2022.10.10

情報分断の解消と売る側の業態改革で森と建築の関係を解きほぐす

(一社)全国木材組合連合会 副会長 本郷浩二 氏

(一社)全国木材組合連合会 副会長 本郷浩二 氏
<プロフィール> 1982年京都大学農学部林学科卒業後、林野庁に入庁。青森営林局及び管内営林署で造林や森林経営業務に従事した後、造林技術協力のためマレーシア・サバ州に3年間派遣。林野庁森林整備部長、林野庁国有林野部長、林野庁次長を歴任し、2019年7月〜2021年7月まで林野庁長官を務める。2021年11月から現職。

川上、川下不在のサプライチェーン

国産材の歴史を振り返ると、戦後の復興、高度経済成長期のなかで川上、川中、川下の不幸な関係性が出来てしまったのではないでしょうか。戦中、戦後、木材需要が急激に高まり、伐採を続けた結果、資源が枯渇したため国産材の価格は高騰していきます。

木材の輸入が自由化されると、当時低コストで安定的に調達できた輸入材の人気が高まり、国産材のシェアは減少していきます。資源の枯渇状況以上に国産材から輸入材へと置き換わっていったのです。

一方で森林を再生する取り組みがなされていきました。公的な助成金なども活用しながら、自分で出来ないところは森林組合が森林所有者の方々に代わって森林の保全に取り組み、今、活用すべき森林資源が蓄積されたというわけです。

こうした歴史のなかで、多くの森林所有者の方々に木材を売るという意識が醸成されませんでした。森林組合などに言われて、間伐したものを市場に出すだけで、「売っている」というよりは、「買ってもらっている」という意識の方が強かったのではないでしょうか。

そのため、値決めの主導権も買う側に牛耳られ収益は得られない。欧米などでは、林業・木材産業が主要産業として、一貫して森林資源をお金に替えて、その一部を森に還してきた。その点が日本と諸外国の林産業の差になっているのかもしれません。

日本の森林組合は、「売る」ことよりも、どちらかと言うと「育てる」という方に軸足がありました。

川下である住宅・建築業界の方々は、値段の高い・安いよりも、安定的に調達できる輸入材を中心的に使い続け、プレカットの普及とともに、例えば大工さんが直接木材を調達することも激減しました。

その意味では、現在の木材のサプライチェーンの川下は、住宅事業者ではなく、プレカット工場なのかもしれません。さらに言えば、本来最も上流にいる森林所有者の方々も、多くの場合、サプライチェーンから離脱しているというのが現状ではないでしょうか。

川中である製材業者はどうかというと、そもそも丸太で輸入するケースが少なくなり、国産材以外は製材する機会が減っています。そのなかで、大規模化することで大都市部の需要に応えようという動きと、ローカルなサプライチェーンのなかで地域密着型の事業を行おうという動きが出てきました。

ただし、現在の国産材活用の状況を考慮すると、まだまだ安定供給という点で十分なサプライチェーンの取り組みにはなっていないと言わざるを得ません。

国産材のサプライチェーンが上手くつながっていない大きな要因のひとつが、需要側の情報が分断されていることだと思っています。原木の生産現場では、多くの場合、木材市場の相場感で生産がなされ供給が決まっています。需要側の情報にしっかり対応していません。例えば、全体としては需要が供給を上回っていても、求められている材が出て来ておらず、必ずしも木材価格が上昇しないという状況も起こるのです。

需要に対して供給が多く、また需要の情報が共有されていない状況は、少しでも安く買い叩きたいと考えている人にとっては好都合です。結局、需要が増加しても、森林所有者や原木生産者の「買ってもらっている」という意識はなかなか変わらない。

最近になって市場を通さずに直販するケースも増えていますが、この場合、ある程度は需要の情報が共有されるので、川上、川中、川下が対等なパートナーになれるかもしれません。また、安定的に木材を供給することで、再造林にまわすだけの収益もねん出しやすくなります。

木材は、どこまで行ってもプロダクトアウトの材であり、マーケットインにはなり得ません。山に生えている樹木を急に太くしたり、長くしたりはできませんから。ただし、需要側の情報をあらかじめ共有できれば、できるだけニーズにあったものを優先的に伐採・採材して提供していくことはできます。

まずは需要側の情報を共有すること。それが戦後構築された不幸な関係を解きほぐす第一歩ではないでしょうか。

森林の所有と経営の分離で持続可能性を担保する

森林の経営を集積することも重要になると考えています。森林所有者から委託を受けて、森をお金に替えて、その一部を再造林に戻していく。需要側の情報に対応にしながら、そういった持続可能な森林経営を行うプレイヤーの登場に期待しています。既にそういうプレイヤーが登場してきています。多くの森林組合も「育てる」から「活用する」へと意識変革できれば、森林経営を実践する役割を担えるはずです。

日本の林業は、長い停滞の時を過ごして、今、ようやく国内の森林資源を持続的に使うためのスタートラインに立てたと思っています。先人が残してくれた森を使いながら、後世に新しい森を残していく―。

戦後に森や林業が続かなくなってしまった反省を踏まえて、国内の森林資源を絶やすことなく有効に活用していくことが求められているのではないでしょうか。