ボルダー市が挑む コミュニティの再生と住宅のアフォーダビリティ回復
現地レポート 米国コロラド州にみる「オフサイト建築」と「アフォーダブル住宅」の最前線【後編】
日本以上に深刻な住宅価格の高騰に直面している米国。
しかし、その一方ではこの問題を解決するための大胆な取り組みも進んでいる。
前号に引き続き、立教大学社会デザイン研究所と(一社)日本オフサイト建築協会が実施したコロラド州ボルダーでの現地調査に同行した内容をレポートしていく。
今回はコロラド州デンバー市で進む挑戦的な取り組みについて紹介する。
(取材協力:立教大学社会デザイン研究所 / (一社)日本オフサイト建築協会)
モバイルホームパークから「永続的な住まい」へ
米国内には「モバイルホームパーク」と呼ばれる居住区がある。車輪付きの移動型住宅(トレーラーハウス・モビールホーム)を設置・居住するための専用区画であり、土地の所有者がモバイルホームに住む居住者に土地を貸し出す仕組みだ。移動型住宅は入居者が所有している。その多くには低中所得者が居住しており、ボルダー市内にもいくつかの「モバイルホームパーク」がある。

そのひとつであるボルダー市北部にある「ポンデローザ・モバイルホームパーク」は、1955年からあるもので、現在は39世帯が居住している。
ボルダー市内の世帯年収の中間値が約12万5000ドル(約1980万円)であるのに対して、ポンデローザの居住者の世帯年収の中間値は5万~7万ドル(約793万~1110万円)だという。
ポンデローザでは、各世帯が保有する移動型住宅が老朽化しているだけでなく、2013年に発生した洪水によって、下水道などのインフラ設備が重大な被害を受けた。そこで17年にボルダー市が土地を購入し、「ポンデローザ地域安定化プロジェクト」を開始、下水道、電気、ガスなどのインフラ設備の更新作業をスタートした。
加えて、老朽化した移動型住宅から、新たに建築した住宅へと移住させるための取り組みも開始した。移動型住宅を居住者から買い取り、敷地内に新たに建築した戸建住宅型のアフォーダブル住宅を購入してもらうことで、最終的には72戸のアフォーダブル住宅をこの地に建設する計画だ。
ただし、市としては強制的に移動型住宅の入居者に移住してもらう考えはなく、あくまでも希望に応じてアフォーダブル住宅への移住を勧めている。

教育・行政・非営利団体が結ぶ「三位一体」のオフサイト建築工場
このプロジェクトを技術面で支えるのが、Boulder MODというオフサイト建築のための工場だ。ボルダー市、ボルダーバレー学区(以下、BVSD)、非営利団体「フラットアイアンズ・ハビタット・フォー・ヒューマニティ(以下、FHFH)」の三者間による戦略的パートナーシップに基づき整備されたもので、2024年10月に完成式典が開催された。
BVSDは、ボルダー市を中心に11のコミュニティをカバーする学区。その規模は、約56校、生徒数約2万4000人以上にものぼる。
一方、FHFHは、コロラド州のボルダー市などを拠点に活動する、国際NGO「ハビタット・フォー・ヒューマニティ」の地域支部。
新設された工場は、広さ3万1375スクエアフィート(約2900㎡)の鉄骨造の建物であり、BVSDが保有する土地をボルダー市が借り受け、建物や生産設備を整備した。その工場をFHFHが無償で借り受け、工場の運営を実施している。
この工場を設立するために、ボルダー市はコロラド州行政局などから約430万ドル(6億7000万円)の資金を調達している。
工場は年間で50戸分のユニットを供給できる生産能力を備えている。ただし、当初は年間12~15戸分のモジュールを製造する計画だ。
オフサイト建築によるアフォーダブル住宅

ポンデローザで新たに建築するアフォーダブル住宅については、Boulder MODの工場で製造したモジュールユニットを利用しており、現場での施工はユニットの据え付けや配管、配線の接続だけで済むようにしている。
工場内は3つのサブワークステーションと9つのワークステーションで構成しており、壁、 床、天井などはもちろん、内外装、建具、設備機器、開口部(サッシなど)が施工された状態でのモジュールユニットを製造している。
1ユニットは8週間で完成することができる。ユニットのサイズは、幅は16フィート(約4.9m)で、長さについては40~80フィート(約12.2~24.4m)まで対応可能。基本的にはモジュールを運搬するトレーラーに搭載できるサイズになっている。
工場で働く従業員は7名だが、電気工事などについては外部の有資格者に依頼して施工を行っている。今後はこうした工事も内製化するために、有資格者の雇用を検討していく考えだという。
現場であらかじめ基礎を施工し、完成したユニットを現場に運び込み、それぞれのユニットの接続や電気配線、配管の接続、外構工事などを行うことで工事は完了する。
工場を人材育成の場として活用
この工場の役割は、単にユニットを作ることだけではない。BVSDの技術教育プログラム「APEX」の拠点としての役割も担っている。「APEX」は、教室での学びと実社会を結びつける体験型教育を提供するプログラム。「APEX」の建設プログラムでは、学生がBoulder MODの工場で高気密・高断熱の高性能住宅の建築手法などを学ぶことになっている。
大工(木工)技術だけでなく、有資格者の指導を受けながら電気工事などについても経験を積むことができる。
もともと建築を学びたいという学生を対象に、模型を使った実技プログラムや犬小屋の制作といった実習授業を実施していたが、Boulder MODができたことで、工場内で気象条件などの影響を受けることなく、より安全に実践的な技能を習得できるようになった。
近隣の高校から1日20~30人の学生が参加しており、1回3時間の作業を行っている。
米国の住宅・建築業界では、日本と同じように深刻な人手不足に陥っており、新たな人材育成策としても、Boulder MODの取り組みが注目を集めている。
低所得者の自立を促す「汗の出資」とは


国際NGOであるハビタット・フォー・ヒューマニティでは、「スウェット・エクイティ」という考え方を提唱している。直訳すると「汗の出資」。支援を受ける家族が「施しを受ける」のではなく、自ら家づくりに参加することで、住まいに対する権利と誇りを手に入れるという考え方がこの言葉に込められている。
支援を受ける家族は無利子(または低利)の住宅ローンを利用し住宅を取得することができ、その返済金は次の誰かの家を建てるための資金として再利用される。
また、「スウェット・エクイティ」という考えのもとで、支援を受ける側も「パートナー」として建設に参加し、自らの手で生活を再建するプロセスを重視している。
Boulder MODを運営するFHFHは、前述したようにハビタット・フォー・ヒューマニティの地域支部。
FHFHでは、Boulder MODを通じたアフォーダブル住宅の提供においても「スウェット・エクイティ」を求めており、購入者1人当たり200時間の労働を求めている。
そのため、Boulder MODの工場では、10~15人のボランティアが作業を行っており、建築を学ぶ学生と共に貴重な労働力となっている。
公的なインスペクションなど活用し、品質管理を徹底

Boulder MODの工場では、州の法制度などに準拠した品質確保体制を確保している。
米国で「モジュラー建築」を製造する場合、州および地方自治政府が策定したコードに基づき製造することが求められている。多くの場合、通常のオンサイト建築の住宅に求められる品質や性能を満たすコードになっている。
加えて、生産工場の認定、設計内容の認証、さらにはコロラド州の場合、製造する全てのユニットについて生産段階でインスペクションを受けることも必要になる。
オフサイト建築では、建築現場で据え付ける段階では構造躯体や壁体内を確認することが不可能であるため、工場での製造段階でインスペクションを行うことになる。
他の州にユニットを出荷する場合、出荷先の(建築現場がある)州のコードに基づき工場の認定を取得し、インスペクションを受ける必要がある。インスペクションは州の担当者の他、許可を受けた第三者機関が行うこともあり、全てのインスペクションに合格すると、証票が付与される。
Boulder MODの工場では、コロラド州の認可を取得しており、ユニット毎にインスペクションも受けている。インスペクションは、9つのワークステーション全てで受けており、州のインスペクションに合格してから、次のステーションをユニットへ移動する。
州の検査項目は86項目ほどだが、Boulder MODでは独自に230項目にも及ぶチェック項目を設定しており、それぞれのステーションの責任者、さらには工場全体の品質管理責任者がダブルチェックを行い、問題ないことを確認してから州のインスペクションを受けている。
アフォーダブル住宅であっても性能や品質を犠牲にしない
ポンデローサでは、既にBoulder MODで製造したユニットを利用した4戸のアフォーダブル住宅の建築が進んでいる。
デュプレクスと呼ばれる、2つの住戸が一体化した2階建ての建物になっている。オール電化の住宅で、断熱・気密性能にも優れている。気密測定も実施し、施工品質を確保している。サッシはトリプルガラスの樹脂サッシで、屋根には太陽光発電も設置されている。設計上はゼロエネルギー住宅になっている。
所有形態は、日本の分譲マンションに近い。内装から内側の住宅内部は所有者の専有部であり、居住者の責任でメンテナンスなどを行う。外壁や屋根、外構などは住民共同で所有する共有部であり、ホームオーナーズアソシエーション(HOA)が管理などを行う。
ただし、現時点ではHOAの組織が成熟していないこともあり、ボルダー市が関与しながら管理などを行っている。土地はボルダー市が所有しているが、将来的にはHOAへ移譲する予定だ。
市が約26万ドルを負担し中低所得者が住宅を購入
住まいの最新ニュース
リンク先は各社のサイトです。内容・URLは掲載時のものであり、変更されている場合があります。
イベント
内容・URLは掲載時のものであり、変更されている場合があります。
-
CLUE、塗装業界向けのAI活用による業務自動化セミナーを開催
2026.04.01
-
CLUE、塗装業の下請け脱却と売上増を目指す実践セミナーを開催
2026.04.01
-
ジャパンホームシールド、液状化リスクの評価と伝え方を解説するウェビナーを開催
2026.03.30


