未来の社会を見据えた発想で蒸暑地の快適な 暮らしをイメージ
ミサワホーム総合研究所
今や当たり前に耳にすることができる「ゼロエネルギー住宅」。この考え方を国内で最初に提案したのがミサワホームだ。それを技術面など背後で支えてきたのがミサワホーム総合研究所。未来の社会や住まい方を見据えた研究開発を続けている。
住宅メーカーの研究部門の多くは、社内組織の一部として構成されるが、ミサワホーム総合研究所は、ミサワホームの100%子会社として独立している点が最大の特長だ。「研究開発は将来の社会を見据えて長期的な視点から取り組むことが多く、独立採算とすることで本業の業績に影響を受けにくく、外部企業からの受託研究にも応じやすい」と同研究所取締役の太田勇氏は話す。
同研究所は住宅業界初の「住」生活シンクタンクとして1973年に設立。間もなく半世紀を迎える中、①環境を育む②暮らしを育む③家族を育む④日本の心を育む──の「4つの育む」を開発理念とし、未来を見据えた住まいに関わる先進テーマをハード・ソフト両面から日々探求している。
およそ50年の研究活動を通じて、これまでに数多くの商品が登場。住宅業界に変化を与え続けてきた。その代表例がゼロエネルギー住宅。今から30年近くも前に商品化されたが、それを可能にしたのは、世界初の「屋根一体型」の太陽光発電システムの開発に成功した同研究所の挑戦があったからだ。公園やコミュニティスペースなどで見かけることが多くなった、木質調のウッドデッキや手すりなど。これも同研究所の取り組みがベースに社会に広がった。ミサワホームの工場で木のパネル生産から発生する、おがくずをパウダー状に加工、樹脂と混ぜ「ペレット」に。それを着色して、熱したあとノズルから押し出し成型をすると、手触りが木と同じで木目もある、プラスチックと同様に腐ることはないという新しい素材「M︲Wood」を独自開発。こうした社会に影響を与える商品のベースとなる技術開発を地道に取り組んできた。
ミサワホームと言えば南極昭和基地に建物を供給していることで知られている。地球上最も過酷な環境の1つ南極の観測活動を支援することで、工業化住宅の最高レベルを追求。この取組みを技術面から同研究所が支えている。快適な住まいを探求するため、ありとあらゆる分野での研究開発に取り組んでいるのが同研究所だ。
地域特性を生かした快適な住まいを追求
南極とは対極になるが、今後、温暖化がさらに進むことが懸念される中、同研究所で注目したい取組みの1つが現在、沖縄県で行っている「蒸暑地サステナブルアーキテクチャー」。住まいの分散型エネルギー・水システムが肝で、インフラが未整備な開発途上国などへの展開も想定する。沖縄では実際に建物を建て実証実験を展開。太陽光発電設備から住宅で使う電気を供給。また、湿気の多い地域のため除湿は不可欠だが、除湿にかかるエネルギーをこの太陽光発電の余熱を利用しデシカント除湿し、エネルギーの消費を抑える仕組みだ。水の供給が不安定なことも想定し、雨水などを生活用水として活用できる貯水システムを設ける。
沖縄の住宅を囲む琉球石炭岩のヒンプン。同研究所では、ここにも目を付けた。ヒンプンに散水し、蒸発冷却により周りの空気を冷却。建物の窓は高温による室温上昇などを避けるため北側に設置。ヒンプンから冷却された空気が北側の窓から入り、エアコンを使わずに快適に過ごせる空間を設けている。ここでは、こうした地域特性を生かしながら、住まいの快適性を探求する施しが随所にある。こうした工夫は同研究所が長年大切にしている「微気候デザイン」という考え方から派生する。「微気候デザイン」とは、夏も冬も快適に過ごせる住まいの設計手法。太田氏は「温暖化そのものを自社だけで抑えることはできないが、住まい手の住環境を整え、その人に合った快適な暮らしを提供することはできる」と強調する。
実証実験を共同で実施している沖縄科学技術大学院大学では、エネルギーの脆弱さの解決手段の1つとし、地域内マイクログリッドにも取組んでいる。電力網は、どこで停電しても電力供給ができるように、近接する各住戸を直流自営線でつなぐ。各戸に蓄電システムを設置。電力が不足したら、電池交換型EVでバッテリーを運び、蓄電システムに装着すれば、電力が確保できるというものだ。太田氏は「エネルギーの相互利用を実現することで節電や環境意識が生まれ、地域内の相互扶助を育み、コミュニティーの活性化になる」と今後の地域の姿をイメージする。
柔軟な組織で新分野にも対応
こうした幅広い研究ができるのは同研究所の組織体制が関係する。現在、同研究所には材料や構造・構法に関する基盤技術、災害や環境から暮らしを守るための予測・診断技術の研究開発を担う「テクノロジーセンター」をはじめ5つのセンターがある。
他には、グローバルな環境負荷低減とローカルな環境適応の両面で暮らしのエネルギー活用の研究開発を行う「環境エネルギーセンター」。家族や人の問題から社会課題まで、様々な関係者と協創し、市場創造や事業拡大へとつなぐ研究をする「フューチャーセンター」と暮らしの視点を生かした新たな住空間デザイン研究、生活に関する様々な住文化情報の研究・発信をする「デザインセンター」、多様化する社会と暮らしから、ICT、モビリティ技術を生かした住まいの新たな価値創造と技術の研究開発を手掛ける「領域創生センター」がある。これらが連携し、様々な研究に取り組んでいる。
「研究はともするとシーズに重点が置かれてしまう。大切なのはニーズに応えること。困りごとは何なのかを徹底的に考え、開発に取り組んでいる。困りごとは、その時々によって違う。組織を弾力化し、対応している」と太田氏は強調する。
5つのセンターの1つ「領域創生センター」が発足したのは昨年。「5Gなど日進月歩で技術は変わっており、その変化に対応するため、これまでフューチャーセンターの中でやっていたものを独立させた」(太田氏)。
アメーバーのように状況に応じて変化する同研究所で、未来の住宅業界を描く役割を今後も期待したい。
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