日頃から書きなぐっていた取材ノートや備忘メモに埋もれていた諸々を拾い、不定期で自由気ままに綴ってみようと思います。落ちこぼれた種から何か芽が出てくるかな——。

古川興一ブログ「落ち穂ひろい」

ウェルテル効果、パパゲーノ効果を想う コロナ禍で増える自殺者

コロナ禍の中、ゲーテの「若きウェルテルの悩み」にちなんだ《ウェルテル効果》と、モーツアルトのオペラ「魔笛」に登場する愉快な鳥刺し男、パパゲーノにちなむ、《パパゲーノ効果》という言葉が注目を集めている。マスメデイアの自殺報道が、自殺者を誘引(ウエルテル効果)したり、逆に抑制(パパゲーノ効果)したりするということで、マスメデイアの報道姿勢の在り方を含め自殺対策の重要性が議論を呼んでいるのだ。

ちなみに「若きウェルテルの悩み」は青年ウェルテルが婚約者のいるシャルロッテに恋をし、かなわぬ思いに絶望して自殺するまでを描いた小説。1774年の出版当時、ヨーロッパでベストセラーになり、主人公ウェルテルをまねて自殺者が急増するほどの社会現象を巻き起こした。このため同書は‘‘精神的インフルエンザの病原体″とまで呼ばれた。また、オペラ魔笛のパパゲーノは恋に焦がれて自殺しようとしたが、3人の童子が現れて「やめろよパパゲーノ、人生は一度だけ二度とはないよ」との歌によって自殺を思いとどまる。

長期化する新型コロナ禍の中で、自殺者が増えている。10月の自殺者数2158人は前年同月比約40%増(619人)で、今年1〜10月の累計では、1万7303人、前年比で1.4%増(244人)。コロナ感染拡大で営業自粛、閉店・廃業、倒産などで失業者も増え、生活苦などから自殺に追い込まれるケースも目立つ。新聞、テレビなどメデイアの自殺報道も多く、特に7月18日の人気俳優、三浦春馬さん、9月27日の女優、竹内結子さんの自殺後の2週間は自殺者が増えており、ウェルテル効果が起きた可能性がきわめて高いとみられている。

今後、有名人はともかく、コロナ禍がさらに長期化する中で、失業者はさらに増え、人と接する機会が少なくなる中でのDVや育児でのうつ状態の女性、経済的にも追いつめられる人々らによる自殺者の増加も懸念されている。それだけに今、ウェルテル効果を生み出さない慎重な報道を求める一方で、パパゲーノ効果をどのように引き出していくかの知恵と工夫を求める声が強まってきているのだ。

WHOも「自殺報道ガイドライン」を作成し、「どこに支援を求めるかの正しい情報の提供」「日常生活のストレス要因や自殺念慮への対処法、支援を受ける方法の提供」などを求める一方で「自殺の目立つ記事掲載、センセーショナルな見出し、過度な繰り返し」「自殺手段の明確な表現」「自殺を前向きな問題解決の手段であるような表現」などをやめることを求めている。

厚労省指定法人「いのち支える自殺対策推進センター(JSCP)」の清水康之・代表理事は、「自殺対策とは生きる支援」だとし、「未来に通じる自殺を踏みとどまったような話が欲しい」「生きていくことの楽しさや、この世も捨てたもんじゃないといった話が大事」と語る。

この話、なにもメデイアに向けたものだけではなかろう。家族はもとより、地域、職場など、身の回りの人々への気配り、心配りにも通用する。話しかけてみること、話を聞いてやること――そんなこともパパゲーノ効果を期待できるのかも。

菅政権は唱える。自助、共助、公助を。だが、弱者は自助も苦しい、公助も当てにならない、となったら、どうする。最後の砦は庶民の共助か。「トントン、トンカラリンと隣組―――」といった隣近所の仲の良さをうたった歌があった。共に助け合う、そんな世の中を夢見るのは贅沢になってしまったのだろうか。それを贅沢とさせる国家に明日はないはずなのだが。

警察庁の自殺統計に基づく自殺者数の推移 グラフ
警察庁の自殺統計に基づく自殺者数の推移(厚生労働省自殺対策推進室 ウェブサイトより)
https://www.mhlw.go.jp/content/202010-sokuhou.pdf
2020年12月10日