オタクと住まい【後編】

ニッセイ基礎研究所 生活研究部 研究員 廣瀨涼


アイデンティティ獲得、承認欲求の充足を目的にオタクに

社会の成熟化に伴い、消費者のニーズも多様化している。現代消費文化の大きな流れをつかむ上で、どういった消費者に注目するべきなのか。ニッセイ基礎研究所の廣瀨涼研究員は、「誰かの真似をしたり、見せびらかすための消費から、改めて個人完結型の消費へと戻りつつある。その顕著な例としてオタクの存在は無視できない」と話す。オタクの消費志向から、新しい住まい像も見えてくるかもしれない。

2012年、日本大学商学部卒業、2014年、日本大学大学院商学研究科博士課程入学、現在在籍中。2019年から現職。主な論文に「キャラクター消費とノスタルジア・マーケティング ~第三の消費文化論の視点から~」(商学集志)、「コンテンツの宗教性とマーケティング-聖地巡礼におけるキャラクターの役割」(コンテンツ文化史学会誌)などがある。オタクやブランド、テーマパークなど幅広い視点で消費文化を研究している。

オタクと住まい【前編】


──前回お聞きしたオタクという記号を消費する人々とは、どういった人たちを指すのでしょうか。

分かりやすい例で説明しましょう。今の中学校、高校には、集団生活の中で、「スクールカースト」と呼ばれる、目には見えないヒエラルキーが存在します。集団生活の中で、イケているグループとイケてないグループに分かれていきますよね。そうしたグループごとにヒエラルキーが形成されていくのです。スクールカーストの中で、オタクは常に最下層に位置づけられています。一度、オタクというレッテルを貼られてしまうと、そこから逸脱することは難しい。学年が上がり、オタクというレッテルを貼られた者が、いきなり陽気になろうとしても、「いやお前、オタクだったじゃん」ということになりかねないわけです。

一方で、学生時代を思い出してほしいのですが、普段とは違う自分を仲間内で演じるようなことはありませんでしたか。仲間内のコミュニケーションを円滑化するために、いじる側、いじられる側といった役割、キャラクターを演じることはよくあることではないでしょうか。若者にとって、グループの中でキャラクターを演じることは、自分の居場所を見つけることとイコールになっているのです。また、グループの中で問題になってくるのが、一つのグループの中に同じキャラは、飽和するため2人はいらないということです。イケメンキャラ、いじられキャラなど、それぞれのキャラは一人で十分です。そうした中で今、オタクというわかりやすいキャラが選ばれ始めているのです。そこには、カーストの底辺部のオタクから、あえて逸脱するという動機があるようです。「キャラでオタクを演じている。面白いだろ」というコト消費の一環として、オタクという記号を消費することで、グループ内での居場所を確保しやすくなり、同時に、そうした隔たりを自ら創出することで、本当のオタクたちに対しては、「おれはオタクを演じているだけだから、お前ら最底辺とはちがうんだぞ」という心理も働いているようです。実際に、中学、高校を訪問し、オタクというキャラを演じる学生を探して話を聞いたことがありますが、総じて、アニメなどにはあまり詳しくない。「ライトオタク」、俗に「ニワカ」と呼ばれる人たちでした。

一方で、本当にオタクになりたい人たちが、キャラクターとしてオタクという記号を消費する傾向もみられます。先ほど、オタクはスクールカーストの最下層に位置づけられるといいましたが、一方で、ある分野の膨大な知識を持っているということは、一目置かれる存在でもあります。例えば、ディズニーは、中高生に人気の高いコンテンツであり、ディズニーに詳しいだけで、地味な子がイケているグループの子から「ディズニー詳しいんだよね。教えてよ」といった風に会話のきっかけを生むことができるわけです。

本人も、ディズニーが好きであり、周りからもディズニーが好きな人だと認められることで、一種の承認欲求が満たされます。そうした意味で、本当のオタクになりたがる人たちが実際に増えてきているのです。しかし、自分がオタクだと名乗ったところでオタクだと認められるわけではありません。本当のオタクになるためには、オタクから承認される必要があります。そこで、本当のオタクになりたい人たちは、オタクというレッテルを貼られた時点で、オタクが生まれるということを逆手にとって、オタクという記号を消費しているのです。例えば、ディズニーについていうと、3種の神器と呼ばれているものがあります。一つは「年間パスポート」、もう一つは、「一眼レフカメラ」、最後に、キャラクターの人形や缶バッジなどをじゃらじゃら付けた「オタバック」と呼ばれるカバンです。その3つを持っていると、周りに視覚的に自分がオタクであると発信できる。オタクとして、認識されたい人たちは、周りからオタクであるとわかってもらえるものを消費することで、自身がオタクであることを可視化し、そのアピールが認められてオタクになれるのです。

このように、オタクという記号を消費する人たちが増えています。問題は、オタクが消費するコンテンツは、一般消費財と違い、希少性の高いものが多く、全員が手に入れられないことです。オタクが拡大、多様化するほど、自己完結型で、自身の「精神的価値」を追求する本当のオタク、エリートオタクたちにとっては、消費機会が失われるリスクが高まります。そうしたリスクを回避しようと、エリートオタクたちが、ライトオタクたちに比べていかに自分たちの優位性が高いかを見せつける、マウンティング行為を、SNSなどで見ることも多くなっています。  いずれにせよ、オタクが拡大、多様化し、消費マーケットの中で無視できない存在になってきていることは確かです。オタクが何を欲しているのか分析して家づくりなどに活かしていくことも有効ではないでしょうか。例えば、アニメオタクなどは、どのように自分の部屋をアレンジしているのか。そうしたニーズを探ることで、オタクの心をくすぐる住まい提案ができるかもしれません。最近ではオタク同士が集う、シェアハウスが登場して人気を博していると聞きます。オタクの奥行きと同じように、オタクを切り口とした、奥行きある住まい提案のニーズは、あるのではないでしょうか。


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