デザイン思考と住まい【後編】

フラワー・ロボティクス株式会社 代表 松井龍哉 氏

IoTで暮らしを豊かにする “ひとまとまりの価値”をデザイン

異業種が連携して暮らしへのIoTの導入を目指す「コネクティッドホームアライアンス」──。同アライアンスでデザインディレクターを務めるフラワー・ロボティクスの松井龍哉代表は様々なモノをIoTで結びつけることで、暮らしを豊かにする“ひとまとまりの価値”をデザインしていこうとしている。それはどういったことなのか、松井代表に詳しく聞いた。

1969年、東京生まれ。1991年に日本大学藝術学部卒業後、丹下健三・都市・建築設計研究所を経て渡仏。科学技術振興事業団にてヒューマノイドロボット「PINO」などのデザインに携わる。2001年フラワー・ロボティクス社を設立し、ヒューマノイドロボット「Posy」「Palette」などを開発。現在、自律移動型家庭用ロボット「Patin」を開発中。iFデザイン賞、red dotデザイン賞など受賞多数。日本大学藝術学部客員教授、グッドデザイン賞審査委員(2007五〜2014年)。2017年からは異業種が連携して暮らしへのIoTの導入を目指す「コネクティッドホームアライアンス」のデザインディレクターを務める。

──前回のお話では、デザイナーとしての観点から暮らしに入って行きやすいような家庭用ロボットのデザインに取り組んでいるとのことでした。それは具体的にどういったロボットなのでしょうか。

現在デザインしている家庭用ロボットは「Patin(パタン)」という名のもので、これまでにない台車型ロボットです。Patinでは空間を3次元で認識し、室内のどこに机や椅子やドアがあるかということを効率的に把握させる研究を進めています。

ルンバのように住宅の床を這って移動しますが、ルンバのように特定の機能を持っているわけではありません。Patinの上に照明や空気清浄機などの既存のプロダクトを乗せWi-Fiで連携することで、乗せたプロダクトの機能やサービスに合わせて室内を移動します。

そうすることで、照明や空気清浄機が室内や生活者の状況に合わせて自立して移動して機能やサービスを発揮するということが可能になるのです。Patinはあくまでプラットフォームですので、利用シーンや目的によって乗せるプロダクトを付け替えて使用することができ、乗せるプロダクトの数だけ使い方が広がります。

──一方で、松井さんはロボットのデザインだけでなく、異業種の企業が暮らしへのIoTの導入に取り組む「コネクティッドホームアライアンス」のデザインディレクターも務めておられますね。

アライアンスの参加企業である東急電鉄の方を通じて誘っていただきました。企業だけでなくデザイナーもアライアンスに加わることで、企業の集合体だけでない価値を創出できると期待していただいたためです。

ひとつの企業やひとつの製品だけで、暮らしへのIoTの導入を図っていくことは難しい。このため、アライアンスでは業種や企業の壁をなくして取り組むことを理念としています。一方で、業種も異なる様々な企業が集まると、理念や提供する価値についてのイメージが見えづらくなる懸念もあります。そこで、デザイナーの役割が重要になると考えています。まず私がアライアンスで取り組んだのはロゴのデザインです。水平ラインを特徴とすることで、垣根のないフラットなつながりを表現しました。アライアンスの理念を、言葉よりも先に目に見えるかたちで直感的に示す。そうすることで、理念を表した言葉がより深く刺さるようになります。

また、アライアンスではIoTで様々な企業のモノとモノが連携することで、どういった価値を生み出せるか検証していこうとしています。デザイナーとしての私に求められているのは、様々なモノが連携することで最終的に生み出される“ひとまとまりの価値”をデザインすることです。“ひとまとまりの価値”とは、アライアンスの特別顧問である野城智也教授が提唱されている概念です。どういったひとまとまりの価値が生活者にとって心地よいのか──。生活シーンを想定してシナリオを作りながら考えていきます。

これまで、朝起きてから照明を点け、コーヒーを沸かし、シャワーを浴びるために給湯器の電源を入れて…という一連の流れは、それぞれの機器のスイッチを押さなければいけませんでした。しかし、IoT化されることで、例えば、「モーニング」と声を発するだけで、これらの機器の電源が一瞬で立ちあがり運転を始めるといったことが可能になり、“理想の朝の暮らし”というまとまった価値を提供することができます。

成熟社会となった日本では付加価値の創出が企業には一層求められていますが、IoTでひとまとまりの価値を創出することで、高い付加価値を提供していける可能性があります。

──また、住宅IoTではインターネットを介して様々なモノをつなげるだけでなく、住宅内のモノから取集した生活データを活用して全く新たなサービスをデザインしていける可能性もありますよね。


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