コロナ禍のなかで…

かつてない試練の時 住宅産業はどこへ向かうのか

5月14日に政府は39県の緊急事態宣言を解除、21日には近畿3府県で解除となるなど長かった混乱の出口がやっと見えてきた。とはいえ社会が落ち着きを取り戻すにはまだまだ時間がかかりそうだ。この5カ月の間に何が起こったのか、この災禍の先に何があるのか──住宅産業の視点から追った。

2019年末、中国の武漢市で原因不明の肺炎が流行、1月5日に世界保健機構(WHO)が中国から報告を受けたことを発表した。1月中に世界各国で感染者が確認されるなか、WHOは1月31日に緊急事態を宣言した。3月に入ると世界の感染者が10万人を突破、各国が相次いで非常事態宣言を発出し移動制限や外出自粛が行われたものの、その拡大は加速、3月26日に50万人を超え、4月30日には約320万人にも達した。

新型コロナウイルスによる人的被害や経済への影響は甚大で、全世界の感染者は500万人弱、死者は32万人を超えている(5月21日現在)。また、国連は2020年の世界の経済成長率は最悪▲0.9%にまで落ち込むと予測している。

トイレ、キッチンなどが不足
住宅引渡しに影響も

一方、日本では1月16日に国内初の感染者が確認されて以降、国内でも感染が急速に拡大していく。政府は1月末に「新型コロナウイルス感染症対策本部」を設置して感染拡大防止に取り組むとともに、並行して経済対策などを打ち出していく。

住宅産業界において、新型コロナウイルスの影響が直接的に出始めたのは2月の中旬〜後半頃からだ。まず、トイレ、キッチン、ユニットバス、IHクッキング、食洗器、洗面台など部資材の供給が遅延し始めた。武漢市の閉鎖に始まり中国内の移動制限や封鎖措置などにより工場停止が長引いたのが大きな原因。さらに船便の遅延という輸送面にも影響が広がり、住宅事業者は代替品の手配、引渡し客への説明などの対応に追われた。

この時期、新型コロナウイルス感染拡大に対する不安が急速に広がり、展示場来場者が減少し、商談のキャンセルも出始めた。政府のイベント中止要請を受け、大規模な展示会・イベントの中止や出展見合わせ、また、企業が実施するバス見学会など多くの集客が見込めるイベントの中止も始まった。住宅消費鈍化に対する懸念だけでなく、中小事業者から事業継続の先行き不安の声が強まった。

3月中旬には部品の納品遅れは改善に向かっていたが、国内の新型コロナウイルスの拡大と対応がGWのピークに向けて本格化しつつあった。後に発表される住宅各社の3月受注は戸建住宅を中心に落ち込みが目立ち始めていた。

緊急事態宣言下でこれまでにない取り組みが加速

4月7日に「緊急事態宣言」が7都府県を対象に発出されたことを受け住宅産業界も大きく動く。対象都府県の事業所で在宅勤務、接客・打合せの停止、事業所閉鎖などが一斉に始まる。対象自治体の休業要請を踏まえ住宅展示場も多くが営業を休止した。

こうしたなかで広がったのがオンラインの活用。自宅にいながら住宅や部屋をヴァーチャルで体験、相談・打合せなどを行うものだ。また、積水ハウスが「おうちで住まいづくり」、旭化成ホームズが「ヘーベルリモート家づくり」、ミサワホームが「自宅ではじめる住まいづくり」など、WEBを活用したリモートの集客、相談なども広がった。一方、建材メーカー・設備メーカーではweb上での展示会開催も相次ぎ、ICTの活用がこれまでの営業活動を補完または幅を広げるツールとして一般的なものとなりつつある。

営業活動が制限されるなか、大手ハウスメーカーの4月受注は大きな減少となった。戸建住宅だけをみると積水ハウス66.0%、大和ハウス工業68.0%、住友林業65.0%などである。しかし、その一方でタマホーム、ヒノキヤグループなど大きく増加させた企業もある。

5月4日、政府は緊急事態宣言を5月31日まで延長することを決めたが、14日に39県の解除を決定、22日には近畿3府県も解除となった。宣言解除の地域において住宅展示場やショールームで営業再開する動きが進んでいる。

新型コロナウイルスの災禍は収束に向かいつつある。しかし、社会が落ち着きを取り戻すにはまだ時間がかるだろう。事実、緊急事態宣言が解除された地域でも住宅展示場への来場の出足は鈍い。住宅展示場協議会・(一財)住宅生産振興財団によると4月の住宅展示場の来場者数は前年同月比▲67.16%と統計開始以来最大の減少幅となっている。

「今回の影響は住宅マーケットにリーマンショック以上の影を落とすかもしれない。その一方で働き方が変わり、住宅の売り方にも変化をもたらす可能性がある」と大和ハウス工業の芳井社長は指摘する。個人消費の減退や倒産の激増など経済への影響は長期間におよぶとの声もあり、大不況に陥る可能性も否定できない。住宅需要減退をいかにくい止めるか、いかに需要を創造していくかが問われている。

住宅展示場の休止で販売機会失う

底が見えない受注減を懸念


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