New   2026.4.8

「義務化」の先へ 地域工務店が生き残るための超省エネ住宅 完全攻略

 

省エネ性能の底上げが加速する今、もはや「ZEH水準」は通過点に過ぎない。
競合他社と差別化し、顧客に選ばれ続けるには、断熱等級6以上の高性能住宅を安定供給できるかが鍵になる。
先進的な家づくりで地域をリードする工務店は、設計・施工のハードルをどう乗り越えたのか。
4社の独自の取り組みから、これからの工務店経営のヒントを探る。

デザイン・性能・コストの「三位一体」を追求
コストマネジメントとダブル断熱で実現
グラッソ

滋賀県内を中心に年間約40~50棟の住宅を手がけるグラッソが2012年の創業時から大事にしているのが「デザイン、性能、コスト」のバランスだ。創業以来、坪数に応じた明確な価格提示を継続しながら、現在は断熱等級6、7に対応。予算内で自由設計に応じ、オプションになりがちな造作キッチンカウンター、造作洗面台、海外製食洗機、照明なども標準にするなど、コストを抑えながらデザインにこだわりたい顧客ニーズに応えている。

グラッソが手がけた注文住宅の外観、内観の一例。坪数に応じた定額制を基本とし、施主の要望に応じたこだわりのデザインを実現している
グラッソの福井啓太専務取締役

同社の住宅の大きな特徴は、ツーバイシックス工法をベースとした強固な構造と高い断熱性にある。同社が本格的に高性能化に舵を切ったのは約9年前。某メーカーから、ペアガラスからトリプルガラスの方への変更を提案され、いち早くトリプルガラスの採用に踏み切った。しかし、窓の性能を上げるだけでは住宅全体のバランスが取れない。そこで、ツーバイシックス工法ならではの140㎜の壁厚という懐の深さを活用し、天井や屋根の断熱材を強化。さらに外張り断熱を付加することで、高い断熱性能を確立していった。

現在展開する2種類の性能のうち、UA値0.34の「ハイスペック」仕様では、壁内にグラスウール140㎜を充填し、屋根は吹付断熱280㎜、基礎断熱50㎜を施しているが、UA値0.26の「ハイスペックα」では壁に外張り断熱を加えたダブル断熱としている。外張り断熱にはフェノールフォーム断熱材を採用しており、約1年半前からフェノバボードを使っている。「以前の製品では、目標のUA値にわずかに届かないケースがあった。同じ厚みでも、より熱伝導率が低く性能が高いフェノバボードを採用することで、確実にHEAT20のG2、G3の性能を確保できるようになった」と同社の福井啓太専務取締役は説明する。

性能を上げれば、当然コストは上がる。しかし、グラッソは「ハイスペック」仕様で30坪2454万円、「ハイスペックα」仕様で30坪2717万円と、手の届く価格帯を守り続けている。その背景には徹底したコストマネジメントがある。「いいものを高く売るのは誰でもできる。でも、私たちはできるだけ安く提供したい。材料も一つひとつ私がチェックして、1年先の価格を読み、そこを超えないようにメーカーと交渉し続けている」と明かす。

この地道な交渉と明瞭な坪単価提示という創業時からのスタイルが、施主からの信頼につながっている。数年前までは20代前半の顧客も多かったが、住宅価格の高騰に伴い、現在は30代の層が中心。男性は性能に、女性はデザインにこだわる傾向が強く、その両方を高い次元で満たすことが成約の鍵となっている。

この春には、落ち着いた雰囲気を出した半平屋のモデルハウスをオープンする。高いデザイン性と、快適な空間を体感してもらう狙いだ。また、断熱等級79全棟標準化も検討している。大手メーカーやビルダーも性能強化を図る中、先行して差別化を図る。

性能は「安心」のための前提条件
情緒ある「日本らしさ」の家づくり
KEN建築工房

大阪府の南部に位置する富田林市を拠点にするKEN建築工房は、年間に注文住宅を6棟前後、高性能リノベーションを4、5棟手がける。そのいずれもが断熱性能等級6から7を標準とする。田中健太代表取締役は、大工の経験を持ち、現在は設計から性能計算まで自らこなす。同社が性能にこだわるようになったきっかけは、田中代表の自邸の反省にある。「約10年前に自邸を建てた時、当時の知識では最強だと思える断熱を施したが、実際に住んでみると暑さも寒さも意外にあった」と田中代表。そこから高気密・高断熱の徹底的な研究を開始し、試行錯誤しながら現在の仕様に至った。

現在は、付加断熱を標準採用している。壁には充填断熱として高性能グラスウール105㎜を入れ、さらにその外側をフェノールフォーム断熱材で覆う。屋根には、グラスウール105㎜を2層(計210㎜)にし、さらにフェノールフォーム断熱材30㎜を重ねる。壁・屋根で同一材料を使うことで建材ロスをなくし、コスト軽減にもつなげている。

「LIXILメンバ―ズコンテスト2025」新築部門準グランプリに選出された「光降り注ぐ渾然とした家」の外観と内観。木材をふんだんに使った美しい外壁が特徴。ウッドデッキの庭を眺めるLDKは南面から光を取り込む心地よい空間となっている 

開口部には主にLIXILの「TW」トリプルガラス仕様を採用している。「樹脂サッシは性能面で有利だが、どうしても枠が太くなり、ガラス面が狭くなってしまう。外の景色を美しく切り取り、光を室内に届けるためには、枠の細いTWが理想的」。夏の暑さが厳しい地域性を考慮し、窓の外の中間領域も意識しながら、外とのつながりと暑さ対策の両方をかなえる家づくりに努めている。

KEN建築工房の田中健太代表取締役

こうした取り組みによりUA値は0.25程度と高いレベルの断熱性を確保しているが、単に数値を求めているわけではないと田中代表は強調する。「UA値はあくまで平均値。場所により偏りを作ると、そこに結露発生のリスクが生まれる。そうならないよう、屋根、壁、基礎すべての部位でバランスよく全部同じぐらいの数値になるよう設計している」。太陽光パネルは全棟標準搭載し、蓄電池は予算に応じて対応し、現在は約2割が採用しているという。既にGXZEHレベルの仕様になっており、今後は補助金などに応じて対応していく方針だ。

田中代表は環境住宅先進国である欧州へ何度も足を運び、家づくりの研究を続けている。「ドイツでは断熱は当たり前すぎて話題にもならない。性能は責任を持って提供すべき『安心』であって、お客様とはどんな暮らしがしたいかという話をたくさんすべき」。

高い住宅性能の先にある、施主それぞれの理想の暮らしを重視した同社の家は、高い評価を受けている。全国のLIXIL加盟工務店、リフォーム店で競う「LIXILメンバ―ズコンテスト2025」では「光降り注ぐ渾然とした家」が新築部門準グランプリに選出。自然光を最大限に取り込み、日常的に緑や自然が感じられる豊かな住まいを実現した。「日本の気候に合った、飽きのこない情緒ある『日本らしさ』を表現していきたい」と、独自の家づくりをさらに追及していく。

群馬の酷暑をしのぐ“等級6.5”
材木店由来の技術と合理性で実現
館林林業

日本有数の酷暑で知られる群馬県館林市で、その暑さに負けない高性能の家に取り組むのが館林林業だ。材木店として昭和初期に創業し、1946年に法人化、99年から住宅事業を開始。現在は四代目の原和平氏が代表を務め、年間新築住宅約6棟とリフォーム、不動産事業を手がけている。同社は「いい木と暮らす。」をコンセプトに単なる高性能ではなく、快適で、かつ手の届く価格の住まいづくりに取り組む。高性能住宅に取り組むきっかけは、先代原弘幸氏時代に遡る。まだ「高気密・高断熱」という言葉が一般的でなかった頃、先代はすでに気密測定士の資格を取得していたという。原代表は「当時、営業に来た大手メーカーの担当者が気密測定士の資格を持っていないことを問いただしたというエピソードが残っている」と話す。群馬県内における気密施工の草分け的存在として、先代が築き上げた「隙間のない家づくり」は、そのまま受け継がれ、現在は​全棟C値0.4以下を標準としている。

館林林業が手がけた注文住宅の外観、内観一例。国産材や自然素材をふんだんに使った丁寧な家づくりで差別化をはかっている
館林林業の原和平代表

同社は断熱等級6と7の間、UA値で0.35〜0.4前後の数値を標準とする。なぜ〝等級6.5〟なのか。そこには土地勘に基づいた判断がある。原代表は「館林周辺は、2019年までは断熱地域区分でより高い断熱性能が求められる5地域に分類されていた。現在は6地域だが、実測データなどを見ると、やはり5地域基準で考えたほうがこの土地の暑さ対策に合う」と説明する。断熱性を高めることは、夏の暑さ対策においても極めて有効になる。猛暑日が続く館林エリアの夏の暑さをしのぐために、「ギリギリの等級6ではなく余裕を持って等級6を上回るレベルにすると光熱費もぐっと抑えられる。最もコストパフォーマンスが良い」。設備などの要件を満たせば全棟GX志向型住宅に対応できるレベルで、現在太陽光発電パネルは9割が採用、蓄電池の採用はまだ限定的だという。

断熱材の選定においても、合理性が光る。壁は過去には充填断熱を基本にしていたが、現在は標準の「Aクラス」仕様では、発泡系断熱材による外張り断熱を基本とし、さらに性能を高める「Sクラス」仕様では、パラマウント硝子工業の高性能グラスウール「太陽SUN」を併用する。「グラスウールは費用対断熱性能が非常に高い。建築コストが高騰する中で、性能を確保し続けるためには欠かせない選択肢」と原代表は話す。

元材木店という強みを活かし、9割に国産材を使用しているのも特徴だ。その大半は群馬県産材であり、安価に仕入れることで、建具、洗面台、キッチンなどを自社の造作で仕上げ、差別化を図っている。「今の家づくりは、性能だけでは差別化できない。そこに木、漆喰、和紙など自然素材の質感が加わることで、豊かな暮らしが実現できる」。断熱等級7レベルの新モデルハウスでは、エアコン1台で酷暑をいかに効率よく過ごすことができるか空調の検証を行う予定だ。

桁上断熱で実現した
高コスパ・短工期・高性能の最適解
藤本工務店

兵庫県播磨エリアを中心に新築住宅、不動産、リフォームを手がける藤本工務店は、独自の注文商品「ラクラクの家」を年間40棟ほど供給している。断熱等級6(UA値0.46以下)を標準とし、太陽光発電パネルを標準装備しながら3LDKで税込1479万円から請負ベースの平均は2000万円台と驚異的なコストパフォーマンスを実現。特に20代、30代の若い世代から支持を得ている。

「ラクラクの家」の価格を抑えることができている理由の1つは、メリハリにある。「6地域という比較的温暖なエリアで断熱等級7までは必要ない。それよりも求めやすい価格が重要だと考えている」と藤本遼太郎副社長。過剰なスペックを追わず、費用対効果を考慮しながら仕様を見極めているという。壁に、105㎜のアクリアネクストα、床下には厚さ80㎜のアクリアUボードピンレス、桁上には155㎜を採用。いずれもコスパを意識し、グラスウールを用いている。サッシは、基本的には樹脂サッシのAPW330を採用し、熱損失の大きい南面の掃き出し窓には最高ランクのAPW430を配するなど、要所にコストをかけつつ全体の価格を抑えている。

藤本工務店の「ラクラクの家」の外観、内観一例。シンプルで施工しやすいプランにすることで、工期短縮につなげ、高性能で手ごろな価格を実現している
藤本工務店の藤本遼太郎副社長
同社の生産管理課 福本彬課長

大きな特徴は、2025年10月から本格導入した桁上断熱工法だ。従来の天井断熱では、天井板(石こうボード)の上に断熱材をのせる。しかし、配線や換気ダクトによって断熱材がめくれ隙間ができ、気密漏れや断熱欠損が生じやすいという難点があった。それを解決するため、屋根裏に面材で床をつくる桁上断熱に切り替えることを検討。その際に「コストと品質の両面で探した結果見つかった」(生産管理課 福本彬課長)と日本ノボパン工業の木質系構造用面材「novopan ATC」を取り入れ、桁上断熱を実現させた。天井よりも高い位置の桁の上に面材を貼ることで、断熱材を隙間なく敷き詰めることができる。

また、この面材が気流止めの役割も果たし、気密性能も確保しやすくなる。桁上全面にnovopan ATCを貼ることで、建物全体を六面体のモノコック構造に仕上げ、それにより気密性能を示すC値が向上した。それまでは気密処理は各職人の技術に頼る部分もあり、平均0.8程度、最も腕のいい職人でも0.7だった数値が、新仕様では全棟平均0.5を確実に出せるようになった。また上を向いて断熱材を詰め込む重労働を解消したことで、工期や手間を短縮。加えて、凹凸を極力抑えた間取りを計画することにより、2階建てで平均約70日というスピード工期を実現している。

今後の展望として空調の提案も見据える。福本課長は「現在エアコンは家電量販店などで取り付けてもらっているが、実際に住み始めたお客様から、リビングに1台あれば十分だから何台も付けないでよかった、という話を多くいただく。小屋裏や床下エアコンなど、我々が建物の一部としてパッケージ化し、プロの視点で空調デザインしたい」と話す。