2021.1.7

国交省有識者会議、既存住宅の流通活性化でとりまとめ案

長期優良住宅の認定基準に「災害リスク」の追加を

国土交通省の有識者会議は、既存住宅流通を活性化させるための当面の取り組み案をとりまとめた。増加する自然災害を踏まえ、新たに「立地」という視点も含めて長期優良住宅を評価する考え方を示した点が注目される。また、良質な既存住宅の流通を増やすため、長期優良認定住宅で共同住宅の取得要件の緩和を求めた。

分譲マンションの住棟単位認定の手続きイメージ

とりまとめ案は、同省社会資本整備審議会 住宅宅地分科会・建築分科会の「既存住宅流通市場活性化のための優良な住宅ストックの形成及び消費者保護の充実に関する小委員会」が示した。

良質な既存住宅を流通させるため、同省は新築で「認定長期優良住宅」制度を設けている。今回のとりまとめ案で注目したいのが、長期優良住宅の認定基準に地域の災害リスクの追加を提案した点だ。現行の認定基準では耐震性は求められているが、それ以外の災害対策については規定がない。近年、豪雨や台風被害など地震以外の自然災害による住宅への被害も相次いでいる。案では、土砂災害特別警戒区域のような住民の生命などに被害が生ずる恐れのある、災害の危険性が特に高い区域では原則、長期優良住宅の認定をしないなどの例を示しながら、災害への対応も基準の1つとした。これまで認定基準は住宅単体で行われており、「立地」については触れられていない。委員からは「良好なストックの新しいメッセージになる」と評価する声もあった。

政府の2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現に向けた検討も、長期優良住宅の認定基準に影響を与えそうだ。案では「住宅の建て方、構造別の省エネルギー性能の実態を踏まえつつ、長期優良住宅として求める省エネルギー性能について見直しを検討すべき」と指摘。外壁・窓などにより高い断熱性能を求めることや、設備を含む住宅全体の評価を行う一次エネルギー消費量に関する性能を求める──などを例に挙げた。住宅性能表示の見直しにも言及した。

分譲マンションの申請を住棟単位へ

同省によると、認定長期優良制度を取得した居住世帯の住宅はストック全体の2%。

新築住宅での認定割合では11%にとどまる。中でも分譲マンションなどの共同住宅はわずか0.2%で「ほぼ機能していない」(委員)状態だ。とりまとめ案では、共同住宅のうち分譲マンションについて、申請がしやすいよう、住棟単位に認定を見直すことが盛り込まれた。

現状、着工前に分譲事業者が単独で申請を行い、認定を取得する。その後、購入者が決定するたびに、両者共同で認定変更をすることになっている。例えば区分所有者が100人いれば、事業者は100回変更しなければならず、事業者の大きな負担となっている。案では住棟認定制度を導入し、事業者の負担を減らす。

また、各区分所有者が認定主体となる現行制度だと、共用部の維持管理もそれぞれ区分所有者が行うことになっている。例えば、所管行政庁が分譲マンションの共用部分の維持保全の記録などの報告徴収をする場合、現状だと各区分所有者を通じて管理組合が保有している当該記録を入手する必要がある。この不合理を解消するため、管理組合を維持保全計画の認定計画実施者に位置付ける見直しを案では求めた。

賃貸住宅について認定基準の合理化、見直しを盛り込んだ。例えば現行だと、一般的な賃貸住宅の仕様である吹付タイルなどの仕上がり塗材が構造躯体等の劣化対策の対象として含まれていない。また、耐震性も一般的に使われていない高度な計算手法が認定基準では求められている。案では、「技術的知見の蓄積などを踏まえ、実態に即した基準の合理化を図るべき」とした。

現在、認定取得した賃貸住宅は全国で1000戸にとどまる。認定取得を広げるために、容積率特例などインセンティブの検討も求めた。

既存住宅でも一定の基準をクリアすると長期優良住宅として認定が受けられる。この場合、増改築が必要だが、中には増改築をしなくても認定基準に適合した既存住宅はある。こうした既存住宅については「維持保全計画」だけの認定が取得できるように検討すべきとし、インセンティブの検討も盛り込んだ。

認定手続きの合理化も提案した。現状、長期優良住宅の認定申請を行う7割が住宅性能評価も申請している。案では審査の重複排除を指摘。また、登録住宅 性能評価機関による技術審査を法的に位置づけ、審査の合理化・迅速化を図ることも求めた。

個人間取引踏まえ「安心R住宅」見直しを

既存住宅の流通促進では、「安心R住宅」を個人間取引の商流になじみやすいよう制度改正を求めた。また消費者が安心して既存住宅の購入やリフォームを行える環境を整備するため、既存住宅に係る瑕疵保険(2号)の普及・拡大や、既存住宅に係る複数の調査を効率化したり、既存住宅状況調査でドローンを使ったり、調査の合理化などを指摘した。

既存住宅の流通でトラブルになった際に活用する住宅紛争処理制度についても言及。2号保険に加入した既存住宅を住宅紛争処理の対象に追加したり、住宅紛争処理での時効の完成猶予効の付与を検討したりすべきとする点を案では盛り込んだ。

同省はパブリックコメントを実施し、今年度内にとりまとめる。