宅配ボックス七変化 多様化するニーズに応える提案が活発化

 

オンラインショッピングが普及するなか、国の「置き配」標準化検討など、宅配ボックスは必須の住宅設備となりつつある。一方で、宅配ボックスに求められるニーズも多様化している。大型サイズの受け取り、複数個受け取り、商品価格、外観との調和などユーザーごとに重視する項目が分かれるなか、各社は様々な提案で宅配ボックスの普及に努める。住宅メーカーから見た宅配ボックスニーズ、建材メーカーの提案それぞれを取り上げ、宅配ボックスの今を探る。


富士経済がまとめた「次世代物流システム・サービス市場の調査結果」によると、ネット通販の拡大などにより、2025年の国内宅配ボックス市場は約220億円規模と予測されており、2017年比で約2倍と拡大傾向にある。

近年は特に利用者の置き配意向が強まっている。置き配とは、受取人と直接対面することなく、荷物を指定した場所に置いて配達を完了させる仕組みを指す。ナスタの調査では置き配利用率が72%に達し、そのうち「宅配ボックス設置」が受取手段の一つとして15・8%を占めた。

需要の高まりを受け、国土交通省は「置き配」を標準化することを検討している。しかし、置き配は再配達削減の手段として効率的である一方で、盗難や誤配、風雨などによる宅配物の破損といった課題がある。こうした背景から、宅配ボックスへの期待が高まっている。

国土交通省の「住宅市場動向調査」によると、23年度に住み替え・建て替え、リフォームを行った世帯における宅配ボックスの設置率は、分譲集合住宅が85%であるのに対して、注文戸建は38・1%、分譲戸建住宅は52.8%に留まっている。

戸建向け宅配ボックス市場はまだ「成長フェーズ」にある。設置条件・利用スタイル・セキュリティ要件などが多様であるため、宅配ボックスに対するニーズも多様化している。宅配ボックスを製造・販売するメーカーの担当者は「かつてはただの箱であったが、近年は本当に様々にニーズが多様化し、商品開発を加速している」と話す。「複数荷物の収納」、「ポスト一体型」、「スマート開錠」、「保冷/保温機能」、「耐水性・防水性、耐風性」、「省施工/設置柔軟性」、「外観デザイン」、「コスト適正性」、「後付け対応性」など、まさに「宅配ボックス七変化」とも言えるほどにニーズが多様化し、宅配ボックスメーカー各社の新商品開発が加速している。

住宅メーカー各社も、多様化するニーズへの対応を急ぐ。ここでは大和ハウス工業、ミサワホームの宅配ボックスに対する取り組みを聞いた。

小型化でコストダウンし
汎用性高いビルトイン型も人気

大和ハウス工業は、2017年からナスタと協業し、門柱一体型や、スマートフォンアプリ連動型など、時代に合わせた独自の宅配ボックスを開発してきた。ただ、「戸建における宅配ボックスはオプションで付けるものであり、いまだに贅沢感、特別感のある商品といえる」と事業統括部事業管理部分譲住宅管理グループ 本間生志グループ長は話す。自社の建売住宅に採用し差別化を図る一方、注文住宅では採用がなかなか伸びていないのが現状だという。注文住宅での採用が伸びない理由の1つに、コストの問題がある。

大和ハウス工業では、据え置き型宅配ボックスを小型化し、価格も抑えた「D’s box R」を発売した

堅い需要はあるが、コスト面で課題がある。こうしたジレンマを解決し、宅配ボックスの採用を高めるため、24年10月に従来の据え置き型宅配ボックス「D’s box」を一回り小型化し、価格を抑えた「D’s box R」を発売開始した。それまでの「D’s box」は約81リットルの大容量で、スマートキーを搭載していたが、「D’s box R」は容量を「D’s box」の約半分の44リットルとし、スマートキーをシリンダー錠に変更。素材もステンレスから強化プラスチックへと変え、新たな機能を追加しながら、価格を約25%抑えた。コストダウンが功を奏し、25年4月~9月の採用実績は、24年10月~25年3月と比べ約4倍と大きく伸びた。

これまでは、門柱一体型の宅配ボックス「Next-Dbox」が同社で最も売れていたが、25年に入ってから「D’s box R」を含めた据え置き型の売上が上がっているという。技術統括部設計推進部住宅系設計室 まちなみグループ主任技術者 舘智徳氏は「我々は住宅メーカーとして、いかに建物やまちになじむかを考慮しながら宅配ボックスを開発してきた。『D’s box』は、もともとはリフォーム用に開発していたが、門塀の裏にさりげなく置く形が人気を集め、新築でも需要が伸びている。建物や外構、庭になじむデザインは、他社でも力を入れているように思う」。

同社は、需要拡大に向け、時代の流れや需要に合った刷新を続ける方針だ。舘氏は「置き配のトラブルが発生することを想定し、安全性をうまく設計の中に取り込めるような開発をしていきたい」。本間氏は「時代のニーズに合ったものを考えていかなければならない。冷蔵、冷凍もその一つ」とそれぞれ展望を語った。

ミサワホームでは、玄関外にある収納部分を使った大容量タイプの宅配ボックスの引き合いが増えている

ミサワホームは、21年以降の宅配ボックスの出荷率が年々20~30%増と堅調に伸びている。商品・技術開発本部 商品開発部 部品開発二課 飯田理 課長は「潜在的な需要はあり、伸びしろはまだある。置き配などの社会背景から考えても、今後間違いなく増えていくと思っている」とさらなる拡大を期待する。

商品は建物や外構に組み込むビルトイン型と、外構設置型の大きく2タイプあり、そのうちビルトイン型の採用が特に増えてきているという。最も引き合いが多いのが、外部収納部分を使ったタイプだ。

大容量の空間を確保できるだけでなく、玄関ドアと同等性能の扉を使用しており、室内環境に近い状態で保管ができるのが大きな特徴だ。さらにプランの段階で躯体として設計するため、汎用性の高さも魅力となっている。2017年に開発した「玄関一体型宅配ボックス」以降、いくつかのビルトイン型製品を導入してきたが、受け取れる荷物のサイズに制限があるものは採用されにくい傾向があるという。飯田課長は「最近は容量の大きいものが現場で受け入れられやすい。宅配ボックスは後で設置することもできるが、特に都市部ではスペースが確保できない場合もあり、選択肢も狭まる。建物の計画段階で置き配を考慮に入れる重要性をさらに訴求していきたい」と話す。

既に企画商品の一部プランでは宅配ボックスを標準化しており、売り上げも伸びているが、まだ戸建住宅全体において、一般的な設備とはなっていないという。さらに採用を高めるため、顧客の要望はもちろん、様々な動きをキャッチしながら対応していく考えだ。「今後、宅配ボックスを物理的に破壊されないための強靭性、高い気温や豪雨にも強い保存性など、おそらく様々な要望が出てくると思う。国や物流業界の動きを含め、様々な声を敏感に受け止めながら、商品開発に反映させていきたい」(飯田課長)。

住宅メーカー各社は、独自のノウハウで宅配ボックスを進化させ、シェア拡大を狙っている。宅配ボックスメーカーには、ハウスメーカーの要望をくみとり、製品開発に生かすことが求められている。