2017.12.5

マグ・イゾベールの新戦略

マグ・イゾベール 代表取締役社長 フランシス ショレー氏

新しい時代を見据え断熱材を一新
繊維の飛散を5割削減し施工性を向上

──2017年8月にグラウスウール断熱材の新ブランド「イゾベール」を発表しました。

当社の親会社であるグローバル企業、サンゴバン社では、過去から一貫して、環境性能に優れた建築材料の開発を進めています。新開発したイゾベールでは、フェノール系や石油系の製品を含む従来のバインダ(接着剤)から、自然素材のバインダに切り替えたことで、優れた環境性能を付与しました。

また、バインダの切り替えなどにより施工性も格段に向上しました。より手触りがよく、施工者にとって使いやすいグラスウール断熱材を製品化できたと自負しています。より高いレベルの住まいの省エネ化が求められる時代を見据え、今後の主力商品として普及促進を図っていきたいと考えています。

イゾベールの開発に当たっては、より施工者にとって使い勝手が良い商品を実現するため、当社のマーケティングチームが北海道の住宅建設現場などをまわり、施工者へのヒアリング調査も行いました。グラスウールは、ガラスを繊維状に細かくし、綿状にまとめたものであるため、「施工時にチクチクする」という課題がありました。現場の声を聞くと断熱材をカットする際にグラスウール繊維が飛散し、その繊維が首周りの肌などに付着して、不快に感じる人が多いことがわかりました。そこで、従来品に比べて繊維飛散を5割以上削減することに成功し、施工時の不快感を大幅に改善しました。また、繊維をよりしなやかにすることで、繊維が皮膚に接してもチクチク感が少ないように配慮しました。しなやかな繊維を実現する一方で、従来品以上の剛性も確保し、施工性の良さを維持しています。

イゾベールは、温暖地で多く使用されている防湿フィルム付きの「イゾベール・スタンダード」と、寒冷地の高断熱高気密住宅で使用される防湿層なしの「イゾベール・コンフォート」の2商品で構成されています。イゾベール・スタンダードについては、2020年に義務化予定の省エネ基準(スタンダード)に最適な商品である点を考慮して命名しました。イゾベール・コンフォートには、断熱性・気密性を高め、より高い快適性の実現に寄与する商品という意味を込めました。それぞれ、従来品で揃えていた断熱性能や寸法などの製品規格を踏襲しています。ZEHなどのより高性能な住宅づくりにも最適な商品として活用を促していきます。

──今後の展開について教えてください。

グラスウール断熱材メーカーから、断熱ソリューションメーカーへと進化していきたいと考えています。

当社では、これまでグラスウール断熱材の単品販売に特化して事業を展開してきました。

ただ、高性能な住宅、快適な住空間を実現するためには、もちろん断熱材の断熱性能が重要な要素の一つとなりますが、気密性能の確保や、適切な施工も決して疎かにできない要素となります。

住まい手が求めているのは、断熱性能や快適な住空間であり、断熱材自体を求めているわけではありません。断熱性能の確保、快適な住空間の実現に向け、メーカーとしてどこまで関与できるのか検討を進めています。

具体的には、断熱材に加えて、気密部材などをセットにしたパッケージ提案を強化していきたい。壁、屋根、床などの部位ごとに断熱材や気密部材などを含めたトータルパッケージ商品を用意し、家一棟分の断熱ソリューションを提供することで、付加価値を高めていくことができます。

大工不足が深刻化するなかで、施工効率を高めていく取り組みも求められています。施工性を高めた商品の開発、施工のサポート体制の充実にも、積極的に取り組んでいきます。 さらに今後、グラスウール断熱材以外の様々な断熱材を扱うことも検討しています。

ヨーロッパのサンゴバン社では、グラスウール断熱材以外にも、ロックウール断熱材や、ウッドファイバー断熱材、発泡系断熱材など様々な断熱材を扱っています。耐火性能を備えた断熱材のバリエーションも豊富に用意しています。これにより様々なニーズに対して、より適切な断熱材をワンストップで提供することが可能です。ヨーロッパのサンゴバン社では断熱材売上全体に占めるグラスウール断熱材の割合は6割ほどです。今後、日本でも、様々な断熱材を取り扱うことを検討しています。実現すれば、断熱ソリューションの幅がさらに広がるでしょう。

将来の断熱リフォームニーズの高まりに備え商品開発を加速

──断熱リフォーム市場開拓に向けた取り組みを教えてください。

断熱リフォーム商品の開発を当社の最重点課題として位置付け取り組んでいます。先ほど日本の断熱リフォームの潜在的なニーズは非常に大きいと申しました。ただ、現状では、「住まい手にとって負担が大きい」「施工が大変」「コストがかさむ」といった理由でなかなか普及していないのが実情です。使い手のニーズにマッチした断熱リフォーム商品を開発していくことは、メーカーとしての使命だと感じています。現在、「なぜ断熱リフォームが普及していかないのか」を明らかにするための市場分析を進めています。イゾベールの開発時と同様、現場の声をより深く汲み取るために、ヒアリングしています。「何に困っているのか」「何を求めているのか」をしっかり把握し、商品開発に活かしていきます。今後さらに既存住宅流通を促進するための施策が充実し、断熱リフォームのニーズが盛り上がってきた時に、良い商品が提供できないということがないよう開発を急いでいます。

(聞き手・沖永篤郎)