日頃から書きなぐっていた取材ノートや備忘メモに埋もれていた諸々を拾い、不定期で自由気ままに綴ってみようと思います。落ちこぼれた種から何か芽が出てくるかな——。

古川興一ブログ「落ち穂ひろい」

新型コロナ確認から6か月、取材メモに残る苦闘の言葉①

医療崩壊阻止に全力ーー東京都杉並区長、危機感から「前のめり」にーーコロナ専門家会議

新型コロナウイルス感染症が中国で確認されたのが昨年末、瞬く間に世界に拡大、そして日本でも今年1月には初めての感染者が確認された。それからはや6か月。4月には全国に緊急事態宣言が発出、外出自粛、休業要請など3密回避の戦略がとられる中、5月下旬に宣言解除、今は社会経済活動とのバランスを取りながら感染拡大予防というウイズ・コロナの新たなステージに入っている。ただ、新規感染者がいなくなったわけではなく、むしろ、第2波、第3波の懸念さえある中での緊張感に満ちた小康状態にあるといっていいだろう。

こうした怒涛のような半年、取材メモには、新型コロナと苦闘する多くの人たちの言葉が残る。7月に入る節目の今、印象に残ったそんな言葉の数々を整理してみた。コロナ取材のまさに落ち穂拾いである。

コロナ感染に取り組む病院の経営を支える

医療崩壊をいかに防ぐかに全力を投じてきた。特に心配されたのは、コロナ感染者を受け入れる病院の経営悪化だった。コロナ患者以外の入院や、救急を受け入れられなくなり、経営状態が見る見るうちに悪化する。コロナに立ち向かえば向かうほど苦境に立たされる。どう経営を支えるか、病院を助けるかスキームが見つからない。国や都からも打つ手が示されない。区内には4つの基幹病院があるが、3年間の収入実績の平均を出し、減収分を穴埋めする形をつくり、経営の心配なしに医療に専念してもらうよう4〜6月まで約22億円を補正予算で手当てした。いわば、半官半民の形で病院経営を支えているということだ。

田中良・東京都杉並区長

田中杉並区長は感染スピードの速さから医療崩壊の予兆を十分に感じ戦慄が走ったという。都が語る病床確保も、指定病院もどこにあるかわからない状況。自宅療養者の扱いも不明確。国や都のスピード感のなさへの不満を隠さない。特にコロナ患者を受け入れる病院の経営が悪化するという不条理をなくそうとの奮闘ぶりが印象に残った。先ずは自分たちができることをしっかりやる、と自治体首長が開き直った感もある

護送船団方式の自粛はダメ

緊急事態宣言は解除されたが、今後の感染状況次第ではあるだろうが、「自粛」はあらゆる分野でもうもたない。社会・経済活動を正常に戻すことを前提に区政を考えていく。個人的には、人々が自粛、自粛の声の下でよく我慢していると思う。新型コロナに関する正しいインフオメーションを科学的な根拠を含めて出すことが大事。公があまり自粛ムードを掻き立てないほうがいい。それに護送船団方式は違うと思う。自粛や、要請、新しい生活様式にしても、企業、業種、個人それぞれに違いがある。同じことを一斉にやることの弊害は多い。3密も、1密、2密は飲み込んでもいいのではないか。それがウイズ・コロナではないか。自分で自分自身の身を守る取り組みの空気を醸成していくことがこれからは求められるのだと思う。

田中良・東京都杉並区長

自粛、自粛の中で社会経済活動の疲弊を目の当たりにしての危機感を隠さない。必要以上の自粛に疑問を呈した。飲食、イベント関連など、傷んだ企業をどう立て直すか、クラウドフアンデイングなどいろいろな試みをバックアップしていきたいとの意欲を見せる。もちろん、コロナ第2波に備えての病床の確保、検査など医療体制の整備は怠ることなく。


役割分担を明確にし、オールジャパンの体制を

専門家会議の責務は「医学的な見地から助言等を行うことである」。その提言を参考に政府は政策の決定を行うが、その境界は外から見るとわかりにくい。専門化による情報発信においてもあたかも専門家会議が政策を決定しているような印象を与えていたのではないか。

特に感染拡大が迫り、危機感が高まる中、専門家会議が頻繁な記者会見などで行動変容や新たな生活様式などの提案を続けたことが、専門家会議に対して本来の役割以上の期待と疑義を生じさせたと思われる。期待感と警戒感を高めることにもなった。国の政策や感染症対策は専門家会議が決めているというイメージが作られたようにも思う。今後は、専門家助言組織と政府の役割を明確にする必要がある。そのうえで、社会経済活動の維持と感染防止対策の両立を図るために社会学、経済学、心理学など様々な領域の知を結集した組織にする必要がある。

新型コロナウイルス感染症対策専門家会議
岡部信彦・川崎市健康安全研究所長、脇田隆字・国立感染研究所長、尾身茂・地域医療機能推進機構理事長

2月に政府対策本部の下に「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」が発足、6月までの4か月間はまさに疾走の名にふさわしい活動ぶりを見せた。TV、新聞などメデイアへの専門家の露出も目立ち、安倍総理の記者会見にも同席し、説明するほど。そこには、新たな感染症による未曾有の事態を目の前にした危機感から、単に助言するだけではなく対策案の提供なども行わなければという考えがあった。いわゆる「前のめり」になった専門家会議というわけだが、それが結果として専門家会議の役割を逸脱しているなどの批判や誤解を生むことになった。そうした状況をとらえて専門家会議の在り方について改めて政府と専門家会議の役割の分担を明確化するよう求めるとともに経済学など他分野の専門家を加えた新たな組織を提言したもの。だが、この記者会見と並行して別に西村経済再生相が記者会見し、今の専門家会議を解消し、新たな組織を作ることを発表。ある意味、専門家会議の提言に沿ったものとも見られた。ところが、これを専門家会議のメンバーは知らされていなかったということがわかり、前のめりといわれるまでに感染予防に疾走してきた専門家にあまりに失礼だろうと物議をかもすことになった。

いずれにしろ、様々な専門家を交えた新たな専門家会議が間もなく設けられ、次の波に備えていくことになるのだろう。特に専門家会議は、この時の会見で政府に広く人々の声を聴き、心を砕いたリスクコミュニケーションの在り方や体制を早急に見直してほしいと訴えている。新たな専門家会議がどのような体制で、どのような意見、助言を政府にしていくのか関心を集めることは間違いない。終息の見通しがつかず、ウイズ・コロナの流れの中で、新しい専門家会議の発足は感染症対策の第2ステージが始まるということだろう。

会見では「この4か月で検査や医療体制など多くを学んだ。技術革新の芽も出てきている。戦うツールができてきたということだ。これからはオールジャパンで成果を出すことで進んでいきたい。そして、われわれ専門家がいつの間にかマイクを置いているという形になればーー」とも。その日が一刻も早く来ることを願うばかりだ。

日本記者クラブオンライン会見
日本記者クラブ オンライン会見の様子

2020.6.30