推進していく方針が打ち出された。
市場拡大への期待が高まる中で、事業者の動き、木造建築を建てやすくする技術開発が加速する。
中大規模木造市場攻略のポイントはどこにあるのだろうか。

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