2017.11.29

建研、住宅省エネ改修の設計方法を提示 改修前後の省エネ性能を比較可能に

2018年1月から実務者向け講習会を開催

国立研究開発法人建築研究所は、住宅の省エネ改修の設計、評価方法に関するガイドラインをまとめた。このガイドラインを活用することで、改修前後の省エネ効果の目安が把握できるようになる。省エネ改修を促すツールとして重要な役割を果たしていきそうだ。


国立研究開発法人建築研究所がまとめた住宅の省エネ改修の設計、評価方法の成果をもとに(一財)建築環境・省エネルギー機構(IBEC)などでは、2018年1月に新刊「改修版 自立循環型住宅への設計ガイドライン(案)」を発行し、これをテキストに使用した講習会を主催で開催する予定だ。

IBECでは、2010年に「既存住宅の省エネ改修のガイドライン」という冊子を発行しているが、この冊子では、どのような省エネ改修工法があるのかを網羅的に紹介するにとどまっていた。省エネ改修の設計方法に関する考え方を示したのは今回が初の試みとなる。

新築より難しい省エネ改修事業者の取組み促すきっかけに

住宅ストック数が増加し、国全体で省エネを推進するためには、既存住宅の省エネ化が欠かせない。加えて、住宅の温熱環境の改善が住まい手の健康維持増進を促すという研究成果も出てきており、この観点からも省エネ改修への関心が高まっている。一方で、省エネ改修の設計には、「既存の躯体に配慮しながら断熱建材を配置する必要がある」「調査結果に対応した断熱工法を計画・選択する必要がある」「部分断熱など、改修のバリエーションが豊富にある」といった柔軟な対応が求められるため、新築の省エネ設計よりも難しいという指摘もある。リフォーム事業者などが省エネ改修を敬遠する要因の一つにもなっている。

今回、取りまとめられた省エネ設計に関するガイドラインを活用することで、事業者は省エネ改修に取り組みやすくなる。省エネ改修市場の普及拡大へ弾みがつきそうだ。

ガイドラインでは、暖房区画の断熱性能を示す「区画熱損失係数」という断熱指標を新たに提示した。①の外気などへの熱損失、②の非暖房室への熱損失、③の壁内気流(漏気)による熱損失を積算し、区画の床面積で割ることを求めている ※「改修版 自立循環型住宅への設計ガイドライン(案)」(IBEC)から転載
ガイドラインでは、暖房区画の断熱性能を示す「区画熱損失係数」という断熱指標を新たに提示した。①の外気などへの熱損失、②の非暖房室への熱損失、③の壁内気流(漏気)による熱損失を積算し、区画の床面積で割ることを求めている
※「改修版 自立循環型住宅への設計ガイドライン(案)」(IBEC)から転載
※「改修版 自立循環型住宅への設計ガイドライン(案)」(IBEC)から転載
※「改修版 自立循環型住宅への設計ガイドライン(案)」(IBEC)から転載

省エネ改修フローの各段階で着目すべきポイントを解説

今回のガイドラインでは、「事前調査」、「詳細調査」、「調査結果の報告、省エネ改修の提案」、「省エネ改修設計及び工事内容の決定」、「省エネ工事の実施」、「改修工事結果の検証」といった省エネ改修の一般的な流れを示し、各段階で着目すべきポイントなどを解説している。事前調査の段階では、木造戸建住宅の築年数に応じた断熱性能の目安などを示した。これを活用することで、より簡単に断熱性能を推定できる。さらに、詳細調査を実施する段階では、天井、外壁、床、開口部ごとの断熱建材について、建設年代別の断熱仕様の目安を提示した。これは、年代別の断熱建材の出荷統計や実態調査から作成したもの。目視確認と合わせて活用することで、部位ごとの断熱性能を推定しやすくなる。

また、省エネ改修では、快適性の向上、ヒートショック事故の予防の観点から非暖房室の性能向上も重要なポイントとなる。一般的に暖房しているときの暖房室と非暖房室(非居室)との温度差は、概ね5度(理想)~9.5度(度許容)以内に抑えるのが望ましいと言われている。そこで今回のガイドラインでは、準寒冷地、温暖地、蒸暑地別に、どの程度の断熱性性能(UA)値を目指せば、暖房室と非暖房室の温度差を9.5度以内に抑えられるか目安となる表をまとめ示している。

そのほか、詳細調査時に用いるツールとして、住まい手のニーズを的確に把握するためのヒアリングシートを用意した。「既存住宅では、ニーズが顕在化しやすい。そのニーズを的確に汲み取り設計に反映する必要がある」(建築研究所)としている。具体的には「住まい手の属性」、「居室の利用状況」、「温熱環境など住まい手の感覚や不満、要望」、「湿気の発生状況や歓喜の状況」、「臭いや結露、換気の状況」、「冷房方式と使用方法」、「湯の使用方法と要望」、「照明に関する状況と要望」、「エネルギー消費量の現状と要望」をヒアリングできるチェック項目を用意。設計実務者が現状を把握することで不具合、不満の要因や要望の背景を明らかにし、省エネ改修の具体的な検討に繋げられるように配慮した。

ガイドラインでは、既存の躯体を十分に調査することの重要性も指摘している。「結露リスクが高まることがあるため、雨水浸入状況を的確に把握し、場合によっては、断熱化や気流止めの措置自体を取りやめることも必要」(建築研究所)としている。

部分断熱の簡易な省エネ計算法などを提示

省エネ改修では、リビングなどのメインとなる生活空間のみなどを断熱改修する部分断熱が求められることもあるため、その考え方を整理し、部分断熱した場合の断熱指標(区画熱損失係数)を新たに提案した。外気などへの熱損失、非暖房室への熱損失、壁内気流(漏気)による熱損失を掲載し、区画の床面積で割ることを求めている。新築の省エネ計算と同様に、表計算ソフトや手計算などで、簡単に算出することができる。

IBECでは、2018年1~2月、東京・大阪・名古屋で、「改修版 自立循環型住宅への設計ガイドライン」を用いた講習会を開催する。各回3.5時間で、ガイドラインの読み方や省エネ改修の考え方のエッセンスを解説する。

今回のガイドラインで示された省エネ改修に関する設計方法を活用することで、改修前、改修後の住宅の性能を比較し、「何%の省エネ効果が期待できる」といった提案を行うことも可能になる。より具体的な改修計画・見積提案を行うことで、円滑な省エネ改修を実現し、トラブル防止にも効果を発揮しそうだ。