暮らしの中心にあるキッチンに求められる機能とは

キッチンは常に家の中心にあった

食は生きる基本であり、古代からそれを賄うキッチンは家を構成する中心にあった。

戦後、寝食分離、コンパクトで機能的な空間が求められ、欧米の暮しを参考にした新しいキッチン空間が一般的となった。家電製品を中心に生活を形作る様々なものがそこに置かれるようになり、その家の暮し方を推し量ることができるともいわれる重要な空間となったである。

住宅の間取りは時代とともに変化したが、キッチンは常に家の中心にあり、生活を支えてきた。家族や生活価値の変化が著しい現在、キッチンの現状を把握し、その価値や課題を再度探ってみる。

キッチンという空間に求められるもの

少し古いが、総務省の統計で台所の型別割合で、近年になるに従い食事室、居間兼用住宅が増えていることがうかがえる。その一方で、各年代を通してほぼ4割強は独立の台所である※1。これは、各家庭における生活の仕方、キッチンに対する意識等がそこに現われているようで興味深いデータである。戦前のキッチンは、食材の保存やその処理等も行われた空間であり、その作業はたたき等で行われ、そこには煮炊きや炊飯のかまど等も置かれていた。現代のキッチンは、調理材料ストックとしての機能は変わらないものの、その多くは加工調理品に頼っており、主に日常の調理等で使用するもののストック場所として電気冷凍冷蔵庫がある。一方、電子レンジ、炊飯器、食器洗い乾燥機、フードカッター等の家電製品、ガスコンロや電気クッキングヒーター等の加熱調理機器、浄水器、調理用道具、食器、調理に関わる調味料、洗剤等様々な工業生産品が所狭しと置かれた場所でもある。更に、ゴミ出しの日が決まっていることから、種別分けされた家庭ゴミまでがその場所を占めることになる。

こうした様々な家電機器、部品、道具等がその場所をふさぎ、しかも日々占有位置の変化もある空間であるから、片付けを心がけないとすぐに雑然とした場所となりて、あるいはゴミや汚れが目立ち、清潔で見栄えのよい理想とするキッチン空間から遠くなる。調理によっては、例えば中華料理や和食で天ぷら等の揚げ物を行うような場合には、捕集性能に優れるとされる換気扇を使用しても、油が飛び、浮遊して壁面等に付着し、年末の掃除に苦労する。あるいは大切なものに付着して嘆きの原因となったりする。現在の理想のキッチンは、開放的でコミュニケーションがとれる場所であり、リビングダイニングとの繋がりを大切にして、明るくて家族誰もがすぐに参加できるような場所としたいとの要望も強い。

その一方で、日常の調理作業空間である。和食、洋食、中華等様々な料理を作ってみたいという創造空間として意欲を持つ生活者も多い。そこで、汚れがどうしても気になる空間であり、特に他人からは隠しておきたい空間として、独立性を保ちたいとする人も多いことになる。

このように、現代のキッチンは、意識において相反する二面性への配慮が必要になる。戦前住宅モデルでは、キッチン空間は家庭を守る主婦や使用人の空間として、客人からは独立した場所であったが、現代のように、家族であっても個人個人がより独立性をもって過ごしている場合には、夫婦や家族が一緒に顔を合わせる唯一の空間、語らいや調理をともにして自然と話がはずむような空間として重要性を増すことから、コミュニケーション空間ともいわれる。リビングよりもむしろ大切な空間になっている。

現代のキッチン空間に求められるのは、要望が常に強い収納性、そして、使い勝手の良さ、清潔と安全(汚れを除去しやすい)、そして意匠性、家族が集まれる親しみやすい空間等であり、極めて家族の要望の強い空間である。このことを認識して、現在の主要なキッチンで使用される住宅部品や家電製品の一部を整理する。

キッチン市場の全体動向

戦後、ステンレス流し台がキッチンに入り、それをキッチンユニットの中央に配した日本住宅公団はDKスタイルとして新しい暮らしを印象付けた。それと同じような間取り住宅がその後多くの家庭生活を支え、ステンレス流し台は時代を代表するものとなった。流し台、調理台、ガス台等を備えたいわゆるセクショナルキッチンとして、キッチン空間は機能性を向上させたのである。1976年クリナップはドイツの収納性に優れたキッチンシステムを導入し、我が国はじめてのシステムキッチンを世に送り出した。システムキッチンは、収納性、意匠性に優れたものを各メーカーが研究開発し、80年代の後半から本格的に普及するようになる。

図1 システムキッチンの普及及び住宅着工数との関係※3

システムキッチン、セクショナルキッチンの出荷台数推移と、その割合及び住宅着工数との割合を図1に示す。ほぼ2000年以降、システムキッチンの出荷台数が勝り、その後もその傾向は続き、直近ではシステムキッチンの割合はセクショナルキッチンに比べ3倍以上となっている。キッチン全体の出荷台数は、新築住宅着工数と強い関係を維持し、その総数は2006年までは200万台以上を維持していたが、近年は180万台程度に落ち着いている。新築着工数に対しては、1980年以来一貫して2倍弱で推移していることが図1で確認できる※2。

図2 キッチン出荷台数推移と住宅リフォーム市場規模推移との関係※4

一方、住宅リフォーム市場とは、システムキッチン、セクショナルキッチン等住宅部品の使用される期間に関わっていると考えられるような関係が見られる。図2にキッチン全体の出荷台数推移と住宅リフォーム市場規模推移との関係を示したものである。住宅リフォーム市場とキッチン部品の出荷台数との間には、7年程度及び25年程度期間がずれた場合に強い相関関係が現れる。このことは、後に説明するシステムバス(ユニットバス)にも、ほぼ同様なことが当てはまるのであるが、どうやら、25年程度の期間がずれて、再びシステムキッチン等を購入あるいは、キッチンを手直しする傾向にあるらしい。こうした期間がずれて関係が生じる傾向については、後に様々な住宅部品について更に触れることとする。先に紹介した一般社団法人リビングアメニティ協会の「2018年度住宅部品の残存率等推計調査」によるとキッチン部品の残存率(50%の年数)は、25.2年であり、近年のデータからは、多くの住宅部品と同様に長期使用される傾向にある。このことも、生活者の生活時期(生活ステージ)に変化が生じた場合に、キッチン部品のように工事に手間がかかるような空間部品は、取り換えられるように思われる。

食器洗い乾燥機の普及はなぜ頭打ちか

システムキッチンの普及傾向について、別の統計で確認しておく。内閣府の主要耐久消費財普及率推移(二人以上の一般世帯)におけるシステムキッチンの普及率は、キッチン全体の出荷台数とシステムキッチン出荷台数との割合と比べ、若干低いが7割程度に達している。ストックを考えると、最近のキッチンは、7割以上はシステムキッチンが使われていると考えて良さそうである。これらについて図3に示す※5。

図3 システムキッチン、食器洗い乾燥機の出荷台数推移と普及について

さて、同様に食器洗い乾燥機の市場動向を見よう。食器洗い乾燥機は2003年〜2006年に90万台前後出荷されたが、その後頭打ちとなっている。別の調査で近年はビルトインの割合が増加しており(簡易設置方式は徐々に減少している)、キッチン全体の中で4割程度の出荷台数は確保している。内閣府の同主要耐久消費財普及率推移において近年は3割を超えているが、8割以上に普及が進んでいるといわれる欧米に比べ、一般的によく使用されているとは言えない機器である。食器洗い乾燥機は、家事負担軽減機器である。現在のように共働き世帯が増えている状況からは、もっと普及が進んでも良さそうである。

洗う機能機器として代表的なものは電気衣類洗濯機がある。戦後三種の神器のひとつとして、70年代初期に9割以上の家庭で使用される等、圧倒的な存在感があって普及した。多くの機能や使い方には共通点がある。しかし、この家電製品の普及と大きく異なるのが食器洗い乾燥機の現状である。その上、今後更に増えるような傾向も見えない。

この理由として様々なことが言われている。日本の調理には、使用される食器や調理道具が様々にあって、食器洗い乾燥機で全てを簡単に洗うことはできない(洗う物を分けなければならず面倒)。日本のキッチンはスペースが取れないので、ビルトインできる場所確保が難しい(収納より優先順位が低い)。家族人数が少ないので手洗いの方が簡単、汚れが十分に落ちるとはいえない、特に卵の黄味やご飯のこびり付きが落ちにくい(洗い落ちに対する不信感)。運転中の音がうるさい。このような様々な意見や理由を並べている。食器洗い乾燥機の普及が進まない理由は、家事軽減としての機能は同じであるが日本的な調理の歩調にまだどこかずれがあるのか、あるいはキッチン設計の中で食器洗い乾燥機の機能や仕様等にずれがあるのかもしれない(洗濯乾燥機のように大型化を図り一度にまとめて洗う等)。今後の更なる改善や開発に期待したい。

キッチンの収納性と床下収納ユニット

近年のシステムキッチンは、加熱調理機器、レンジフード換気扇、混合水栓等との一体化、ビルトイン化も進み、意匠性にも優れているが、収納面における工夫も多く見られる。多くの食材、調理道具、洗剤や調味料、家電等が関わるキッチンであり、収納性は、最も注目されるところである。

図4 床下収納ユニットの出荷台数推移※6

この収納性の面からみて、床下収納ユニットは戸建て住宅を中心に使用される例は多いと思われるが、キッチンの出荷台数との関係を見ると、図4に示すようになる。残念ながら、システムキッチン、セクショナルキッチン別のデータが不明であり、詳細に分析できないが、ほぼ一貫して3割のキッチンにおいて床下収納ユニットが利用されている。また、キッチンとの間にかなりの関係も見いだせるので、キッチン空間設計では、保存食品等への大切な収納場所の一つとして設計される場合も多いと考えられる。

電気冷蔵庫との関係

キッチン空間を占める重要な家電製品は電気冷蔵庫である。キッチン空間におけるシステムキッチンやセクショナルキッチンの位置を定める場合に、まず、出入り口、LDとの動線そして電気冷蔵庫との位置関係である。頻繁に使用する家電製品なので、その位置関係でキッチンの使い勝手に大きな影響を及ぼす。

電気冷蔵庫は、戦後の三種の神器として、60年代に普及が進み、1970年にほぼ9割の普及率となった。その後は、主に買い替え需要を中心として市場を形成していると考えられる。エアコンと同様に90年代にインバーター制御技術等の導入、また近年の真空断熱材の使用等により省エネ性が各段に向上したが、省エネ向上強化のためのエコポイント制度による購入意欲の誘発は少なかったと見られている※7。

図5 電気冷蔵庫の出荷台数推移とキッチン部品総計との関係

図5にキッチン部品総計、電気冷蔵庫の出荷台数推移と相互の関係、住宅着工数との関係についてまとめて示した。電気冷蔵庫とキッチンとの間には関係がみられ※8、この30年程度はキッチン部品の2倍程度出荷される傾向にある。また、住宅着工数の4倍前後出荷されている。

すでに述べたキッチンの使用期間は25年前後であり、電気冷蔵庫の使用は、その半分程度の寿命で交換されているとの調査もあり、ほぼこれらを裏付けるデータとなっている※9。


※1 平成21年住宅土地統計調査の中で、住宅の設備「台所の型」を紹介している。

※2 システムキッチン及びセクショナルキッチン総数と住宅着工数とは、1980―2018年間データでの相関係数は0.9530、2007―2018年間データで0.8803と強い関係にある。

※3 システムキッチン及びセクショナルキッチン(流し台)は、キッチン・バス工業会のデータ、住宅着工数は国土交通省統計データを使用して作成した。

※4 住宅リフォーム市場規模は、公益財団法人住宅リフォーム・紛争処理支援センターの推計調査データを使用して作成した。

※5 内閣府「消費動向調査」における主要耐久消費財の普及率の推移(二人以上の一般世帯)におけるシステムキッチン、食器洗い機のデータから作成した。

※6 床下収納ユニットは、一般社団法人リビングアメニティ協会の自主統計データを使用して作成した。

※7 大和総研コラム「家庭部門の低酸素化」2015年2月 平田裕子

※8 1987―2018年間の相互データで、相関係数0.7992である。近年の10年程度のデータ間では何らかの関係は確認されていない。住宅着工数との関係も同様である。

※9 内閣府「消費動向調査」の主要耐久消費財の買換え状況の推移(二人以上の世帯)によると電気冷蔵庫の平均使用年数は、ここ20年以上にわたり10〜12年程度である。