2019.1.29

“瓦屋根”を残したい

新施工法の導入、PR活動を展開

粘土瓦市場では市場の縮小が進み、製造業者、施工業者ともに減少傾向が続いている。厳しい状況に置かれているなか、業界はさまざまな取り組みを行い巻き返しを狙っている。

全国陶器瓦工業組合連合会(全陶連、野口安廣理事長)が発表した全陶連団体統計を見ると、瓦の年間出荷量は業界統計によると平成6年の約12億8200万枚から平成30年11月には約3億1100万枚にまで減少した。出荷量減少の原因のひとつが化粧スレートや金属屋根などに比べて初期費用が高いことだ。住宅需要の中心である30歳代〜40歳代の所得水準が低下傾向にある中で、初期費用が高くなる瓦屋根は敬遠されがちだという。

また、注文住宅に代わって分譲住宅を選ぶ人も増加。施主の好みが反映される注文住宅とは異なり、あらかじめ設定された売り出し価格の範囲内で建築費を捻出する分譲住宅の普及で、一層、屋根にまでコストをかけられなくなった。また、屋根面積が小さくなったことにより一戸当たりに使用する屋根瓦の枚数も減少した。

加えて、平成7年に発生した阪神淡路大震災後に多くの場面で「瓦が重いから住宅が倒壊した」という報道がなされたことにより、多くの住宅で瓦屋根から軽量の化粧スレートや金属屋根に変えるケースが発生した。その後も地震などの震災が起こるたびに同様の報道が繰り返しなされたため、消費者に「瓦屋根は地震に弱い」というイメージが定着、深刻な瓦離れが現在も続いている。

粘土瓦出荷枚数の推移(千枚)

瓦屋根の減少ストップへ、2017年より活動活発に

瓦屋根の出荷量が減少するなかで近年、全陶連を中心に業界ではさまざまな取り組みを展開している。

例えば、瓦屋根に対する誤解を払拭するために平成13年に策定されたガイドライン工法での施工を徹底している。ガイドライン工法は、建築基準法で定められた耐風・耐震性能を試験などによって確認し、満たすことで一定以上の強度を持つ工法である。一定基準以上の「性能」を満足させる設計、施工指針が定められている。「ガイドライン工法で施工すれば耐震性には問題が無く、瓦の落下もほとんど無い」と全陶連の小林秋穂専務理事は話す。

さらに、2017年には耐震シミュレーションソフト「wallstat」を使用し、パソコン上で木造住宅をモデル化し振動台実験のように地震動を与え、建物がどう揺れて壊れるのか、どうしたら壊れないのかを4つの住宅モデルを使ってシミュレーションした。

シミュレーションでは瓦屋根の住宅、屋根を軽量化するために瓦屋根からスレート屋根に変更した住宅、瓦屋根から金属屋根に変更した住宅、瓦屋根のままで改修計画を立てて耐力壁を増やした住宅に1995年の兵庫県南部地震で観測された地震波(JMA神戸)を同時に入力した。

その結果、標準的な瓦屋根は地震が起きると一階部分に損傷が見られ最初に倒壊したが、その後まもなく化粧スレート屋根の家と金属屋根の家も同様に倒壊した。しかし瓦屋根に耐力壁を増やした家は、一階部分に損傷や変形は見られたものの、倒壊にまでは至らなかった。シミュレーションにより耐震補強を施せば瓦屋根の住宅であっても倒壊リスクを十分に軽減できることを示した。

こうした検証結果をわかりやすく説明したパンフレットを作成。多くの自治体が屋根の軽量化によって耐震性能が向上するとの情報を発信していることから、自治体を中心にパンフレットを配布し、正しい情報の発信を行った。小林専務理事は「パンフレットを使用した活動の効果は想像以上で、さまざまな自治体やメディアが瓦屋根に対する考えを改めてくれた」と話す。

瓦屋根を今後も残すため業界を挙げた取り組みが進められている

高付加価値工法で耐用年数を80年に

業界を挙げた取り組みはこれだけではない。2019年4月からはこれまでひとつしかなかった瓦屋根の施工方法に新たに「高付加価値工法」が加わる。従来の工法では2018年に関西地方で大きな被害をもたらした台風21号のような大型台風が発生すると、野地板に雨が浸入し野地板を傷める恐れがあった。そのため高付加価値工法では、台風などで雨が浸入した際にも素早く雨水や湿気を逃がすよう工夫。従来の施工法に比べて施工の手間や費用は上がるが、耐用年数は従来の60年から80年にまで伸ばすことが可能となった。

「エンドユーザーにとっては施工法の選択肢が増える。メーカーにとっても高付加価値工法を採用することで他社との差別化を図ることができる」(小林専務理事)。

さらに愛知県や島根県、淡路島などの粘土瓦の産地でもさまざまな取り組みが行われている。そのひとつとして、愛知県陶器瓦工業組合では名古屋を拠点に活動するアイドルユニットdela(デラ)とコラボレーションして三州瓦のPRを行っている。瓦屋根を残していくためにも若年層への瓦屋根の認知拡大が重要だとして、積極的に活動している。また、瓦メーカー各社も新たな展開を模索している。

鶴弥(愛知県半田市・鶴見哲代表取締役社長)は、屋根瓦で培った技術を用いて壁材の開発に着手、マンションや商業施設にも営業がかけられるとして販売に注力している。新東(愛知県高浜市・石川達也代表取締役社長)も太陽光パネルと一体型の瓦を開発、瓦屋根の販売を伸していきたい考えだ。

野村総合研究所は、2030年の新規住宅着工戸数は、60万戸にまで減少すると予測している。全陶連の小林専務理事は「出荷量などの数字を見ると依然として厳しい状況にはあるが、業界として日本の伝統品のひとつとして残していきたい」と話し、今後も業界全体で瓦屋根の採用につながるような取り組みを行っていく考えだ。