2021.3.10

スマートファクトリーで新たな製造業の形を示していく

Team Cross FA プロデュース統括 FAプロダクツ 代表取締役会長 天野眞也 氏

スマートファクトリー=ロボット化ではない まずは言語化を

―スマートファクトリーとは具体的にどういうものなのでしょうか。

スマートファクトリーについては、大きな勘違いがいくつかあると思います。まず、スマートファクトリー=ロボット化というイメージが強いかもしれませんが、そうではありません。ロボット化を取り入れただけでは、FA化(ファクトリー・オートメーション)しただけです。スマートファクトリーを実現するためには、まず部品や工程を言語化する必要があるのです。

我々は、スマートファクトリーには、DX化によってリアルとバーチャルが融合できる状況を作り出すことが重要であると考えています。そして、DX化を進めていくためには、0と1だけで構成されるデジタルの世界でも適切な判断などができるように言語化を進めていく必要があるのです。

多くの工場において、DX化を進める以前にマニュアル化が出来ていません。例えば、「ビスをしめる」という指示であっても、どのくらいの強度で、どこまでしめるのかといったとこまで言語化されていない。DX化のためには、例えば「ビスを3.5回転させてしめなさい」といった部分まで言語化する必要があるのです。

―属人的にならないように細かい共通ルールに基づく標準化が必要になるということですね。

日本の製造業では、BOM(部品表)はある程度までデジタル化が進んでいるのですが、BOP(設計部品表)はデジタル化されていません。部位と製造工程が言語化できれば、コンピューターの処理能力の制限さえなければ、あらゆるシミュレーションをデジタル上でできるようになるのです。繰り返しになりますが、部品と工程表の言語化を行うことそが、スマートファクトリーの第一歩となるのです。

―部品と工程表を言語化することができると、どのようなメリットがあるのでしょうか。

いわゆるデジタルツインが可能になります。デジタルツインとは、仮想空間に疑似的な空間を再現し、あらゆることをシミュレーションとリアルを連動しながら、将来を予測していこうというテクノロジーです。部品と工程表を言語化することができれば、製造ラインなどをデジタル空間に創造し、様々なシミュレーションを行いながら、より最適かつ効率的な製造方法を検証できるようになるのです。

加えて、製造機器などをIoT化することで稼働データなどを取得できれば、その情報を活用しながらより精度が高いシミュレーションが可能になるのです。この点こそが、今までの工場とスマートファクトリーの大きな違いなのです。

―極端な話をすると、シミュレーションの結果、ロボットよりも人が担当した方がよいとなれば、人が行う可能性もあるということですか。

その通りです。冒頭にはスマートファクトリー=ロボット化ではないと述べたのは、そういうことです。

スマートファクトリーと言っても、なかなか具体的にイメージできない方々もいるのではないでしょうか。そこで、製造業のDXから生産ラインの開発・実装までを包括的に支援するコンソーシアム「Team Cross FA」が運営する形で、2020年9月に製造業のDXから連動する生産ロボットシステムをリアルに体感できるショールーム「SMALABO TOKYO(スマラボ東京)」を東京都千代田区にオープンしました。

このスマラボ東京では、実際の生産ロボットなどを用いてデジタルツインを実現した製造工程など体験することができるようになっています。

2020年9月に東京都千代田区にオープンした「SMALABO TOKYO(スマラボ東京)」

―住宅産業におけるスマートファクトリーの可能性についてどう考えていますか。

自動車の例で言うと、誰でも容易に自動車を買うことができない時代であれば、皆と同じ白のカローラでも満足できたかもしれませんが、どんどん人とは違ったものが欲しいという方向に進んでいきます。家であれば、そういう傾向はより強いはずです。

プレカット工場でも、プレハブ住宅メーカーの工場であっても、スマートファクトリーの手法を取り入れれば、簡単かつ効率的に“一品モノ”の住宅を提案できるようになるはずです。

ただ、“一品モノ”と言っても共通化する部分はあっていいと思います。メルセデスの自動車は、AクラスもCクラスであっても、ハンドルまわりは全て同じものを使っています。「メーカーがケチって共通化したのか」と思うかもしれませんが、メルセデスは「オペレーションの部分は共通化した方が安全であり、全ての自動車の安全性は同じであるべきである。だからハンドルまわりは共通化している」と主張しています。

住宅メーカーの方々も、例えば「安全性に関係する耐震性などに関連する部分は全ての住宅で共通化して、内装部分などは細かいカスタマイズニーズに対応します」といった方針を打ち出していいのではないでしょうか。そのうえで製造拠点をスマート化していくことができれば、工場で住宅を製造するという意味はもっと深いものになるのではないでしょうか。

私は住宅業界に学ぶ部分は大きいと考えています。我々が提供している製造機器やロボットは標準化が全くできていません。まさに“一品モノ”だけらけなのです。住宅はモジュールなどがある程度標準化されているし、ユニット化された部品や設備も多いですよね。ある意味では、ある程度まで言語化されている業界ではないかと思っています。それだけに、他の業界以上にスマートファクトリーによってマスカスタマイゼーションを実現しやすい業界なのではないでしょうか。

さらに言えば、スマートファクトリーを核とした住宅づくりのシステム自体を海外に輸出するという可能性も広がります。