オピニオン |  2020.5.19

住宅建築のサプライチェーンを つなげるイノベーション(前編)

木造住宅3.0へのブレイクスルー

木造住宅建築をさらに高度化・合理化し、木造住宅3.0を具体化していくためには、多くの壁を乗り越え、時には力強く壁を壊していくことも求められるだろう。そのためには、まず断絶されている木造住宅建築に関するサプライチェーンをつなげていくことが不可欠ではないだろうか。木造住宅建築に関する川上から川下までのサプライチェーンがつながることで、高度化・合理化が大きく進展することは間違いない。しかし、なかなかサプライチェーンがつながらないのが実情だ。
建築家の竹内昌義氏と、大型パネルによって「みんな工業化」を実現しようとしているウッドステーションの塩地博文社長に、それぞれの立場から木造住宅のサプライチェーンをつなげていくために何が求められるのかを話してもらった。


建築家・東北芸術工科大学教授
竹内 昌義(たけうち まさよし)

1991年に竹内昌義アトリエを設立した後、1995年に設計事務所「みかんぐみ」を共同で設立。2001年からから東北芸術工科大学(山形県山形市)の建築・環境デザイン学科准教授に。2008年から同教授。山形エコハウス(山形県が事業主体、環境省の21世紀環境共生型モデル住宅整備事業の一つとして選定)をきっかけに、環境・エネルギーに配慮した住宅を設計、紫波町オガールタウンの監修などを手がける。『図解 エコハウス』『原発と建築家』『あたらしい家づくりの教科書』など著書多数。

ウッドステーション 代表取締役社長
塩地 博文(しおち ひろふみ)

商社在職中に、建築素材MOISS(モイス)を開発。当初、内装材としてモイスを開発したが、耐力、防火、調湿、遮音等への潜在機能を強化する間に、重量化が進み、現場施工に課題を残す。その欠点を改善するため、大型パネルの開発を行い、前職を退職後、ウッドステーションを起業、社長に就任し、現在に至る。モイスとして、日経BP技術賞、グッドデザイン賞を受賞。また、大型パネルとして、2019年グッドデザイン賞を受賞する。工業所有権等多数。2006年、「『あたり前の家』がなぜつくれないのか?」を出版する。

※木造軸組工法の受託製造 「みんなの工業化」

サプライチェーンをつなげるためのイノベーションは既に存在している

—本誌のテーマは木造住宅「3.0」となっています。プレカットによって木造住宅建築が飛躍的に合理化された時点を「2.0」とすると、人手不足といった現状を考慮すると、さらなるイノベーションによって「3.0」へと向かっていくことが求められるのではないでしょうか。

塩地 我々は、どちらかと言うと住宅建築の川上である林業や製材、建築現場などから大型パネルの開発にたどり着きました。竹内さんは、施主、さらには工務店などとコミュニケーションをとりながら住宅建築を進めています。どちらかと言うと川下の部分にいらっしゃる。この川下と川上がつがなっているようで、実はつながっていない。

ここに木造住宅建築の合理化・高度化を阻む本質的な問題が隠れているような気がするのです。言い換えると、木造住宅3.0の実現を阻む壁があるのではないでしょうか。

竹内 林業の方々とつながると、「なんだか上手くいきそうだな」という感覚はありますが、塩地さんの言うようなつながりを構築するまでには至っていないのが実情です。「つながっていない」ということで言うと、設計者と工務店でさえ同じ意識でつながっているとは言い難い。

私は工務店の方々と一緒になって作業をしています。そのなかで断熱の重要性などを現場レベルで理解することができたのですが、私がどんなに他の設計者に断熱が大事だと言っても、なかなか関心を示してくれません。「デザイン」という枠の中で閉じこもっている設計者が多いという印象があります。デザイン畑で育った設計者にとっては、「竹内は断熱、断熱とか言って、工務店と何かやってるなー」という感じなのかもしれません。

—設計者と工務店の間にも壁があり、さらに工務店と林業の間にも壁があるということですね。

竹内 工務店と林業の間がつながらないというのは、お互いの意識の問題もあるのでしょうが、技術的な問題もあるのではないでしょうか。林業、さらには製材業の方で木材をどう加工するのかということが、建築現場と共有できていない印象があります。塩地さんは、大型パネルによって山側と建築現場をつなげようとしているわけですよね。

塩地 竹内さんが指摘した工務店と山側がつながらない技術的な問題こそが、JISとJASの壁ではないでしょうか。

木材は基本的にJAS製品です。JASの場合、ある程度のバラツキが認められています。かたやJISについては、規定された通りの数値基準を厳守する必要があります。私も以前はJISの世界で生きてきたので、木材について勉強するなかでJASの世界に違和感がありました。また、JISとJASの世界が建築現場でぶつかるからこそ、木造住宅建築は職人依存から脱却できないのだと考えるようになったのです。

例えば、105mm角の材料を製材する場合、JASでは多少のバラツキを認めているので、実際に現場に納品されたものは正確には104mm角かもしれない。ここにジャストサイズで製造されたJIS品を施工するとなると、当然ながらどこかにひずみが発生するわけです。そのひずみを職人の方々が現場でなんとかしているというのが、今の木造住宅建築の現場の現状です。これでは、どんなにプレカット化が進んだとしても、大幅な効率化を図ることは難しいでしょう。しかも、これから職人が減っていくわけですから、さらに状況は困難なものになっていきます。

我々の大型パネルは、工場内でパネルを加工することでJISとJASの壁を解消することができます。言い換えると、「誤差」を「微差」にできるのです。実は「誤差」が「微差」に変わることで、様々なメリットが生まれてきます。

まず、現場でJISとJASの違いによって生まれたひずみを修正する必要がなくなるので、飛躍的に合理化が進みます。また、我々は設計データをそのままで加工データに活用できるように、一気通貫型のシステムを構築しようとしています。現状のプレカットの場合、設計データを人力で製造データに入力しなおしています。この部分で多くの手間とコストを必要としているのです。入力問題が住宅建築の効率化を阻害している非常に大きな要因になっています。

竹内 大型パネルが木造住宅建築にイノベーションをもたらすことは間違いないでしょう。だた、問題はそのイノベーションをどうやって一般化していくかでしょうね。

木造建築の分野に限らず、多くの分野でイノベーションの芽は既に数多く存在しており、それらを上手く活用することで大きな技術革新を興すことは十分に可能だと考えています。しかし、上手くいくはずのものが、上手くいかないということが多すぎる。国土の63%が森林である森林大国であるにも関わらず、それを上手く活用できていないというのが、その典型例ではないでしょうか。

住宅についても、実はすごく大きな技術革新が起きているのに、社会的なムーブメントになっていない。私は、住宅はカーボンニュートラルへと進むべきだと主張していますが、既に存在している日本の技術力を活用することで、カーボンニュートラルは十分に達成できます。それは、建材や断熱工法、さらにはコンピューターを活用したシミュレーションといった部分で技術革新が進んだからです。

にも関わらず、「カーボンニュートラルなんて先の話でしょう」というのが社会の一般的な認識。その一方で、既にカーボンニュートラル化に向けた取り組みを進めている事業者は、「それほど難しくない」と捉えはじめています。

このギャップを埋めるのは経験なのかもしれません。スマートフォンが登場した当初、「ボタンがないから使いにくい」と言っていた人も多かったはずです。それが一度使いはじめると、その利便性を認識し、社会的にも加速度的に普及が進んでいく。住宅関連の商品で言えば、ウォシュレットもそうですよね。初めはおしりを洗うという行為に抵抗感を感じた人も、一度使うと止められなくなる。そういう経験をした人が増えていくと、社会的にも普及していくのです。

木造建築の合理化も同じではないでしょうか。塩地さんが開発した大型パネルのような新しいイノベーションが発生し、それを経験した人達がその利便性を認識することで、より大きなムーブメントになっていくのではないでしょうか。それだけに、情報の発信の仕方などが重要になるのかもしれません。

塩地 竹内さんがイノベーションの芽は既に存在しているというお話をしましたが、川上と川下をつなぐためのイノベーションの芽も登場してきています。ひとつは情報技術です。現在、AIまで含めた情報技術が建築の分野へとどんどん進出してきています。こうしたテクノロジーを活用することで、川上から川下までを高度につなげていくことが可能になってきているのです。

先ほど、我々のパネルは「誤差」を「微差」に変えるという話をしました。このことは将来の高度情報化のためのインフラ整備という側面も持っているのです。例えばAIなどを活用し、設計データの入力を自動化することが可能になったとします。しかし、どうしても「誤差」が生じてしまう状況のなかでは、結局はどこかで「誤差」を解消していくために人力が必要になる。これでは本当の意味で「つながった」とは言えません。住宅建築をデジタル化していくためにも、「誤差」を「微差」に変えていくことが必要なのです。

後編へ続く


木造住宅3.0 高度化と効率化で建築を革新する
発行:株式会社創樹社
価格:本体800円(税別)
発行日:2020/05/12

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ハウジング・トリビューン Vol.605(2020年17号)

特集:

ターニングポイントを迎える防災・減災

国をあげた防災・減災対策の取り組みが加速している。
キーワードは“気候変動×防災”だ。
これまで進めてきたダムや堤防などハードを重視した対策だけでなく、「危ない土地に住まない」、「自然の機能を活用する」など「災害をいなす防災」も重視するスタンスへのシフトである。
各省庁の施策も、自然生態系の活用やグリーンインフラの整備、ハザードエリアの利用規制、流域治水など、これまでとは異なる新たな取り組みが目白押しだ。
猛威を振るう自然災害のなか、まちづくり・家づくりにも新たな対応が求められる。

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