New   2026.1.21

健康主軸の住まいづくりが広がる 住宅版WELL認証がもたらす新潮流

 

人の健康や快適性に配慮した国際的な建物評価指標である「WELL認証」のうち、住宅に特化した新たなに認証「WELL for Residential」が注目を集めている。
従来のWELL認証を住宅用に使いやすく調整したもので、認証取得のハードルが低いのが特徴だ。
健康主軸の住まいづくりが加速しつつある。

近年、人々の生活様式・意識の変化に伴い、「健康」が住宅選びにおける重要な要素となっている。特にコロナ禍を経て、自宅で過ごす時間が増加し、住環境が心身の健康に与える影響が再認識されたことで、ウェルビーイングな住まいづくりに注目が集まっている。

評価対象となる10のコンセプト

こうしたなか、人の健康や快適性に配慮した国際的な建物評価指標「WELL認証」を運営するアメリカの団体IWBI(International WELL Building Institute)が、2023年5月に「WELL for Residential」をリリースした。これは、通常のWELL認証を住宅でも使いやすいように調整した、第三者による世界初の住宅向け健康認証プログラム。オフィスビルや商業施設を中心に蓄積してきたWELL認証の知見と、100人以上の国際的な専門家による科学的エビデンスを基盤にしており、戸建住宅、集合住宅、寮、アパートなど、新築・既存を問わず多様な住宅タイプに適用することが可能だ。

WELL for Residential認証とWELL認証の比較

Residentialの評価基盤となる考え方は、基本的に通常のWELL認証と共通している。「空気」「水」「光」「温熱快適性」「材料」「音」という建物の性能・設備などに関連する6つのコンセプトに加え、「栄養」「運動」「こころ」「コミュニティ」の4つを合わせた計10コンセプトがあり、100以上の評価項目で構成される。これらを複合的に評価し、点数化する仕組みだ。

一方、Residentialが通常のWELL認証と大きく異なるのが、導入・運用のハードルを大幅に緩和している点だ。通常のWELL認証では、先に示したコンセプトごとにクリアしなければならない必須項目を設けている。加えて、認証取得後も建物がその性能を維持しているかを確認するため、3年ごとの再審査と認証期間中の維持報告を義務付けている。これに対し、Residentialではこれらの要件が一切不要。導入・運用のしやすさが大きな特長となっている。

また、従来のWELL認証では取得した点数に応じてゴールド(60点)、プラチナ(80点)といった認証ランクを設けていたが、Residentialでは最大211点の評価項目の中から40点以上を獲得すれば、一律で認証を取得することが可能だ。これにより、プロジェクトの特性やオーナーの意向に合わせてクリアすべき評価項目を重点的に選択することが可能となり、自由度が格段に向上した。

なお、認証物件には認証マークが付与される。事業者は国際的な第三者評価の基準に基づいて住宅の健康価値を対外的に可視化できるようになるため、自社のPRやブランド価値向上などにつなげることが可能だ。さらに、ZEHなど高性能な住宅がスタンダードになる中、健康にフォーカスした評価は、新たな差別化要素にもなり得る。サービス付き高齢者住宅など入居者へのケアや福祉的な視点が重要となる住宅においても居住者に安心を与える要素になる。

海外で認証取得が先行
国内普及の可能性は?

こうしたWELL for Residentialの国内普及と取得支援事業を展開しているのがヴォンエルフ(東京都千代田区)だ。同社は環境・健康分野における国際認証のコンサルティングを専門とする企業。これまでもLEED認証や通常のWELL認証など、多様な認証制度の取得サポートを行ってきた。
同社によれば、アメリカやイギリス、インドを中心に世界では816戸の物件が既にResidential認証を取得。取得に向けた準備を進めている物件も約3万7000戸にのぼるという。一方、日本では大和ライフネクストが運営する法人向け賃貸社員寮「エルプレイス江坂Ⅱ」が世界で2番目、日本初となる認証を2024年8月に取得したものの、25年12月現在までに認証物件は増えていない。ただ、ヴォンエルフでは既に複数のプロジェクトで認証取得サポートを進めており、半年~1年後には同社がサポートした物件の初の事例が出てくる見込みだ。

国内初のWELL for Residential認証物件である大和ライフネクストの「エルプレイス江坂Ⅱ」

同社の水谷佳奈シニアコンサルタントは、「事前調査からIWBI(認証団体)へのプロジェクト登録、予備認証の交付を経て本認証交付という流れのため、全体の認証プロセスに1年以上を要する。日本は出だしが遅かったものの、今後2~3年以内には続々と登録プロジェクトの認証が完了し、WELL for Residentialの取得件数は大幅に増加してくるのではないか」と話す。

日本には省エネや耐震性などを示す住宅の評価指標はあるが、ウェルビーイングに着目した指標はこれまでなかった。それだけに「こうした指標が出てくるのを待っていたという声も一定数ある」(水谷コンサルタント)。しかし、日本では普及が遅れていることから、住宅業界全体における認知度が低い。現在は、大手のデベロッパーやスーパーゼネコンがビルのWELL認証からの流れで関心を示している段階であり、戸建住宅を主戦場とするハウスメーカーへの普及はこれからの課題となっている。

WELL for Residentialは、日本の住宅市場が「性能の追求」から「住む人の幸福」へと軸足を移していくための起爆剤となるか―。ヴォンエルフのような企業がこの黎明期を支えることで、数年後には「WELL認証のある住宅」が当たり前となり、日本の住まい選びのスタンダードが大きく変わることが期待される。