中大規模木造の限界を突破する最新技術 構造・耐久・耐火の技術革新が市場を加速

 

脱炭素の追い風を受けて、成長市場として期待される中大規模木造市場。
いかに木造で大空間、大スパン、高層化を実現できるか、また、いかに耐久性、耐火性を高められるか、さらに、省施工・コスト削減を実現できるか、中大規模木造を支える技術・部材開発が加速している。

人口減から新設住宅着工戸数が減少することが見込まれる中で、非住宅、中高層住宅や店舗・事務所をはじめ住宅以外の建築物での木材利用の促進を進める動きが活発化している。

木造建築推進の法改正の後押しもある。2010年に「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律(木促法)」が定められて以降、この約15年で木造建築を建てやすい環境が整ってきた。SDGs、脱炭素化といった観点からも木材利用、木造建築に脚光が集まる。22年10月には、建築物への木材利用を促進する目的で同法が改正され、法律の題名が「脱炭素社会の実現に資するための建築物等における木材利用促進に関する法律」(通称:都市(まち)の木造化推進法)へと変わり施行された。木材利用の基本方針や、都道府県や市町村が定める基本方針の対象範囲を、公共建築物から建築物一般に拡大し、広く民間建築も含めて木材利用を促進する。また、林業・木材産業の事業者に対し、建築用木材などの適切かつ安定的な供給に努めるよう努力義務を規定した。

「令和6年度森林・林業白書」によると、我が国の24年の建築着工床面積の木造率は47.2%であり、用途別・階層別にみると、1~3階建ての低層住宅は80%を超える。しかし、低層非住宅建築物は15%程度、4階建て以上の中高層建築物は1%以下と低い状況にある。逆に言えば、今後さらに木造化が進むことで、大きな市場拡大のポテンシャルを秘めている。

26年4月から改正施行されるSHK制度(温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度)も中大規模木造市場の追い風となりそうだ。SHK制度とは、地球温暖化対策推進法に基づき、温室効果ガスを一定量以上排出する者に排出量の算定と国への報告を義務付けている制度。SHK制度の改正施行により、木材を使った建築物等を新築等により所有することとなった企業や自治体は、自らの排出量から、木材利用による炭素貯蔵量を差し引いて報告できるようになる。これに伴い、国は木材利用による炭素貯蔵量の算定や報告に関する資料や手引きを用意する予定。また、25年10月1日より、自治体や企業等が、建築物の木造化などの木材利用の推進や、木材利用の効果の見える化に取り組むことを宣言する「『森の国・木の街』づくり宣言」の募集を開始した。今後、店舗や事務所、ビルなどの建築物での木材利用の機運がさらに高まっていくと見られている。

中大規模木造市場の拡大に向けて、地域の工務店などが取り組みやすい4階建て以下の中低層の建築物の木造化を進めることが重要と言える。こうした市場ニーズに応えるために、部材メーカーの技術革新も加速している。

構造性能の進化でより広く、より高く

技術革新の一つの方向性は、より大空間を実現する、あるいは中低層の荷重に対応できる、構造性能の向上に関するものだ。(一社)日本木造住宅産業協会では、現在、最大20倍の壁倍率を目指した構造用耐力壁の開発が進行中で、4階建ての建物で1階部分に使用可能な強度を実現することを目標としている。「20倍相当になると知見が少なく、今まで提供している高耐力壁とは違うものになる。柱頭柱脚の金物から全て開発している。これまでと同様、施工性やコストを考慮して誰もが使いやすい形で提供することを目指している」。

ハイブリッド梁と狭小耐力壁が創出する大スパン空間

中大規模木造建築市場の開拓に向け、差別化を図るための武器としてタツミ(新潟県見附市)が開発したのが、「木軸」と「軽量H形鉄骨梁」を組み合わせた「TN-WOLSH Beam(ウォルシュ・ビーム)」だ。

軽量H形鋼を既製品の梁受金物を通じて木材と接合する工法を開発し、ローコストで最大12mのスパンを飛ばすことができるようにした。梁材の要として軽量H形鋼を用い、これに同じく一般流通材を上載梁材として組み合わせ、接合金物などについてもすべて既製品を使用する。これにより従来の大断面集成材を使用する方法に比べて、最大30%のコスト削減を実現。7m以上のスパンでコストパフォーマンスが向上し、8mを超えると特に効果的である。プレカット工場の全自動加工ラインの制約(梁せい450㎜、長さ6mまで)により、大断面材の加工が困難な場合にウォルシュ・ビームが選択されるケースもある。

トラス構造に比べて組み立てが簡単で、大工からの評価も高い。トラス構造では地組みに数十分かかるが、ウォルシュ・ビームは数分で取り付けが完了。また、軽量H型鋼には配管・配線ルートとしてウェブ貫通穴を設けることができ、天井高の確保にも有利である。3年前の発売以降、毎年、前年比2倍の出荷数を記録し、昨年は約100本の出荷を達成した。

25年3月には、狭小耐力壁「TN-WOLSH Burring Wall(バーリング・ウォール)」を発売した。

日本製鉄、NSハイパーツと三者で共同開発したもので、壁面材にバーリング孔付き鋼板(バーリング面材)を用い、木造の設計・施工面の汎用性をそのままに鋼材の強度と靭性を融合させ、壁長さ455㎜で壁倍率6倍相当を実現する。釘打ちは通常の木造の釘打ち機で行え、薄板鋼板の裁断も通常の電動カッターで現場切断が可能と、構造用合板と同じように取り扱うことができる。施工は枠材に面材を留め付け、構造躯体にはめ込んで枠材を専用ビスで留めるだけ。合板耐力壁と同様の設計・施工が可能で、特殊な計算や設計は不用。オープン工法で誰でも使うことができる。壁勝仕様と床勝仕様で使用することが可能で、柱材間内法寸法は350㎜と335㎜の2種、横架材間内法寸法は1860㎜~3340㎜まで対応可能。住宅や非住宅など様々な建物で使用することができる。

高耐力化、 建物の軽量化を両立

タナカ(茨城県土浦市)は、中大規模木造建築に求められる建物の高耐力化、建物の軽量化の両立に対し、「新・つくば耐力壁」、「勾配用オメガメタルブレース」の提案を強化している。幅455㎜の狭小壁に対応した筋かい耐力壁が「新・つくば耐力壁」だ。従来の「新・つくば耐力壁〈K型〉」は、幅455㎜で相当壁倍率4.1~5.0倍の耐力を確保。面材を併用し、耐力を高めることも可能だ。また、専用の柱脚金物や軸組への加工が不要で、一般の筋かい耐力壁と取付けが同様であるため、施工性に優れている。
さらに24年4月には、かねてより要望の多かった「新・つくば耐力壁〈X型〉」を追加した。〈X型〉は面材を使用せず、相当壁倍率6.3~7.0倍の耐力を確保することができる。外壁だけでなく面材を施工することが難しい室内壁への使用に最適だ。大空間に加え、開口を確保し、明るい空間を創出するため、ニーズの高い商業施設や事務所などで採用が増加している。

「勾配用オメガメタルブレース」も差別化を図ることができる製品として位置づける。同商品は、横架材間隔0.9ⅿ~3.0ⅿ(芯-芯寸法)に対応し、構面サイズに応じた水平構面の床倍率および勾配屋根の屋根倍率(勾配により屋根倍率は変動)を確保できる鋼製ブレースで、国土交通大臣指定の確認検査機関であるハウスプラス住宅保証の評価を取得している。端部金物とブレースがセットになっているのが特長で、屋根倍率一覧表から任意の構面の倍率を選択でき、構面の寸法と屋根勾配を入力するだけで、ブレースの必要寸法が選択できる計算シートも用意し、採用のハードルを大幅に下げた。また、M12ブレース仕様であるため、構造用合板と比べて重量が軽く、建物の軽量化にも寄与している。

タナカの新・つくば耐力壁の木造3階事務所の採用事例。新・つくば耐力壁を22箇所採用し、開放的な空間を実現

施工精度とスピードを両立するパネル化戦略

ビスダックジャパン(大阪府堺市)は、中大規模木造建築市場の開拓を目指し、在来工法とパネル工法を併用した独自の「在来軸組六工種」パネル構法のさらなる進化と、普及に向けた戦略的な展開を進めている。

技術開発は大阪公立大学と(一財)建材試験センターと連携し、自社試験機を導入して約3年間のプロジェクトとして進め、現在、システムの最終開発段階にある。特に注力しているのが、パネルに内蔵される柱脚・柱頭金物の改良だ。従来の引き抜き耐力46kN程度から、50〜60kNへと大幅な強化に成功。一般住宅では30〜50kNで十分だが、中大規模の非住宅建築を見据え、より高い安全率を確保した。現在は試験結果の報告書待ちの段階で、26年中の実用化を目指している。

また、パネル端部に「三角定規」と呼称する独自のガイドを設けることで、現場での垂直・直角出しを容易にし、最後の一枚までスムーズにはめ込める高い施工精度を実現している。さらに、電気配線や断熱材の内蔵も可能で、これにより電気工事の大幅な時間短縮も実現。深刻化する職人不足への有力な解決策となる。輸送面では、接合金物を内蔵しながらも平積み輸送が可能で、一般用トラックで運搬できるサイズ(1820-2000㎜程度)に設計されている。これにより特殊な輸送車両が不要で、一度に運べる枚数も多くなる。「足元では着工棟数の減少により職人が一時的に足りている状況もあるが、中長期的にはパネル化による省人化は不可避だ」(同社)とする。

山梨県では、小規模事務所の建設に、「在来軸組六工種」パネル構法が採用され、建て方から完了検査までわずか10日間という驚異的なスピードで引き渡しを行った。このような超短工期案件や離島での建設など、特殊な条件下での採用が多い傾向にある。

技術開発のフェーズワンが終了し、現在は周知と販路拡大のフェーズに入っている。地域ビルダーやプレカット工場、建材商社を主なターゲットとし、工法の魅力を浸透させていく。集合住宅や福祉施設、将来的には倉庫など、中大規模木造の「王道」から着実に実績を積み上げる計画だ。

また、大手のみならず中小企業も海外進出に向けた動きが出始めており、同社でも海外への展開も視野に入れている。

ビスダックジャパンは、在来工法とパネル工法を併用した独自の「在来軸組六工種」パネル構法のさらなる進化と、普及に向けた戦略的な展開を進めている

ビル建築を塗り替える「早くて強い」木質ラーメン構造

スクリムテックジャパン(福岡県筑紫野市)は、国土交通省の住宅生産技術イノベーション促進事業の採択を受け、令和5年度から3年間にわたり、「中層向け木質ラーメン構造に関する簡易施工方式及び設計法」の革新的な技術開発を行ってきた。

この技術開発は、従来のGIR(グルードインロッド)接合技術をベースとしながらも、現場での施工性を大幅に改善した革新的なシステムだ。構造材同士の接合部の強度を高めるため、木材に穴をあけ、そこに挿入された棒状の接合具との空隙に注入・充填された接着剤の硬化により、接合耐力を発生させるGIRという接合金物を独自に進化させた「タフネスコネクター」と柱脚金物「キューブコネクター(鋳物製)」を使用していることが特徴で、工場でGIRに接着剤の注入まで行い、接合金物を取付けた完成品を現場に納入する。さらに、柱脚のキューブコネクターはアンカー取り合い部分に親子フィラーを採用し、アンカーのズレを吸収する。また、キューブコネクターは、土台の高さに合わせて設計しているため、室内空間への金物露出は一切なく、集成材の壁柱のみそのまま現しとして使用することを可能としている。デザイン性も評価され、24年のグッドデザイン賞も取得している。

今回の技術的な進歩として、130体の接合部試験を実施し、これにより従来は実験データに依存していた設計手法から、計算式を用いた設計手法への転換が可能になった。また、接合部の耐力向上と初期剛性の向上も実現した。最も注目すべき改善点は施工性の向上だ。従来のGIR工法では現場での接着作業が必要だったが、新技術では工場で金物を事前に仕込み、現場ではナット締めのみで施工が完了する。この結果、4階建てワンフレームの建て方時間が約1・5時間に短縮され、従来の丸一日から大幅な時間短縮を実現した。

対応樹種についても従来のカラマツのみから、ヒノキ、スギ、欧州アカマツの4種類に対応範囲を拡大。これにより、全国の集成材メーカーが参画しやすい環境が整備された。

26年1月16日に(一財)日本建築センターで評定を取得。評定は3つのプランで取得されており、構造計算においてルート1とルート2の両方に対応。これにより建築確認申請での対応範囲が拡大した。

26年には、中層木造ビルの普及を目的とした一般財団法人の設立も予定されている。この組織は自社技術に限定せず、他の中層木造技術も含めたオープンな普及組織として機能する予定だ。都市部の狭小地におけるビルの建て替え需要などに対し、鉄骨造に代わる「早くて強い木造」という新たな選択肢を提示し、日本の街並みの木質化を加速させていく構えだ。

スクリムテックジャパンは、4階建てワンフレームの建て方時間を約1.5時間に短縮し、従来の丸一日から大幅な時間短縮を実現する新技術を開発

在来とツーバイのいいとこどりで大スパンを実現

ランバーテック(埼玉県蕨市)は、もともと在来工法と2×4工法の両方のプレカット事業を展開していたが、住宅着工数の減少を受け、約5年前から非住宅分野(倉庫、工場、事務所など)へ注力し始めた。

非住宅建築では、鉄骨造のような柱や壁のない大空間が求められるが、従来の木造工法には課題があった。在来工法では、スパンが6mを超えると柱が必要になりコストも大幅に上昇する。2×4工法では、72㎡ごとに区画(壁)を設ける規定があり大空間の実現が難しい。これらを解決するため、同社はものつくり大学建築学科の小野泰教授と共同で、在来工法の壁と2×4工法のトラスを組み合わせた「LIDトラス」を開発した。

約30体の実験を通じて耐力の数値化に成功し、(一財)ベターリビングの評定を取得。これにより、従来必要だったブレースや火打ちが不要となり、施工の合理化を実現した。コスト面では、重量鉄骨とは同程度、軽量鉄骨と比較して相当安い価格帯を実現している。最大22mのスパンまで対応可能で、現在の実績では倉庫が全体の6割を占め、その他店舗、スポーツ施設(体操教室、バスケット施設、ゴルフシミュレーション場など)での採用が増加している。

事業展開については、当初は自社工場のみでの対応だったが、現在は沖縄を除く全国8社のプレカット会社と提携し、日本全国への展開を実現している。在来工法の壁部分は各地の提携工場が担当し、ツーバイフォートラス部分については、関東は自社、中部・九州は各1社が対応している。

市場の反応として、年間350件程度の問い合わせがある。インスタグラムなどのSNSを積極的に活用し情報発信を強化する戦略が奏功し、フォロワー数は2万人を超え、問い合わせの約7割がエンドユーザーからとなっている。施主がLIDトラスのデザイン性や開放感に惹かれ、それを工務店に提案するという逆流の形での採用が増えている。

パネル化への取り組みでは、業界平均の2~3割に対し、同社は6割まで進んでおり、職人不足や異常気象による作業時間短縮への対応として積極的に推進している。月間5000坪の生産キャパシティを持つ大型設備を導入し、将来的には100%パネル化も視野に入れている。

今後の展望として、現在全体の1割程度を占めるLIDトラス工法を3~4割まで拡大することを目標としており、2階建て建物の1階部分でも大空間を実現する技術開発にも取り組んでいる。

ランバーテック本社の店舗兼事務所。LIDトラスにより11×18m、高さ3mの大空間を実現した

倉庫を実物展示場に採用事例の紹介サイトも

中大規模木造向けの技術・部材をフル活用した倉庫を建設し実物展示場として展開する動きや、中大規模木造向けの技術・部材の採用事例を紹介するウェブサイトを立ち上げ、戦略的に活用する動きなども出てきている。

タツミは、25年春に本社移転と物流センター移設を行い、同年秋に自社製品であるバーリング・ウォールとウォルシュ・ビームなどを使用した倉庫を建設した。延べ床面積は212㎡でコンビニと同程度の規模の建物だ。バーリング・ウォールを8枚使用し、その狭小耐力壁により開口部を大きく確保し、長尺材の搬入をしやすくした。また、ウォルシュ・ビームに関して、今回は3つのサイズのうち、中間サイズを使用しスパンは7280㎜を確保した。軽自動車1台分の重量に相当する積雪120㎝の設計荷重に対応する。同社では、この自社倉庫を実物展示場としても活用し、木材と鋼材の強みを融合させた「合理的な非住宅木造」の普及をさらに加速させていく方針だ。商品企画開発チーム主任の山田塁史氏は「来社する顧客には必ず倉庫を案内して製品の効果を体感してもらっている。実物のインパクト、訴求効果は大きい」と話す。

タツミは「TN-WOLSH Beam」や「TN-WOLSH Burring Wall」などを使用した自社倉庫を建設し、合理的な非住宅木造の実物展示場としても活用している

タナカでは、「高耐力」かつ「省スペース(スリム化)」を実現する「新・つくば耐力壁」、「勾配用オメガメタルブレース」などへの引き合いが強く、同社の部材を使用した木造の事務所などの建物が増加しているという。2026年1月には同社のサイトに「事例紹介ページ」を新たに立ち上げた。従来はメーカーとして商品単体ごとのページを提供していたが、今回初めて「こういう使い方ができる」「使った結果こういうものができる」ということを建築物として見てもらう方がイメージしやすいという考えから、事例紹介ページを新たに作成した。例えば、木造2階建て事務所での使用例では、「新・つくば耐力壁」の採用により、壁の幅を半分に抑え、空間のスペースを有効活用できることを具体的に示している。オメガメタルブレースについては、壁用や水平用があり、従来の木製筋交いや火打ちと比較して見栄えが良く、採光を取ることができる利点がある。ある店舗の事例では、窓と開口部分に使用され、光の確保と構造的な強度の両立を実現していることを紹介している。

また、実務者の利便性を考慮して、設計者や工務店が夜間や休日でも必要な情報を取得できるよう、カタログ、CADデータ、取付参考図、性能試験マニュアルなどが24時間ダウンロード可能な「ワンストップ型」の仕組みを構築している。社内の営業効率の向上にもつながっている。従来のような紙カタログの大量配布や電話対応に頼るスタイルから、Webを起点とした情報提供へとシフトし、社内の働き方改革や対応の迅速化を図っている。

ホウ酸・乾式保存処理による建築長寿命化への挑戦

木造への関心が高まる中、今後、都市においても木造が増えていくことが期待されている。ただし、木造建築物の法定耐用年数である22年で耐久性が評価され、結果として資金調達が難しくなるケースもあった。鉄筋コンクリート造の法定耐用年数は47年であることを考慮すると、木造建築物の物理的な耐用年数を適切に評価する仕組みの構築が求められていた。そこで国土交通省は、木造建築物の耐久性について、第三者評価の枠組みを構築し、25年4月以降、登録住宅性能評価機関での評価業務を開始すると発表した。これにあわせて、「木造建築物の耐久性に係る評価のためのガイドライン」も公表。いかに都市のビルなどの木造化・木質化を進めながら、耐久性を高めることができるかも中大規模木造普及の重要なポイントになる。

大手ゼネコンの木造案件にホウ酸処理が採用

近年、非住宅分野、中大規模木造建築において、日本ボレイト(東京都千代田区)が展開するホウ酸による防腐・防蟻処理「ボロンdeガード」の採用が広がっている。

浅葉健介代表取締役社長は非住宅木造市場を「新しい海」と表現し、「従来の住宅市場とは異なる大きな可能性を感じている。毎日、非住宅関連の打ち合わせがあり、地域工務店から大手ゼネコンまで幅広いプレイヤーが参入している状況。木材利用促進法の影響により、大手ゼネコンも木造建築に取り組むようになり、それに伴いホウ酸による防腐防蟻処理の需要が拡大している」と話す。

実際に中大規模木造建築において「ボロンdeガード」の採用事例は着実に増えている。具体的な事例として長野県須坂市でのゴム製造工場の新社屋(1000㎡弱)がある。この案件では、池田住建企画という工務店が元請けとなり、地場ゼネコンが下請けとして参加。少人数の工務店であり、この規模の物件を単独で完結させるのは困難であるため、専門家集団によるチームを結成しプロジェクトを進めたユニークな事例でもある。大型パネルを工場で製作し現場で組み立てる合理的な手法で建設された。

浅葉社長は、大型パネルとホウ酸処理の相性の良さについて、「工場でのホウ酸処理により雨に濡れるリスクがなく、断熱材への影響も防げるため、現場での雨リスクを回避できる利点がある」と話す。

大手ゼネコンが手掛ける中大規模木造においても「ボロンdeガード」が採用されている。CLT構造、2棟で3000㎡の規模の案件で、構造材処理が採用され、CLTのジョイント部分や仕口部分は現場では処理できないため、CLT製造工場で施工指導を行い、材料を送付して処理を実施した。そのほか、大手ゼネコン関係の仕事として、7棟で6000㎡の規模の木造建築に高さ1mまでの標準処理を実施。また、300㎡の物件も木造で建設され、同様の処理を行った。

「極めて高いセキュリティと品質が求められる大手ゼネコンの現場において、『ボロンdeガード』の技術が認められた。業界内での大きな『フィルター』を通過したことを意味しており、今後、非住宅木造市場でのさらなるシェア拡大を期待している」(浅葉社長)と話す。

中大規模木造建築においてホウ酸が選ばれる最大の理由は、「再処理の不要さ」と「鉄への腐食リスクの低さ」だという。まず、「再処理の不要さ」について、一般的な殺虫剤系薬剤は数年で揮発し再処理が必要だが、ホウ酸は水に濡れない限り効果が半永久的に持続する。壁内など再処理が困難な構造体には、ホウ酸が最適であるとされている。

「非住宅では再処理が困難または不可能な場所での施工が多いため、持続性がより重要視される。規模が大きく、再処理のコストも膨大になるため、最初から長期間効果が持続する材料を使用することが合理的」(浅葉社長)とする。

「鉄への腐食リスクの低さ」については、競合するACQ(銅系防腐剤)は、接合部のビスなどを腐食させるリスクがあるが、ホウ酸はむしろ金属の錆を抑制する性質があり、構造的な信頼性に寄与する。大阪公立大学の石山央樹教授の研究により、これらの技術的優位性が実証されている。

また、同社は25年8月より、新築向けに「35年長期保証」を開始した。この長期保証は、ハウスメーカーやビルダーなどにとっても強力なフックとなっており、住宅・非住宅の両分野で大きな反響を呼んでいる。

日本ボレイトの「ボロンdeガード」は、極めて高いセキュリティと品質が求められる大手ゼネコンの現場でも採用されている

土壌と木部の両面から防蟻対策
安全性、コスパから採用拡大

エコパウダー(埼玉県草加市)は、ホウ素系防腐・防蟻技術による木材保存剤を20年以上にわたり研究・提供してきたパイオニア企業である。同社の主力製品「エコボロン」シリーズは、ホウ酸塩を主成分とする木材保存剤。有効成分であるホウ酸塩は無機物のため揮発・分解せず、木材内部にとどまることで長期にわたって防腐・防蟻効果を発揮する点が特長だ。

同社によると、近年、中大規模木造建築への採用は着実に増加しており、2025年は前年比約1.5倍の伸びとなった。老人ホームや保育施設、医療施設、公共施設を中心に、法人事務所でも木造建築が増加しており、採用拡大につながっている。

これまで住宅を建てる際に同社製品を扱ってきた工務店が中大規模建築でも継続して採用するケースが多いが、子どもや高齢者の利用が多い福祉施設や、安全性への配慮が重視される医療施設では、自然素材由来で健康面の安心感が高いホウ素系保存剤の特長が評価され、建築主から指定される事例も増えている。直近では呼吸器系クリニックで採用されたほか、公共施設の改築でも、長期的な耐久性を評価した行政担当者がゼネコンに製品を指定するといった、性能への信頼に基づく導入が進んでいる。

齋藤武史代表取締役社長は「中大規模建築では住宅以上に建築主の意向が部材選定に反映される。建築主からの指名採用は住宅より多い印象だ」と話す。

エコパウダーの「eことアル工法」の中大規模木造建築への採用は着実に増加しており、2025年は前年比約1.5倍の伸びとなった

中大規模建築は利用者への配慮などから住宅よりも再施工のハードルが高い。また、建築コスト全体が住宅より高額であるため、ホウ酸処理による初期コスト増は相対的に小さく、再施工にかかる費用や運営への影響を考慮すると、長期性能を持つホウ酸処理は結果的にコストパフォーマンスが高いといえる。

また、中大規模木造は住宅と異なり床下空間を設けない構造が多く、床下点検ができない場合も多い。そのため、万一シロアリ被害が発生した場合でも、原因箇所の特定が難しい。こうした背景から同社は、木部処理用のホウ素系薬剤「エコボロン PRO」と、シンジェンタ ジャパンの「アルトリセット 200SC」による土壌処理を組み合わせ、土壌と木部の両面から防蟻対策を行う「eことアル工法」を推奨している。

同社は住宅向けにシロアリ対策の保証制度を用意しており、中大規模建築物で同社の製品を採用する場合には、顧客の案件に合わせて個別に保証の組み立て方などを提案してきた。しかし、近年の中大規模建築での需要の高まりに対応して、中大規模建築向けの保証制度も整備する方針で準備を進めている。

最近では、一部の中大規模建築でアメリカカンザイシロアリ対策として全構造材処理を依頼される案件も出始めている。ある大学では、新築・増築工事の際には必ず同社の製品で全構造処理を行う方針を取っているという。

AZN処理木材と表面保護のサスティンバーに脚光

木造建築の耐久性、メンテナンス性向上で、高い認知を誇るのが、兼松サステック(東京都中央区)の「ニッサンクリーンAZN処理木材」だ。業界で唯一の乾式保存処理木材で、木造建築をシロアリや腐朽菌から守り、長寿命化に貢献する。注入処理装置内に木材を入れて、減圧・加圧処理を行い、非水溶性溶媒に溶かした薬剤を注入することで、注入処理装置内で溶媒を揮発させることで木材内部に薬剤のみを留める。水を使用していないため再乾燥は不要で、木材の加工、プレカット後にも処理することが可能。注入処理木材の寸法変化が極めて少なく、納品から施工までの時間も短縮できる。エンジニアリングウッドなど、ほとんどの木質材料に対応可能だ。

中大規模木造の様々な案件で、このニッサンクリーンAZN処理木材と、表面保護(防水・耐候)技術を組み合わせた「サスティンバー」の採用が広がっている。その一つが、2025年にウッドデザイン賞最優秀賞(経済産業大臣賞)表彰を受賞した「ヤマト本社ビルA棟・B棟」。サスティンバー(AZN防腐処理+S100防水処理)を使用し、一番上の階は台風時の1㎡あたり3000Nの負圧に対応する固定計算を実施。鹿島建設の技術検証部による厳格な監査もクリアして木のサスティンバーが映える外観を実現した。

現在、建設が進む三菱地所・大林組による天神ビッグバン再開発プロジェクトにおいても、CLTを屋外ルーバーに使用する大規模案件で、AZN防腐処理と大林組指定の防水処理を組み合わせた高耐候仕様の採用が決まっている。来年竣工予定の複合施設(ホテル・オフィス・商業施設)での実装例だ。

また、同社は、中大規模木造市場の開拓に向け、営業推進部に木構造を専門とする構造設計一級建築士のアドバイザーも在籍しており、大手ゼネコンや設計事務所などに対して、設計プロジェクトの初期の基本設計段階から、中大規模建築の木造化、木質化の技術提案を強化する。

設計サポートにあたる宮崎豊氏は「建築業界が木材を使うようにはなってきたが、耐久性についてはほとんど考慮されていないことを強く危惧している。木材の3つの弱点として、簡単に曲がること、燃えること、腐ることが挙げられる。建築基準法では強度と防耐火性能は重視されるが、防腐・高耐久化についてはほとんど扱われていない。しかし、強度問題は台風や地震が来なければ問題なく、防耐火も火事が起こらなければ問題ないが、防腐については建てた一年目から始まってしまう自然劣化であり、明日から始まることを実は誰も意識していない」と強調する。この問題意識から、兼松サステックでは「長く使う」ことと「賢く使う」ことの両面でアプローチしている。

兼松サステックの「ニッサンクリーンAZN処理木材」は、上智大学四谷キャンパス15号館など、さまざまな中大規模木造建築に採用されている

都市部への進出を支える防耐火技術

中大規模木造建築において、防火耐火性能を向上させ、使用エリア、用途拡大を図ろうとする動きも活発化している。このハードルをクリアして、市場競争力を持たせることができるか、業界団体などを中心に技術開発が加速している。

ツーバイフォー協会は外壁90分耐火構造の取得へ

(一社)日本ツーバイフォー建築協会は、24年度90分耐火構造の間仕切壁(断熱材有・無)の大臣認定試験を実施し認定申請を行った。引き続き外壁の90分耐火構造の大臣認定の取得に取り組む。コスト、施工面でより合理的な防耐火被覆で、4階建て以上の防耐火構造の整備を進める。実現すれば、1階が90分耐火構造、2階から5階の4層が1時間耐火の、5階建ての木造建築などが建てやすくなる。

WOOD.ALCの1時間耐火外壁に挑戦
既存の施工体系で対応可能

(一社)WOOD.ALC協会が推進する「WOOD.ALC」は、木質材料製の耐火性の外壁材(非耐力)。倉庫や店舗、安価な事業用建物の外壁材として普及しているセメント製のALC板や、押出成形セメント板(ECP)を、木材に置き換えるという発想から誕生した。

WOOD.ALCは、厚さ100㎜~120㎜の集成材などをパネル状に加工したもので、約70%が木材で構成されている。硬質木片セメント板や木毛セメント板を木質材料のパネルで挟むことで耐火性を確保する。床面積あたりの木材使用量が極めて多く、東京都のモデル事業やグリーンビルディング投資(SHK制度等)における「木材利用による評価ポイント」を容易に達成できるポテンシャルを持っている。

WOOD.ALCの最大の特徴は、取付金具やアングルといった副資材を従来のセメント系パネルと共通化し、流通している汎用品をそのまま利用できる点にある。これにより、職人や技能者が新たな技術を習得する必要がなく、既存の協力業者やゼネコンが違和感なく採用できる体制を整えている。木造のみならず、RC造や鉄骨造の外壁としても、従来の工法そのままで材料のみを木材に置換することが可能だ。

花王のすみだ事業場内に建てられた「佑啓」。WOOD.ALCを外壁の一部に使用した

また、2011年に木製集成板外壁として準耐火60分の国土交通大臣認定を取得した。準耐火60分の事例では福島県の復興公営住宅が代表例で、鉄骨造の外壁材として使用された。

そして24年、日本で初となる木質材料だけで作られた耐火30分外壁の大臣認定取得に成功し、いよいよ防火地域での使用など、本格的な都市建築への採用が可能になった。耐火30分外壁については2件で実物件採用されている。第1号物件は花王のすみだ事業場内に、共創の場として建てられた「佑啓(ゆうけい)」という建物で25年10月に竣工した。延べ床面積2577㎡、木造(耐震構造)・地上5階建ての建物の外壁の一部などに採用された。第2号物件は西東京市の保育園を建設中だ。

さらに、都市部(防火・準防火地域)での普及を目指し、1時間耐火認定の取得に向けた開発・実証試験を継続している。1時間耐火が実現すれば、高さ30m程度(約8階建て)の建物まで全面的な木質外壁の採用が可能となり、都市の景観を大きく変える可能性がある。

さらに、従来は杉の集成材に限られていた耐火性能試験において、杉の無垢材やヒノキ、マツなど、多様な国産材が利用可能となるよう開発を進めている。

今後は外壁だけでなく、倉庫の「間仕切り壁」などへの用途拡大も見据えている。製造・供給体制については、全国の製材業者や施工業者とネットワーク(A会員・B会員制度)を構築しており、厳格な含水率管理など、品質を担保できる体制での全国展開を加速している。

非住宅・中大規模建築の木造化は、単なるブームではなく、法規制の整備と技術革新が合致した必然的な潮流となっている。戸建住宅市場が縮小へと向かう中、今回紹介したような「構造」「耐久」「耐火」の技術開発は、木造建築の可能性を大きく広げていきそうだ。