2017.12.6

デザイン思考と住まい【前編】

フラワー・ロボティクス株式会社 代表 松井龍哉 氏

機能や技術、効率からではなく人間と暮らし中心のデザインを

シリコンバレーの企業が重視していることで知られる「デザイン思考」。機能や技術、効率といった観点からではなく、ユーザーである人間の側からモノやサービスを考えていく。日本でも注目されており、異業種の企業が連携して暮らしへのIoTの導入を目指す「コネクティッドホームアライアンス」でも取り入れていこうとしている。デザイン思考とはどういうものなのか、同アライアンスでデザインディレクターを務めるフラワー・ロボティクスの松井龍哉代表に聞いた。


──松井さんは異業種連携で暮らしへのIoTの導入を目指している「コネクティッドホームアライアンス」でデザインディレクターを務めておられます。同アライアンスでは、松井さんのデザイナーとしての観点を取り入れていきたいと考えているようです。最近、「デザイン思考」という名で呼ばれるデザイナー的な観点というのは、どういったものなのでしょうか。

1969年、東京生まれ。1991年に日本大学藝術学部卒業後、丹下健三・都市・建築設計研究所を経て渡仏。科学技術振興事業団にてヒューマノイドロボット「PINO」などのデザインに携わる。2001年フラワー・ロボティクス社を設立し、ヒューマノイドロボット「Posy」「Palette」などを開発。現在、自律移動型家庭用ロボット「Patin」を開発中。iFデザイン賞、red dotデザイン賞など受賞多数。日本大学藝術学部客員教授、グッドデザイン賞審査委員(2007五〜2014年)。2017年からは異業種が連携して暮らしへのIoTの導入を目指す「コネクティッドホームアライアンス」のデザインディレクターを務める。

デザイン思考やデザイナー的な観点というのは、機能や技術、効率性からではなく、人間の側から物事を考えていこうとする姿勢のことを言います。

モノづくりだったら、どうすればストレスなく快適に利用できるかといったことをユーザーである人間の側から見定めて、そのアイデアを製品に落とし込んでいく。(筆者のノートPCを指して)例えば、あなたが今叩いているAppleのノートPCのキーボードはデザイン思考を実践している例のひとつです。

キーボードの大きさや叩いた時の音、跳ね返ってくる感触などが、ユーザーにとって心地良いようにデザインされています。キーの中に特殊なバネが入っているので跳ね返ってくるキーの感触が心地良いものになっている。メーカーの都合を重視して価格の安価なものを使えばそうはならない。「デザインする」と言うと、製品などの目に見えるモノの形を作っていくことを意味すると一般的には思われていますが、デザイン思考の観点から言えば感性や感覚という点においてもデザインしていく必要があるのです。

さらに言うと、製品が形作られる前段階としての「プロジェクトの目的」や「企業の理念」といったことを形づくることもデザインです。デザインの射程は一般的に考えられているよりも本来は広く、製品の形はあくまでデザインの最終的な形態でしかありません。プロジェクトの目的や企業の理念が明確にデザインされていればいるほど、出来上がった製品やサービスは優れたものになり、結果としてユーザーを企業や製品、サービスの価値観に先導します。例えば、Appleがその典型のひとつでしょう。

──松井さんのおっしゃるようなユーザー視点によるモノづくりやサービスの提供といった考え方はこれまでにもあったような気がしますが、今、改めて注目されている理由はどうしてでしょうか。

デザイン思考やデザイナー的な観点というのは、実は特に今に始まった話ではなく、これまでにもあったことです。例えば、人間工学に基づいたもの作りなどがそうです。しかし、例えば、先述のAppleやFacebook、AirbnbなどのシリコンバレーのIT企業の多くがデザインの観点を拠り所にして事業を行い成功に結びついているので、改めて注目が集まっているということでしょう。

シリコンバレーの企業では、デザイナーが経営に影響を与えているところも多くあります。経営者は企業や株主の利益に大きな重きを置きますが、結果的に効率などを重視してユーザーのメリットから離れることもあります。一方で、デザイナーはユーザーを第一に考えているので、ユーザーのメリットということを考えると、デザイナーが経営に影響を与える意義は大きいのではないでしょうか。

──松井さんは暮らしの中に入っていきやすいような家庭用ロボットの開発を行っておられますが、デザイナーとしての観点から具体的にどのように暮らしの中に入って行きやすいようにデザインされているのでしょうか。

家庭の暮らしの中で、どのような形態であると便利か、どのような形態が理にかなった使い方になるのかといった観点から家庭用ロボットのデザインを行っています。

そのために、最近の暮らしの変化を見据える必要もあると思っています。例えば、一人暮らしや共働きが増えています。また、働き方についても、フリーで仕事をする人が多くいますし、一般企業の社員でもIT技術の発達により会社に行かなくても家庭で仕事できる状況になってきており、これまでよりも家で過ごす時間が増えていると思います。家庭用ロボットを開発するうえでも、こうした暮らしの変化を考慮に入れて生活者の視点に立ってデザインしていく必要があります。

一方で、家庭用ロボットの開発については、生活者の視点に寄り添いながらも、自らで新たな発想を生み出していく必要があると思っています。家庭にロボットが徐々に入ってきつつありますが、まだ明確に使い方が決められているわけではありません。このため、人の意見ばかり聞いていると、画一的でつまらないものになってしまう恐れがあります。 家庭用ロボットの中で明確な意味を持っているものがあるとしたらお掃除ロボットのルンバくらいではないでしょうか。ルンバなら部屋の掃除という明確な目的があるので、充電時間を長くしたり、音を静かにしてほしいといったユーザーやマーケットの声を聞いて、改良を行っていけばいいでしょう。しかし、私はもっと違う家庭用ロボットをデザインしていきたいと思っています。

(聞き手・佐々木政史)

インタビュー後編へつづく