快適さがモノを変える

現代の社会は急速に変化し続けている。その変化を楽しめるか、あるいは好まざるものと考えるかでその人の精神的な年齢がわかる。若者は変化を楽しめ、老人は迷惑なものと考える。高齢化社会の日本はどうもこの変化についていけてないように思われるがどうだろうか。

最近、変化の中心にあるのはコンピュータ、インターネットの進化である。買うものがない時代と言いながら、一つ一つのコンピュータの性能は倍々ゲームで良くなり、人々は音楽をそれで聞き、写真を撮り、インターネットに投稿し、おしゃべりもそこでする。おそらくこの流れは止まらず、すべてのもののやり取りにスマホが介在する。では、この変化はどのくらいの期間で成し得たものであろうか。実はわずか20年くらいの間に起こった変化である。

そういった変化は様々な状況の変化と人々の欲求がうまく重なった時に加速度的に大量に起こる。筆者はその一つがエコハウスであると考えている。ここでいうエコハウスは、冷暖房などのエネルギーがほとんどかからず、冬でも暖かく夏でも涼しい、一家に一台のエアコンで十分に賄えるような家である。それを支える技術は、温熱のシミュレーションと断熱の技術である。また、昨今のサッシや気密工法などの技術がそれを支えている。

こうした住宅は今ままでもあったが、それほど注目されてこなかった。それはどちらかというと「地球に優しい」とか「エネルギーを節約しなければならない」といった〇〇すべきという論調で語られていたからではないだろうか。あるいはその効能が理解されなかったからとも言える。社会全体はそれでは変化しない。人は「こうしたい」と思うと「そうしたい」のであり、それが可視化されると一気に社会が動くのである。

東日本大震災の際に、快適ですらあった山形エコハウス

住宅を取り巻くモノで一つ発明例を挙げるなら、ウォシュレットである。排泄というどちらかというとネガティブな行為に、清潔さと快適さを提供し、爆発的なヒットとなった商品。発売から38年経つが、日本での温水便座の普及率はなんと79・1%。消費者からみたら便利で快適。一方、メーカーから見ると5万円程度だったトイレという商品が洗浄機能をつけることで、価格が4〜5倍以上の商品に化けたのである。一つの住宅に1〜2個付く設備としては驚異的な売り上げの伸びになる。マーケットをつくる商品を開発したという点で興味深い。モノを売るために低価格競争を行うのではなく、新たな価値をつくりだしたのだ。

エコハウスも実はこれと同じようなものだと考えている。日本の住宅は寒い。しかし、それに気がついていない人が多い。「住めば都」という言葉があるように住宅の環境は、住まい手が変えられるという意識が低い。しかし、新しい価値があって、それが快適で健康にもよく、自分にとって必要だと思えば、消費者は必ずそれを求める。実は筆者もそんなに優れたものだとは思わなかった。しかし、2011年3月11日東日本大震災が起こり、山形市で2日停電した際に、山形エコハウスの室温は、暖房も何もなくても18℃以下にはならなかった。エネルギーフリーで安全であるばかりではなく、快適ですらあったということだ。私たちの生活を守るシェルターとしての「家」、あるいは生活の場として感動的な出来事だった。

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ハウジング・トリビューンVol.619(2021年8・9号)

特集:

パンデミック後の住産業

コロナ感染拡大の第一波から1年が過ぎた。
特に緊急事態宣言下で、仕事や暮らしが一定の制限を受け、社会そのものが大きく変わらざるを得ない状況が続いている。
こうした変化を受け、住生活でも大きな変化が起こり、新たなニーズが生まれている。
パンデミックで何が変わり、何が変わらないのか。
この一年の変化と、これからを探った。

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