旭化成名誉フェロー 吉野彰 氏 “生みの親”が語るリチウムイオン二次電池の可能性

IT機器から自動車、そして住まいへ リチウムイオンの世界はさらに広がる


二次電池(蓄電池)のなかでも、ここ数年、急速に市場が拡大しているリチウムイオン二次電池。携帯電話などのモバイル機器から自動車へと用途も広がりつつあり、住宅分野でも存在感が高まってきている。リチウムイオン二次電池の“生みの親”のひとりでもある吉野彰氏に話を聞いた。

旭化成名誉フェロー 吉野彰 氏

(このインタビューはハウジング・トリビューン2010年11号に掲載されたものです)


―リチウムイオン電池二次電池の特徴を教えて下さい。

電池にはイオンを運ぶための電解液が必要です。通常の電池の場合、電解液の溶媒に水を使用します。リチウムイオン二次電池の場合、水ではなく非水系有機電解液というものを使います。これは文字通り水ではなく、有機溶媒にイオンを溶かした電解液です。

非水系の電解液を使うと起電力が非常に高くとれます。通常の乾電池の起電力は1.5V。水系の電解水では1.5V以上の起電力を確保することが不可能なのです。1.5V以上の起電力を確保しようとすると、水そのものは水素と酸素に分解してしまう。

しかし、非水系であれば1.5V以上の起電力をもたせることができるのです。起電力が上がると電池ひとつ当たりの電気エネルギーが高くなるので、電池の小型・軽量化が可能になるわけです。

その結果、携帯電話やノートパソコンといったIT機器などの分野でリチウムイオン二次電池が活用されていったわけです。

携帯電話の本体はだいたい3.3Ⅴで動いています。そうなると4Ⅴの起電力があれば、1本の電池で済む。1.5Ⅴの電池であれば、最低でも3本必要になるのです

カーボン材料の利用で安全性を確保

―リチウムイオン二次電池の歴史はどのくらいまで遡るのでしょうか。

商品化されたのが15年ほど前です。開発は旭化成が行ない、基本特許も当社が保有しています。当社が商品化したのが1992年。東芝さんと商品化しました。ただし、その1年前にソニーさんが家庭用ビデオの電池として商品化しています。

リチウムイオン電池の原理そのものは40~50年前から分かっていたのですが、非水系で二次電池をつくるという部分が非常に難しかった。有機溶剤を電解水に使うには安全性を確保する必要があるからです。特に問題だったのが負極の材料でした。

従来、負極の材料として金属リチウムを利用して開発を進めていました。金属リチウムとは、分かりやすく言うと花火の材料のようなものです。化学的反応性が高く、安全性を担保することが非常に困難でした。

我々が開発したリチウム二次電池には、負極にカーボン材料を利用しています。カーボンに変えることによって安全性が確保され、商品化に至ったわけです。

―リチウムイオン二次電池が実用化されて以降、どのような技術的な進歩があったのでしょうか。

負極と正極の材料の改良が進みました。とくにカーボン材料の改良が進み、少ないカーボンでより大きい起電力を生み出すことが可能になりました。それによって、さらなる小型化・軽量が進みました。

今後は用途開発が進むでしょう。先ほど述べたように、これまではIT機器を中心にリチウムイオン二次電池の普及が進みました。今後は自動車や住宅の分野へと進出していくための技術開発が進むのではないでしょうか。

ITの分野で市場実績を残したことで、自動車の分野などでも利用しやすい環境が整いました。

―確かに市場実績は残していますが、リチウムイオン二次電池の不具合なども報告されていますが。

現在、民生部門だけで小型のリチウムイオン二次電池が全世界で年間40億個作られています。それだけに、品質管理の徹底が求められています。

通常の製品の場合、PPM(100万分の1)オーダーでの品質管理が必要だと言われます。つまり、100万個に1個の割合で不具合があるというレベルでの品質管理が求められているわけです。

しかし、リチウムイオン二次電池の場合、年間40億個も作られているわけですから、PPMでは間に合わない。PPB(10億の1)というオーダーで品質管理を行う必要があるかもしれません。

価格は300円から22円に

―価格についてはどうですか。

電池の単価というのは、ワットアワー単価で見ます。今の小型民生用の製品ではワットアワー当たり22円程度にまで値段が下がっています。スタートは300円ほどでしたから、15年で驚異的に値段は下がっています。

生産量が増えただけでなく、生産技術も高まったことで、コストダウンを実現したのです。

これより安い二次電池というのは、鉛電池くらいではないでしょうか。鉛電池がワットアワー当たり5円程度です。鉛電池というのは、車のバッテリーなどに使われているものです。

ただし、これは小型民生用の話です。電気自動車などに使うリチウムイオン二次電池については、だいたいワットアワー当たり100円くらいからスタートしているようです。これが22円にまで下がると様々な状況が変わっていくのではないでしょうか。

―住宅用の可能性についてはどうでしょうか。

小型民生用が普及し、自動車も動き出した。そうなると次は住宅にという動きになるでしょう。

住宅の場合、携帯電話や自動車と異なり置いて使うわけですから、別に小型化する必要はないという意見もありますが、効率化とコストの問題を考えると、リチウムイオン二次電池の優位性を保てることができるのではないでしょうか。

一般的な家庭であれば、1日の電気使用量は10kWh~15kWhくらいでしょう。もし小型民生用と同じようにワットアワー当たり20円で住宅用が実現できたとすると、20万円~30万円くらいで家庭用の蓄電池が実用化できるわけです。

自動車の分野での普及が進めば、大型のリチウムイオン二次電池の価格も下がっていくでしょう。その技術を住宅用にスライドさせれば、無理なく住宅用の普及を図ることができるでしょう。その意味では、住宅業界の方々にとっては、自動車業界の動きを慎重に観察しておく必要があるのではないでしょうか。

(このインタビューはハウジング・トリビューン2010年11号に掲載されたものです)


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