2020.12.16

市場縮小の時代に顧客満足度を高め信頼を築く

20周年を迎えた都市居住評価センター 安藤武彦 会長/金谷輝範 社長

都市居住評価センター(UHEC=ユーイック)が設立20周年を迎えた。
性能規定化の導入や性能表示制度の導入という建築行政の変革期に誕生し、非木造建築物を専門に扱う機関として事業を展開してきた。
大きな節目に安藤武彦会長、金谷輝範社長にこの20年間を振り返ってもらうとともに、今後の住宅・建築市場、また、ユーイックの方向性などについて聞いた。

安藤武彦会長(右)、金谷輝範社長(左)

新都市ハウジング協会をベースに立ち上げ

──ユーイック設立から20年が経ちました。

安藤 ユーイックは2000年に(社)新都市ハウジング協会の会員や関連企業の出資により設立されました。1986年に建設省が行った「新・都市ハウジングプロジェクト」の入選企業が「新・都市ハウジング研究開発協議会」を立ち上げ、官民一体となって研究開発に取り組み、鋼管コンクリート(CFT)構造など多くの開発成果が実用化されました。その成果の普及を目的に1996年に設立されたのが新都市ハウジング協会です。

1998年に建築基準法の抜本的な改正が行われました。それまで建築主事が行っていた建築確認検査の民間開放、仕様規定から性能規定へという2つが大きなポイントです。さらに1999年には住宅の品質確保の促進等に関する法律が成立、住宅性能表示・評価制度が設けられました。建築確認の民間開放で指定確認検査機関が、性能表示・評価制度で指定(後に登録)住宅性能評価機関が誕生することになったのです。

新都市ハウジング協会は、培ってきた技術力・官民のネットワークを生かし、住宅性能評価事業、確認検査、性能評価事業への参入を目的に、会員企業などの出資によりユーイックを設立することになりました。ただ、性能規定へと変えるための告示や技術基準が必要なのですが、CFT構造の告示が出るまでに時間がかかりました。

そのため当初は民間分譲マンションの住宅性能評価事業のみを行い、2002年に確認検査機関と性能評価機関の国土交通大臣指定を受けました。競合他社はすでに事業を開始しており、事業開始当初は苦労しました。少ない人員で3カ月間に100社以上、営業に回ったことを覚えています。

──これまでにない公共性の強い民間の評価機関としてスタートしたわけですが、人材確保など苦労されたことも多いのでは?

安藤 資本金はそれほど多くなかったため、メインの事業となるはずだった確認検査業務が遅れたことから、2〜3年は資金繰りに苦労しました。

一方、人材確保については、新都市ハウジング協会という大きなバックがあり、協会業務に参加していた企業の優秀な技術陣の定年退職時の受け皿としての役目も果たしていたことから、それほどの苦労はありませんでした。

また、確認検査機関として優秀な確認検査員の確保は必須条件ですが、設立当初から東京都をはじめとする行政機関との人脈から継続して優秀な確認検査員を確保し、その検査員の指導の下に民間企業出身の確認検査員を育ててきました。この流れは現在も脈々と引き継がれていますが、少子高齢化から企業の定年延長が進み、その影響を受けて社員の高齢化も進んでいます。特に留意していることは、定年延長や柔軟な勤務体制、そして職場環境の改善を図っていくことです。また、もう一つ、女性の優秀な確認検査員、確認検査補助員の発掘・確保も進めていきます。

姉歯問題を契機に制度運用が厳しく

──20年間のなかでエポックメイキングなことをあげるとしたら何でしょう。

安藤 一つは、長谷工コーポレーション設計施工の共同住宅の住宅性能評価業務を行っていた都市住宅技術評価機構との合併です。この合併により、集合住宅の確認検査・住宅性能評価事業が格段に強化され、その後、事業は順調に拡大してきます。
 また、2005年に起こった構造計算書偽装問題、いわゆる姉歯問題も大きかったですね。そのため構造計算適合性判定が導入されるなど制度の運用も厳しくなりました。

もう一つ、事業面から言えばやはりリーマンショックです。2008年9月に米国の有力投資銀行リーマン・ブラザースが経営破綻し世界的な経済危機が発生、日本は急激な円高にシフトし輸出産業は大打撃を受け、株式市場も大暴落しました。ユーイックは2008年度に設立以来最高の売上高を記録しましたが、2009年度には対前年比で30%減まで落ち込みました。

しかし、支出削減を徹底して行った結果、ぎりぎり黒字決算とすることができ、その後の2010年度以降は役職員の努力により業績が急激に改善し、財務体力を強化することができました。

二重、三重のチェック体制で

──ユーイックの強みはどんな点にあると考えていますか。

安藤 ユーイックは都市型集合住宅と一般非住宅建築物を対象にしており、木造を除く建築物に特化した審査・検査や評価を行っています。

新都市ハウジング協会の会員企業や関連企業を顧客として事業を成立させること、また、技術者の確保の面などから、木造戸建住宅を対象とすることはリスクが大きく、都市型集合住宅や非住宅建築物に特化せざるを得ない事情がありました。設立以来お付き合いのある大手デベロッパー、設計事務所、ゼネコンが主要顧客であり、業務地域も首都圏が圧倒的にシェアを占めていることから、事業所は港区虎ノ門の一カ所のみです。

こうした事情から確認検査の対象建築物は戸建住宅に比べて大型であり、確認検査の業務内容も異なります。戸建住宅の確認検査は、多くの場合、確認検査員1人で行うことができますが、ユーイックでは意匠・構造・設備担当の確認検査員が対応しています。住宅性能評価も同様で、意匠・構造・設備担当の住宅性能評価員が評価を行っています。

2015年の建築基準法改正により、建築確認検査機関から独立した構造計算適合性判定機関による構造審査を行うことになりましたが、建築確認の最終責任は確認検査機関であることから、ユーイックでは特に構造計算適合性判定図書と確認図書の整合性についてダブルチェックのための専門部署を設け、さらに住宅性能評価部門においても構造チェックを行うなど、二重三重のチェック体制を敷いています。

こうした長年にわたる地道な業務が、顧客との信頼関係を築く基本だと考えています。

──現在の業務の概要、また、業績を教えてください。

金谷 主要な事業は確認検査、住宅性能評価、構造適合性判定の3事業で、この3つで全事業収入の約9割を占めています。そのほかの事業として性能評価(構造、避難耐火、材料)、耐震評定、省エネ判定、適合証明(フラット35)、住宅瑕疵担保保険業務などを行っています。事業地域は一部の事業を除き全国が対象で、構造種別では木造を除く構造の建築物を扱っており、確認検査業務は北海道から沖縄まで広範囲にわたっています。建築種別では首都圏の分譲マンションが過半を占めています。

直近の業績ですが、今年度前半はコロナ禍の影響が一部にとどまり、ほぼ前年度並みとなっています。しかし、先行きの見通しとなる建築確認や設計住宅性能評価の受付件数が前年度を下回っており、今後確認、検査、建設評価などの減少から厳しい状況になると予想しています。

構造適合性判定は数年前から市場縮小の影響を受け、受注件数の減少傾向に歯止めがかからない厳しい状況が続いています。そうした状況から今年度から業務区域を拡大、1都8県から1都13県として受注を拡大していく考えです。

人材を武器に建築業界の信頼を高める
安藤武彦会長

CLTによる大規模木造建築へ

──事業面での新たな取り組み、力を入れている事業は?

金谷 これまで木造を除く建築物を事業対象としてきましたが、今年度中にCLTパネル工法を軸とした大規模木造建築物(2000㎡以上)について事業化する計画です。

また、省エネ法の改正により2021年4月から対象建築物の適合義務対象が延べ面積2000㎡以上から300㎡以上に拡大されることから、顧客への情報発信と業務体制の整備を進めています。対象が大きく拡大されますから、省エネ判定の申請がかなり増えると期待しています。

業務全体のデジタル化が大きな課題です。顧客はさまざまですから、企業のデジタル化への対応もいろいろあります。しかし、先進的に業務のデジタル化を進めている大手設計事務所、ゼネコンへの対応、そして同業大手機関との競合に後れをとることはできません。確認におけるBIM活用や電子申請などの動向について、主要顧客である大手ゼネコンなどが本格的に実施段階に入っていることから、情報交換や会議体に参加して情報収集を行っています。電子申請については、業務規程の見直しを含め、具体的な業務への導入に向けて検討を進めています。

加えて、コロナ禍で多くの企業で検討・採用されたテレワークについても、守秘義務を求められる確認検査業務等にいかに採用していくかを検討していく必要があります。

顧客第一で対応の専門組織を

──顧客対応戦略室を設置しました、その狙いは?

金谷 2016年に顧客への対応について役職員全員が基本に立ち返って考え、対策を立案、実施するために「顧客対応連絡会」を設置しました。ある程度の成果を上げることができましたが、いっそうの強化を図るため発展的に解消、「顧客対応戦略室」に格上げしました。私が室長を務めています。
 
顧客であるデベロッパー、設計事務所、ゼネコン設計部門などにおいて、コロナ禍対応でのテレワーク化など、業務環境の大きな変化が進んでいます。また、首都圏分譲マンションの供給戸数の減少など民間建築事業投資環境に大きな変化が起きており、危機感を強めています。これらの変化に機敏に素早く対応していくためには、社員各自が常に危機感をもって顧客に対応していく必要があると判断しました。社員一人ひとりが自覚を持ち、顧客満足度をいかに上げていくかが勝負どころだと思っています。法律に基づく審査をしていますから、そこで大きな差別化を図ることは難しく、顧客対応を的確に行うことで信頼関係を築き、リピーターを掴んでいきたいと思っています。

加えて、経営戦略として会社の将来像、事業収支的安定性、そして事業ごとの継続性などの中期的課題、また、中堅社員の教育環境の整備などについても検討し、具体的な方策を立案して実践していく考えです。

いかに顧客満足度を上げるかが勝負どころ
金谷輝範社長

──建築市場の現状をどう見ていますか。

安藤 2019年1月の人口は前年から43万3000人減少しました。これは松戸市や市川市が1年で消滅したことを意味します。2023年末には2018年人口から242万6000人が減少すると推計され、減少数は現在の名古屋市の人口232万人を上回ります。一方、働き手であり消費の主役である生産年齢人口の減少は深刻で、内需の回復は見込めず、国内の民間建設投資は大幅に減少に向かうと思われます。

ユーイックの売上高は首都圏が約9割、用途別では民間分譲マンションが約6割を占めています。この首都圏民間分譲マンションの供給は、ユーイック設立の2000年は9万5635戸でしたが、徐々に減少して2016年は3万5772戸と3分の1近くまで市場が縮小しました。その後3万戸台の推移が続きましたが、2020年はコロナ禍の影響もあり2万戸を下回る状況にあります。

非住宅建築投資も縮小しています。確認検査機関は国土交通大臣指定で26社、知事指定、地方整備局長指定をあわせると全国で130社程度あり、きびしい過当競争の時代を迎えることになるのではないでしょうか。

金谷 こうしたなかで色々な対応を取っていく方針です。例えば、先の省エネ判定です。地球環境問題は喫緊の課題であり、CO2の排出抑制に取り組んでいかなければなりません。

また、耐震化も重要な課題です。昭和56年以前に建てられた旧耐震基準によるマンションは大地震が起こると構造的に持ちません。ユーイックにも耐震診断の評定は多く寄せられていますが、これを実際の改修にどう結び付けていくか、これからの大きな課題です。

こうした社会的な課題を新しい業務として展開できれば、全体的な市場は縮小するけれども良い意味で業務は広がっていくと思っています。

安藤 ユーイックは建築分野において優れた資質、技量、経験を持つ人材が多く存在します。この人材を武器に、社外情報入手環境と社内業務環境の整備に取り組み、あわせて顧客満足度の向上という考え方からの接客改善を徹底して行うことで建築業界からの信頼度を高めることができると考えています。

(聞き手=平澤和弘)